畑からお届け。モデル・ベイン理紗の連載がスタート|FEEL FARM FIELD #000

Text & Artworks: Lisa Bayne

2021.9.21

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こんにちは、ベイン理紗です。
この連載「FEEL FARM FIELD」では東京で活動をしている私が山梨に畑をもつ中で出会う人についてや発見を綴っていきます。
「FEEL(五感を)FARM(農から) FIELD(広げていく)」という意味を込めて、3つのキーワードをもとに、知らなかったこと・知りたいこと・分からないことに愚直に向き合うことの楽しさ、面白さをお届けします。
この記事を読みながら、頭と身体で五感や繋がりを感じること、日々転がり落ちている興味を拾い上げてみることを一緒にできたら嬉しいです。
それぞれの頭も身体も心も、それぞれのものでしかないのだから。

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はじめまして

改めまして、ベイン理紗といいます。
都内の大学で芸術学を学ぶ傍らモデルやアーティスト活動をしています。
小学校はサッカー、中高はバスケとスポーツ漬けだった日々から表現の面白さを知りたくなって、大学に入学と同時にモデル活動を本格化させました。
日々自分の中にインプットした景色や情報を記録することが好きで、大学で写真を専攻しながらコラージュやペイントといった形でアウトプットを繰り返しています。
とあることをきっかけに、今年の5月から山梨県北杜(ほくと)市に畑を持ちました。月に2回ほど山梨へ行き、自分の畑作業や現地の農家さんを手伝ったり勉強したりしています。
今回は、私が食と農に興味を持ってから畑を持つまでの話と、私がこの連載を通してお伝えしたいことを綴っていきます。

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食事が20歳まで生きる気力を与えてくれた

もともとスポーツをやっていたこともあって、よく食べるし、運動が好きだった。でも今から約3年前、大学に入学してから数ヶ月の間で食事をとることができなくなり、最終的に入院し・検査をすることになった。19歳になった次の日に結果がやってきて、胃の悪性腫瘍と機能性消化器官障害と診断されたのだった。正直生きる気力はなかったし、身も心もやせ細ってしまって家族や友人に打ち明けられないまま、時間だけが流れてた。
手術が完了して投薬治療と食事療法も行なっていたわけなのだけど、とにかくそれが嫌で。
食事制限や食べられなくなった身体に栄養を入れるばかりで、食事することの楽しみや食べることの喜びが分からなくなっていた。“このまま死んでいくなんて絶対にごめんだ!”と心の底から思った。美味しいものを食べられるようになりたいという願望が、少しずつ生きる気力になって半年後にはフルマラソンを完走することができていた。
それからしばらくは、食事制限がある中でどんな美味しいものを食べるか。自分に必要な栄養素はなんなのか。体にも心にも優しいご飯を食べたいと思うようになり、それが派生していって、生きているうちにできること、知りたいこと、経験しておきたいことについて考えることが徐々に増えていったのだった。

「源」について考え始めたことで、自分の中の「なんで?」を知りたくなった

無事に20歳を迎えられたと思いきや、すぐ新型コロナウイルスが世界中に広まった。
世界各地が混乱に陥っている中で、きっとそれぞれが”正解”や”答え”を探してステイホームしていたのだろうと思ってる。私はその一人だった。
発生源が中国の武漢市内にある食肉市場であると推定され、中国人をはじめとしたアジアンヘイトが広まりつつあった時、妙な違和感を感じていた。
新型コロナウイルスや食肉市場、アジアンヘイトに対してはもちろんだけれど、その時の違和感は、ほぼ毎日食と関わっている私たち自身に対してのこと。
日々当たり前のように食べる行為をするのは私たち自身であって、どんな素材のお肉を使うのか、どこからこの食材がきたのかきちんと知ろうとしたことあったっけ?
いま目の前においてある「食事」に対して生産源を考えながら口にしていた人はどのくらいいたんだろうか?もしみんながそのことを考えていたら少しは変わっていたのかな?とか。少なくとも私は、特別意識して自分の口に運ぶ機会はかなり少なかったと思う。
食と関わりの深い場所がきっかけでこのパンデミックが起きたとするのなら、問い詰めて考え直すべき部分は、その食材を選択した私たち自身なんじゃないか?とさえ思い始めてた。
それからステイホーム中は、試しにヴィーガン料理を続けてみたり、庭で野菜を育ててみたり、近所の無人販売を利用してみたりしてた。
あの人が作った野菜、誰かが運んできてくれた穀物、このお店がセレクトした調味料を私が食材として使って料理をすることによってそれぞれの日々が成立する。それらを口に運ぶことによって私が成立している。というルーティーンみたいなものが、自分の中の安心感になる瞬間があった。
そんな風に一人で悶々と考えてたり挑戦してみたりしていたことを、ちょうどイスラエルから日本に帰国して隔離中だった友人とテレビ電話で話した。
古山憲正という人物だ。
憲正は、イスラエルの「キブツ」と言われる共同体の地域で過ごしたのちに現在山梨で「0site.」という持続可能な生活や原点回帰できる場所作りを提供しようと活動している。
そして、私が畑を持つきっかけを作ってくれた人物である。
憲正に自分が思っていることや考えを口にしたおかげで、奥底にあった不安が消えていくと同時に、もっとこの不安や疑問を探れる場所がどこかにあると思い始めていた。
これが、2020年6月ごろのはなし。

