“我慢と孤独”を抜け出した女性が「39人の家族」で見つけた、“ゆとり”を持ち寄ることで得られる豊かさ|渋谷の拡張家族ハウス「Cift」が描く未来の生き方 #003

Text: Ai Ayah

2018.3.13

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2017年4月28日に渋谷にオープンした複合施設、「SHIBUYA CAST.」。

都会のど真ん中にあるこの場所で、血縁にも地縁にもよらない「拡張家族」になることを目的に、共に暮らし、共に働く集団がいる。名前は「Cift(シフト)」。

現在のメンバーは39名。半数以上が起業をしていたり、フリーランスのような形で働いている。ファシリテーター、弁護士、映画監督、美容師、デザイナー、ソーシャルヒッピー、木こり見習いなどなど、全員の肩書きを集めると100以上に。大多数のメンバーがCift以外にも、東京から地方都市、海外まで、様々な場所に拠点を持っていてその数も合わせると100以上になる。メンバーのうち約半数は既婚者で、何人かは離婚経験者。2人のメンバーはパートナーや子どもも一緒にCiftで暮らしている。そうした“家族”も含めると、年齢は0歳から50代にわたる。

バックグラウンドも活動領域もライフスタイルも異なる39人が、なぜ渋谷に集い、なぜ「拡張家族」になることを目指しているのか。

本連載では、CiftのメンバーでありこれまでにBe inspiredで記事の執筆もしてきたアーヤ藍が、多様なメンバーたちにインタビューを重ねながら、新しい時代の「家族」「コミュニティ」「生き方」を探っていく。

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アーヤ藍
Photo by Jun Hirayama

第3回目は、対話の場でみんなの意見を引き出したり、整理してコミュニケーションを円滑にしたりするサポートをするファシリテーターの丹羽 妙(にわ たえ)さん。最近は特に、企業内のコミュニケーションを活発化するためのワークショップ等を行っている。Ciftでもメンバーが集まって対話をする際にファシリテーションをしたり、アクティブブックダイアローグ(通称ABD)という読書法を用いた読書会を開催したりしている。また、Ciftのなかでも一番、人との物理的距離が近く、日常からメンバーにハグをしたり、マッサージをしたりと、身体的にふれあうことをよくしているのが丹羽さんだ。

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丹羽妙さん
Photography via Ai Ayah

一人ひとりが意見を持ち寄り、世界を広げるファシリテーション

アーヤ藍(以下、アーヤ):たえちゃん(丹羽妙さんのこと)はファシリテーションを仕事にしているけど、ファシリテーターとしてのキャリアを積み始めたきっかけは?

丹羽妙(以下、丹羽):10年前、学生のときに出会った「京都市未来まちづくり100人委員会」っていうプロジェクトがきっかけだね。京都でいろんな活動をしている市民、大学生から、地域の経営者やお坊さん、研究者、80歳のおじいさんまで、様々な立場・バックグラウンドの148人が集まって、京都の未来のために今したいことは何かを対話したの。そして、与えられた議題を決まり切ったスタイルで議論するのではなくて、参加者が自ら重要だと思うアジェンダをあげて、関心のある人同士で仲間を作り、実際にプロジェクトを起こして行く…っていう、参加者の主体性を最大限引き出すように考えられた形式の会なの。

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もともと、どうしたら世の中が良くなっていくか、人が幸せになれるかっていうことに興味があったから、大学で社会学系と心理学系の両方を勉強しながら、政策立案をするようなサークルに入っていたの。そこでいろんな政策を学んだり、社会課題を解決するためのビジネスプランを考えたりしていたんだけど、机の上の議論に無力感を感じていたんだよね。あと議論の仕方が、いつも是非を競い合う感じだったから、窮屈に感じてた。100人委員会はそうじゃなくて、一つの問いに対して一人ひとりが自分の考えを持ち寄って思考を広げ、しかも行動に移していく感じが、世界の広がりを感じてすごく好きだったんだよね。

