「弱さをさらけ出す」ことが強さになる。今の時代の「男らしさ」にアートで疑問を投げかける24歳のアーティスト<バネレ・コーザ>|南アフリカ、ネットグローバル時代におけるアイデンティティの模索 #002

Text: マキ

Photography: マキ

Artwork: Banele Khoza

2019.1.11

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南アフリカにスポットライトを当て、現地で活躍する若手アーティストの紹介を通じて、アイデンティティの向き合い方を考える本連載、「南アフリカ、ネットグローバル時代におけるアイデンティティの模索」。第2回目となる今回紹介するバネレ・コーザは、1994年生まれ、現在24歳のアーティスト。出身はエスワティニ王国(旧国名:スワジランド)ですが、2008年に南アフリカに移住し、現在は行政首都のプレトリアに在住しています(南アフリカは、立法首都をケープタウンに、司法首都をブルームフォンテーンにおいています)。

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バネレ・コーザ

バネレは、アクリル絵具とインクを使用したパステル調の絵画で知られていますが、学生時代はファッションデザインを学んでいた経験も。ツワネ工科大学で芸術を専攻し、同大学で、デッサンと芸術理論の講義も受け持っていた経験もあり、現在はフルタイムのアーティストとして活動しています。ヨハネスブルグには自身のギャラリースペースも持っています。

若手アーティストですが、これまで複数の個展を含む、10以上の展覧会を開催。パリで毎年開催されるアフリカのコンテンポラリー・アートフェア、AAKA(Also Known As Africa)など、数々のアートフェアでも作品を出展しています。

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バネレの作品は、淡い色調をベースとした色使いと、夢の中のようなタッチで描かれた人物像、テキストも使用した強いメッセージ性のある作品が印象的です。

「私のアート作品は、経験について書いたり、記録したりすることへの興味がルーツになっています。いろいろと適当なモノを対象に描いていたときは、自分と作品との間に距離を感じていました」とバネレ。

メキシコ人画家、フリーダ・カーロの「自分自身のことを一番分かっているから、自画像を書く」という言葉との出会いをきっかけに、より自分の感情に関係する事柄や人物に作品の焦点を当てるようになったそうです。

他ならぬ自分自身をテーマにすることは、作品を生み出すにあたって「自分自身をアート作品の題材にするのは、より自然なことに思えた」と彼。

LGBTQ+について…南アフリカ社会はまだまだ遅れている

バネレの作品にはしばしば男性のモデルが登場し、セクシャリティ(性的嗜好など性的な事象)やマスキュリニティ(男性性)が題材となっています。

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例えばこの作品では、モデルがよく男性ファッションの広告などで見られるようなクールかつ注目を求めるようなポーズをとっていますが、作品の下部に暗く塗りつぶされた部分がその注目を回避させるような意図的な対比として提示されています。いわゆる商業化されたマスキュリニティの概念に挑戦するような作品となっています。

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こちらの作品でも男性がモデルとなっていますが、一般的にいうとまだ女性的なイメージが強いピンクや赤などを多用することで、今の時代の既成概念に挑戦しています。左の作品は「They think I am sad(悲しいと思われている)」、右は「At peace(安らかに)」といった感情に触れるようなタイトルがつけられています。

アフリカの国々というと、性的指向やLGBTQ+のトピックに関して革新的というイメージはないかもしれません。実は、南アフリカは、1996年に制定された新憲法において身体的な性別(sex)、社会的な性別(gender)、性的指向いずれによる差別を禁ずることを明記した世界初の国です。2006年には同性結婚も合法化されています。しかし制度的には革新的である一方、性的指向やジェンダーに関する人々の意識は、必ずしも最も革新的というわけではなさそうです。

南部アフリカ地域において、性的指向やジェンダー・アイデンティティの自由と平等の推進を図る団体、The Other Foundation(アザー・ファウンデーション)が2016年の9月に公開した調査統計の報告書によると、南アフリカの51%の人々がゲイの人々にもほかの国民と同じ人権が保障されるべきだという考えている一方で、72%の人々が同性同士の性的関係については「倫理的に間違っている」と感じているという結果が出ています。約半数の南アフリカ人が、家族や知人に同性愛者がいた場合「受け入れる」と回答しています。一方、実際に同性愛者の家族や友人の知り合いがいると回答したのは約4人に1人という結果でした。