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初めて生産者と話し、その商品を手にしたことで広がった価値観と興味

そんな矢先、NEUT Magazineの編集長である潤くんがとある企画に声をかけてくれたことが私の中で大きなきっかけになった。
それが「NEUT MAGAZINE2周年記念MATTER OF CORONA “FOOD” 編」でみかん農家の若松優一郎さんへ取材したことである。
直接生産者がいる環境にはいなかった私にとって、生産者本人と会話するというのが未知だった。
自身の手で代々時間をかけて育て上げた「みかん」を販売する若松さんと、スーパーで購入して家に着いたらすぐ「みかん」を口に放り込むことができてしまう私が会話する。二人の間でどんな会話が生まれるのだろうか、と不安と期待を持ちながら、まず若松さんのつくるブランド「Tangerine(タンジェリン)」のジュースを購入し飲んでみた。そしてある程度のリサーチをした上で若松さんとテレビ電話での取材をした。
世界各地を飛び回り自分の“好き”にまっすぐ向き合いながら、見た景色や感じるものを吸収した中で自ら作り上げたものを愛媛から届ける。粒からなる土やことばを交わすことのない自然や生き物を通してアップデートされていく感性や気づき。そして、若松さんがつくるみかんをもとに繋がっている人や場所が東京をはじめとした各地に存在していること。
いままで無縁だと思っていた“食事”の源を提供している人と話したことによって、取材前に購入したTangerineのジュースが私の中で特別なものになった。1つの種から実が成り、口へ運んで血肉となる行程をきちんと見て知りたいという興味が湧き始め、1つの食をきっかけに人と人とが繋がっていく場面を目にしたくなった。

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取材前に購入した”Tangerine”のジュース瓶は今でも大切に持っている。

畑を持つまでの準備期間として迎え入れてくれた、「ベランダファーム」

今年に入ってまた憲正と会う機会があり、いつものようにたわいもない近況報告をしながら、NEUTでの取材の話をしたところ、「FARMERS AGENCY(ファーマーズエージェンシー)」のこうきさんを紹介してもらった。FARMERS AGENCYという組織は農家さんの生産補助をはじめとした農業支援事業や、世田谷区松陰神社にある「イエローページ with プラスヤオヤ」という八百屋など農家さんや野菜を通してコミュニティをつくってくれている会社である。 こうきさんは、何も知識や経験がないけれどこの1年の出来事や考えていることを話す私の話をじっと聞いてくれた。目を見てメモを取るこうきさんを前に、必死にベラベラと喋り続けた。そして、私の畑を持つまでの道のりが本格化することになる。 まずこうきさんが私に用意してくれた場所は「ベランダファーム」というプロジェクトだった。このプロジェクトは、東京のベランダでもできるような農作業をコンセプトに活動している。山梨県北杜市から持ってきた土を手作業で仕分けしながら、現地の大工さんが廃材で作ってくれた木箱や、いらなくなった容器を使って野菜を育てるというものだ。 このベランダファームについては、また他の連載の回で詳しく書いていこうと思っている。 畑を持つまでの準備期間として、東京で土に触れたり畑や農と関わっている人々が次々と現れたり、交流が増えていくようになった。これが2021年4月のはなし。

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まなざしで、肌で、言葉で伝えながら繋がりが広がっていくこと。そしていざ山梨へ

いざこれから山梨へ自分の畑を耕しにいくのだけれど、連載を迎えるにあたって私が大事にしたいことが2つある。
1つは、五感をトピックとして話を展開していくということ。
自分の目で源を知れること、美味しい匂いがすること、“死んでたまるか”と悔しがれること、“なんで?”と思考を止めないでいること。簡単そうで難しい私たちに備わっている感覚を存分に使えることの素晴らしさを伝えたい。日々情報が増え続ける中で、自分の感覚と1つでも向き合ってみるきっかけになるような、そんな連載になったらいいなと思う。
2つは、五感と食と人が通じてみんな繋がっているということ。

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3年前の病気から始まって、最初は食事することが嫌になっていたし、人と交流することも生きることにも消極的になっていたけれど、ふとした疑問に向き合ってみたことをきっかけに、明日が楽しみになる希望を知ることができている。素材を作っている人がいるから、素材を使う人がいる。その素材を使った料理を好む人がいるから、人が集まってくる。人が集まってくるから、そこで何かが生まれていく。
その繰り返しなのか、そうじゃないのかはまだ分からない中で、どこまでも繋がっていることの面白さやその過程をこの連載で知ってもらいたいと思った。
そしてこの記事を読んでくれたあとに出くわすふとしたきっかけや気づきがどんな形でそれぞれに影響を与えてくれるのか?私にとってそのきっかけが畑だったにすぎないのだ。
#001では山梨の畑のお話からお届けします!

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ベイン理紗 

東京工芸大学芸術学部写真学科在学中。モデルとして広告やMV等に出演するほか、アルバムジャケットのデザインや展示を積極的に行なうなど、表現媒体にとらわれない活動を続けている。日常生活から生まれた自らの記憶や体験のインプットとアウトプットを記録し続けたノートはこの5年間で100冊以上存在し、等身大に生きることや興味を絶やさないことを大切にしている。2021年5月より山梨県北杜市に畑を持つ。
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アーティスト/モデルとして活躍するベイン理紗が山梨に畑を持つなかで出会う人についてや発見を綴っていく連載
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