アーヤ:唯一の正解なんてないもんね、そういうテーマは。

丹羽:そうそう。同じ目標を抱きながらも、みんなが自分のやりたいこと、大事だと思うことを、同時多発的に仲間と助け合いながら、アクションしていける姿がいいなって思った。

それで、その100人委員会をやっていた「NPO法人場とつながりラボhome’s vi(ホームズビー)」っていうファシリテーションを専門にしたNPOにインターンとして関わり始めたのが、ファシリテーターとして仕事をするようになった始まりだね。

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丹羽さんが所属しているNPO法人場とつながりラボhome’s viが京都伏見区の地域で企画・運営しているまちづくりコミュニティ「伏見をさかなにざっくばらん」の活動報告会「ふしざく祭り」の写真。老若男女多世代が同級生のように混ざり合って、地域を盛り立てている。

人の脆さや不確かさを感じる原体験から探していた“居場所”

アーヤ:Ciftに入ったきっかけは?

丹羽:京都をベースに東京で結婚して暮らしていたんだけど、一昨年の冬に離婚をして。最初は京都に帰ろうって思っていたんだけど、やっぱり東京でもう少し挑戦したいって思って、行ったり来たりしてたんだ。

そんなときにhome’s viに東京での仕事の依頼がきて、その面接をしてくれたのがナオさん(Cift立ち上げ人の一人・近藤ナオ)だったの。面接でいろいろ話したあとに、Ciftの話をしてくれて誘ってもらったんだよね。

後日改めてけんちゃん(Ciftコンセプターの藤代健介)からCiftのコンセプトの説明を受けたとき、考え方がすごい近いって思ったの。個別から共同へ戻っていっているパラダイムシフトの時代だっていう認識とか、社会を変えるにはまず自分自身から変わろうとする姿勢とか。意識を「自分だけ」から「目の前の人」へ、そして「ちょっと遠くにいる人」や、さらには地球全体まで広げて行くことが、いろんなものを調和して大切にできる「平和」につながるんだっていう考え方とか…。そうしたことは対話の世界で沢山の先輩から教えてもらって、自分に染み込んで来た考えで、けんちゃんはそうしたものを生活という形で社会に実装しようとしていたから、私も加わってみたいって思ったんだ。

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アーヤ:もともと拡張家族みたいなテーマは、たえちゃんにとっても大事だったんだ?

丹羽:「居場所」っていうのは私の人生のテーマだと思う。

生まれてからしばらく、父母兄とイギリスで幸せに過ごしていたんだけど、2歳10ヶ月くらいのときに父親の病気がわかって急に日本に帰り、約1年の闘病生活ののちに死んじゃったんだよね。母親は2日に1回病院にいっていて、その間、祖父母に面倒をみてもらっていたんだけど、子どもながらに大変な状況だって分かっているから、母親が病院に行くときも「寂しい」とか「行かないで」って言わずに我慢してたみたい。

そのあと、そうやって育ててくれたおばあちゃんが、私が高校生ぐらいの時に認知症になったの。野菜炒めにクッキーを入れるとか、笑えることもあるんだけど、家族の間に不穏な空気が流れることも増えて…。大好きで尊敬している人が、別人に見えてくることはショックだったし、人間の脆さや不確かさを痛感させられた。それを家族に言うことが「できない」っと思って一人で抱えていたんだよね。

そういう原体験があったから、ずっと「世界は孤独で、誰も信用しちゃいけない」って心のどこかで思ってたみたい。中高生の頃から、張り切りガールな一方で、家では甘えたり、心の悲鳴を伝えられず、代わりに女子友達にベタベタくっつくみたいなアンバランスさがあったなあ。今もCiftでもよく人にくっついているけど(笑)。安心できる人に触れることで充電したり、何かを交流させたりすることを覚えたんだと思う。