「人々は知らないことに対して、恐怖を感じています。結果的に社会や宗教が決めたことを信じてしまうのだと思います」とバネレは分析しています。LGBTQ+を取り巻く環境に関して、南アフリカはまだまだ遅れているという実感値があるようです。

興味があるのは、モデルたちの姿ではなく心の中

人物像がよく描かれているバネレの作品には、感情的なつながりを感じさせるものが多くあります。そうした作品づくりの背景には、バネレならではの作品づくりに対するこだわりがあるようです。

モデルを描くにあたって、バネレはモデルたちがリラックスできるように、椅子やビーン・クッションなどに座って自由にポーズをとってもらうそうです。また、モデルがリラックスできるポーズを探っている間に、さまざまな話をして信頼関係を構築しているといいます。

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モデルたちの心の中に入り込みたいというバネレ。モデルたちが感情的、精神的に解放的になるだけでなく、バネレ自身も自らの話をして、さらけ出すことが重要な要素であるようです。

「グローバル社会の中で、わたしたちは孤独です。外に出ず、スクリーンに向かって長時間労働することに重きが置かれている。面と向かった形でのコミュニケーションが欠けていて、皆がもっとリアルな経験を求めている」と彼は言います。

実際、バネレ自身も1人で引きこもっていることが多いそうです。モデルの心をさらけ出し、それをアート作品として表現していますが、内心ではモデルにももっと自分のことを知ってもらいたいという欲求もあるそう。

The Power of Vulnerability:「弱さをさらけ出す」ことが強さになる

バネレはモデルとともにアート作品を作る過程において、モデルたちの内面を探り、自らもさらけ出そうとしています。しかし、自分をさらけ出すことは、簡単ではありません。特に、アーティストでない普通の人々にとってはより難しいことかもしれません。

「幸運なことに、私はいつも隔離された場所で作品を作ってきました。私にとっての作業は、アート作品を作るというよりは、(自分の感情や経験を)キャンバスに打ち明けているような感覚かもしれません」とバネレ。

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彼は、The power of vulerability(弱さをさらけ出すことの強み)について、米国ヒューストン大学ソーシャルワーク大学院研究教授、ブレネー・ブラウンの研究からも学びを得たと語っていました。研究結果を題材にしたThe power of vulnerabilityは、2010年の公開から約3,770万回以上の再生回数を記録している有名なTEDxのトークとしても公開されていますが、自分自身をさらけ出すこと、理想や完璧を追い求めるのではなく、ありのままで十分な状態であることを認めることが、人々が他人を思いやり、自分自身の人生を満足させる鍵となるというメッセージが発信されています。

既存の社会において「性的マイノリティ」の人々は、もしかしたら否が応でも、vulnerableな(傷つきやすい)状況にあるのかもしれません。しかし、まさに「さらけ出されたリアルな感情と経験」こそが、バネレのアート作品の制作プロセスや作品が持つ強さや力なのではないかと思います。

わたしたち一人一人が、個人のアイデンティティを探求し、さらけ出すことの強みを認識することこそが、ジェンダーの壁を超えて、人々が多様なジェンダーや人間関係、恋愛関係のあり方を互いに認め合うための第一歩かもしれません。

Banele Khoza(バネレ・コーザ)

エスワティニ王国(旧国名:スワジランド)出身、南アフリカ在住のアーティスト・インテリアデザイナー。アクリル絵具とインクを使った、パステル調の人物画が代表作品。ヨハネルブルグの中心地にスタジオ兼ギャラリーを持つほか、アフリカ初の本格的な現代アート美術館 Zeitz MOCAAでの個展も開催。

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マキ

Maki & Mpho LLC代表。同社は、南アフリカ人デザイナー・ムポのオリジナル柄を使ったインテリアとファッション雑貨のブランド事業と、オルタナティブな視点を届けるメディア・コンテンツ事業を手がける。オルタナティブな視点の提供とは、その多様な在り方がまだあまり知られていない「アフリカ」の文脈における人、価値観、事象に焦点を当てることで、次世代につなぐ創造性や革新性の種を撒くことである。

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