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そういう「人を信じない」っていう意識を変えてくれたのが、さっき話したhome’s viとその周りに集うコミュニティの仲間たちなんだよね。私はHSP(Highly Sensitive person:感受性が豊かで敏感な気質)だから、感情の波が激しくて、昔は、落ち込んじゃうと3日間くらい外に出られなくなったり、一切連絡をできなくなっちゃったりする時もあって…。そんな自分にさらに嫌悪感を抱いちゃうんだけど。home’s viの仲間は、復活してから「ほんとすみません!」って連絡すると、叱りながらも、「待ってたよ〜」「心配してたよ〜」って言ってくれたの。

「人のことを信頼しきれる人がいるんだ」「良いときも悪いときも、仲間として受け入れ続けてくれる人がいるんだ」って初めて感じられたんだ。人は変わることも弱いところもあるけど…不確かさも含めて愛していけばいいじゃん、って姿勢を教わったの。かつての私が感じていたみたいな社会的孤立って、実は多くの人が度合いは違えども感じているように思うから、今は、いろんな人に向けて居場所を作ることで、与えてもらったものを返して行こうとしてるよ。

「今あまりにも幸せ」 “余剰”が育む豊かさ

アーヤ:シフトに入る前の段階で大きな変化があったんだね。シフトに入ってみてからはどう?家族観の変化や、たえちゃん自身の変化はある?

丹羽:いっぱいあるなあ。でも共通項は「余剰の豊かさ」みたいなものかもしれない。

たとえばごはん。誰かが作ってくれたものを食べさせてもらったり、自分が作って振る舞ったりすることもある。誰かがもらって来た食材を、他のメンバーが料理して、みんなで食べる。1から10まで全部一人で完結させるのではなくて、それぞれができるときに好きな形でやって、持ち寄るだけで循環して、多様な恵みが味わえる。ストレスがなくておおらかで、豊かな文化だなって思う。

部屋もそう。事務所として部屋を使っている杉浦さんはミーティングスペースを部屋の中に設けているけど、自分が使わないときには開放してる。洗濯機も、多拠点生活をしているciftのメンバーはもっていない人も多いけど、持っている他のメンバーが「使っていいよ〜」って貸してる。自分が必要だから、自分が望むから持っているけど、自分が必要じゃないときは、「どうぞ使って」って分け与えることをしてる。それをみんなが少しずつやっているから、普通だったら自分の部屋一室だけが自分の空間だと思うんだけど、この13階全体を自由に行き来できる感覚があるんだよね。

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メンバーの一人が自分が使わない時に他のメンバーに開放しているミーティングスペース

アーヤ:たしかに、助け合おうっていう意識でやってる感じはないね(笑)。

丹羽:そうそう、悲壮感がない。

私にとって「家族」って言葉はハードルが高くて…。楽しいことばかりじゃないから。たとえば病気になった時とか介護が必要になったときとか、最も弱いときに帰れる場所、始末を付け合う関係性が家族っていう感じなの。貢献し合うっていうよりは、無理してでも一方的に与え受け取ることを良しとできる関係。すごく重たいものなんだよね。

余剰の文化の中で「家族」になるのだとしたら、余剰部分が大きくならないと成り立たない。それを40人分も抱えられないって思うから、私はシフトのメンバーは大切な存在ではあるけど、言葉としては、今は「家族」より「村」っていう感覚のほうが強いんだよね。家族という意識まで本当になっていけるかは、これからの挑戦だなあ。

でもね、今あまりにも幸せなの(笑)。人の作ったご飯のありがたみとか凄いの。ハグもできるし、他のメンバーの部屋に泊まりにいったりもするし、日々「満たされる」って思える家庭がある感じがしてるんだよね。
私はこの10年くらいシェア生活をしてるけど、2人とか3人だとこういう感じは成り立たない。お互いに余裕のあるときだけ分け与えれば良いこの関係って、本当に豊かだなって思うよ。

アーヤ:誰かが落ち込んでいても、誰かは元気…っていうのが40人いるとバランスがとれる感じがあるよね。頼る相手もその時々で違ったりするし。

丹羽:そうそう。表現したいものも増えたよ。お菓子を作ったり、花を生けたり、ボディケアをしたりされたり…。受け取ってくれる人がいるから、自分から「したい」って思う時が増えたかな。

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メンバーの一人と一緒に生け花を生ける丹羽さん

あとはやっぱり自分の視野が広がった感じがする。毎日のように誰かがお客さんを連れて来くるから、新しい人たちに出会えるし、メンバーが本当に多様だから、ヒッピー文化とかブロックチェーンの話とか、私には縁遠かったけど、そういうものも身近に触れる機会が増えた。何より、それぞれのライフヒストリーや生き方、暮らし方に日常で触れていると、自分がもっていた負の信念というか固定観念みたいなものが、良い意味で揺らいでいくよね。

組織と個のひずみにアプローチする

アーヤ:たえちゃんがこれからCiftでやりたいことや、Ciftを通じて探求していきたいものはある?

丹羽:うーん。一人ひとりが自分らしく、命を輝かせていく瞬間をみたくて場を作っているのだけど、それには、居場所っていうか、人が所属する集団の影響がとても大きいんだよね。だから、企業や組織の文化そのものを変えて行ったり、本音を言い合える組織文化を作っていくのをお手伝いしたり、制約があって自分を出しにくい環境にいる人たちに、自分を取り戻していくことや、居場所や関係性そのものに意識を向ける考え方を届けていきたいな。それが私なりの平和活動かなあ。

特にここ最近、ノマドとか、フリーランス、複数拠点の暮らし方、生き方の認知が広がって、働き方改革って政府も意気込んでいるけど、その裏側で、これまでの組織構造やマネジメントのあり方への違和感や限界が強まっている気がするんだよね。自由な選択が可能になっていく時代のなかで、個を管理し抑えようとする組織っていうものに対するギャップやひずみが大きくなっているんだと思う。そういうなかで、組織のなかにいながらも目覚めていくこととか、主体的に組織と自分の関係をつくっていけるようになることとかを、シフトもやろうとしているし、私も並走したり、一緒にやったりできる気がする。それ以外でも、共鳴する世界観の人たちが、これからどんどんシフトに集まってくるような気配を感じててこれからが楽しみだよ。

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 「家族なのだから〜すべき」と個を抑えて貢献することが求められ、それに反すると「家族なのに〜してくれないのか、できないのか」と非難されるような経験を、多かれ少なかれ、誰しももっているのではないだろうか。だが「家族」もひとつの組織。そのなかの個人個人が、生き生きとしていられるカタチを模索してみても良いのかもしれない。
私たちCiftが目指す「拡張家族」は、まだ実験中、模索中…だが、「余剰でつながる」関係性は、閉鎖的になりがちな「家族」観に新たな風を吹き込みうるかもしれない。

 次回の連載もお楽しみに!

Cift

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Tae Niwa(丹羽妙)

場とつながりラボhome’s vi ファシリテーター

1987年生まれ。京都大学在学中、京都市主催プロジェクト創発型審議会「京都市未来まちづくり100人委員会」に参加。これをきっかけに、場づくりの専門集団、NPO法人場とつながりラボhome’s viに入門、2013年当団体のファシリテーターとなる。個性の輝く組織と社会づくりにむけ、企業、大学、市民組織に向けて、葛藤や対立などの感情を扱うコミュニティファシリテーションから、イノベーティブなアイディアを生み出すデザイン思考、自分の内面に気づく内省と学びの場まで、幅広いワークショップを展開する。その他の活動として、中小企業基盤整備機構経営支援部人材支援グループ人材支援アドバイザー コクリ!プロジェクト スタッフ

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Ayah Ai(アーヤ藍)

1990年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。
ユナイテッドピープル株式会社で、環境問題や人権問題などをテーマとした、
社会的メッセージ性のあるドキュメンタリー映画の配給・宣伝を約3年手掛ける。
2017年春にユナイテッドピープルを卒業し、
同年夏より「ソーシャル×ビジネス」をさらに掘り下げるべく、カフェ・カンパニー株式会社で精進中。

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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