韓国のインディペンデントパブリッシャー「6699press」を訪れて感じたこと|編集長JUNのコラム「FREE WORDS」#002

Text & Photography: Jun Hirayama

2020.2.21

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さんがにちが終わるころ、3泊4日で韓国・ソウルへ旅行をしてきた。海外旅行は2年ぶり、韓国は5年ぶり(3回目)。言葉は通じないし、文字も読めない。そんな隣国へ久しぶりに訪れることにワクワクし、金浦空港直行便のチケットをにぎりしめ、羽田空港へ向かった。

旅の目的は、仕事ではなく、韓国料理の食い倒れだったけれど、せっかくなら、以前カモメブックスの柳下さんの連載記事で登場したソウルのインディペンデントパブリッシャー「6699press」をやっているJaeyoung(ジェヨン)に会ってみたいと思い、旅の前日にせかせかとインスタを開き、DMしてみたら、すぐに返事をくれて、ソウル市内の若者の街ホンデにある彼のオフィスに招いてくれた。

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いざ「6699press」のオフィスへ

1月のソウルは東京よりも寒いと聞いていたがそんなこともなく「天候に恵まれたなぁ」なんて浮かれていたのも束の間。「6699press」のオフィスを訪ねた旅の3日目はあいにくの雨。ホンデ駅についた僕は、韓国では役立たずのグーグルマップを一応開き、ピンをしておいた場所へ向かった。冷たい雨に打たれること30分。1ミリも解読できないハングルの看板が立ち並ぶ見知らぬ大通りを独りでてくてくと歩いていると、彼のオフィスであろう雑居ビルにたどり着いた。15時の約束の時間に少し遅れて到着した僕は、早足で階段を3階まで上がり、オフィスに入るとDMを交わした“あのジェヨン”があったかいお茶を用意して出迎えてくれた。

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「6699press」のJaeyoung(ジェヨン)

お隣の国の僕らの仲間

テーブルに案内され、雨が染み込んだコートを脱いで、「チョウム ペッケスンニダ(韓国語ではじめましての意)」と挨拶した僕に、ジェヨンは「はじめまして」と日本語で返した。

僕は学生時代に1年間留学したカリフォルニアでできた韓国人の友達が教えてくれた簡単な挨拶や日常でよく使う言葉くらいしか韓国語を知らなかったが、彼は日本語を少し話せるようだった。

お互いちょくちょく日本語や韓国語の単語をはさみながら、基本的には英語で会話した。彼も僕も簡単な会話レベルでしか英語ができなかったので、自分のことやNEUTのことをちゃんと説明できるか、そして相手が話していることをちゃんと理解できるか不安だったが、グーグル先生に頼ったりして、難なくコミュニケーションを取ることができた。

もともとグラフィックデザイナーだった彼は、2012年にグラフィックデザインスタジオ兼インディペンデントパブリッシャーである「6699press」を始めた。「6699press」はマイノリティや社会問題を取り扱う本しか出版しない。また彼の出版物は、読者を限定せず、多様な立場の人々と様々な世代が共感できるコンテンツを作ることに集中しているという。

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6699pressが出版した同性愛者と異性愛者が”カミングアウト”について話し合う内容の本「6」

国籍も言語も違うし、年齢も僕よりも10個くらい上だし、育った環境や出会った人も異なるはずなのに、NEUTのコンセプトと重なる部分がたくさんあって、話はもちろん盛り上がったし、「仲間がここにもいてくれた。ありがとう」と心の中で思った。そして、完全に打ち解けた僕らのおしゃべりは、一瞬で2時間を平らげた。

外はまだ雨がポツリポツリと降っている。余裕で“おしゃべりのおかわり”はできたけど、仕事を邪魔をしてはいけないと思い、後ろ髪惹かれながらも僕はオフィスをあとにした。

「도쿄에서 또 만나요(また東京でね)」

日も暮れてきた18時頃。ホンデの駅の近くまで戻ってきた僕は、ジェヨンにおすすめされた本屋「THANKS BOOKS」に立ち寄った。かっこいい装丁の本や雑誌が多い本屋さんで、目も時間も奪われてしまい、中身を理解できないのに、気づいたら1時間以上もそこに滞在していた。ちょうど本屋さんを出た時に、ジェヨンからDMがきて「まだホンデにいて、そのあとに予定ないなら夜ご飯でも食べよう」という誘いがあり、予期せず“おかわり”が決まった。

「THANKS BOOKS」で働いている彼の友達が教えてくれた近所の韓国味噌の料理屋さんへ向かった。「これもおいしいよ、あれもおいしいよ」とすすめてくれた韓国料理をいろいろ頼み、二人前とは思えない量のごちそうが食卓に敷き詰められた。

「やっぱ韓国のキムチはおいしいなぁ」とか思いながら、相変わらず完璧とは言えない英語で会話をしていたときに、ふと「離散家族」の4文字が並んだグーグル翻訳のスマホ画面を僕に見せながら、「6699press」で初めて出版した本の紹介をしてくれた。

『우리는 서울에 산다(私たちはソウルに住んでいる)』というタイトルのその本は、ソウルへ逃げてきた脱北青少年をテーマにしている。内容は、その脱北青少年が描いた絵と撮った写真を織り交ぜて、少年の経験と記憶が綴られたもの。非常に敏感で難しいテーマではあるけど、この本が南北の離れた境界を少しでも狭める役割となることを信じていると彼は語ってくれた。

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『우리는 서울에 산다(私たちはソウルに住んでいる)』のとあるページ

彼が食事中に「もともと同じ国だったから、元通りになってほしいんだよね」と打ち明けてくれたとき、(会ったばかりで言い過ぎかもしれないが)彼の友達として、彼の実現したい社会のためになにができるのかちゃんと考えないといけないなと思った。そして、もっともっといろんな人と対話を重ねて、自分が誰のために存在したいのか、何を学び、何を知りたいのか、どんな社会がほしいのかをより明確にしていかないとなと感じた。

本来の旅の目的は、韓国料理の食い倒れだったけど、ジェヨンのおかげでお腹だけでなく、胸もいっぱいになって帰国した。彼は4月に東京にくるらしい。「도쿄에서 또 만나요(また東京でね)」。

6699press

WebsiteInstagram

6699pressは、デザイナーの社会的役割に悩んでいたソウル在住のグラフィックデザイナーJaeyoungが2012年に創設したグラフィックデザインスタジオ兼パブリッシャー。6699pressの「6699」には、社会に必要な言葉、言うべき言葉、重要な言葉に「“”(6699/ / ダブルクオテーションマーク)」をつけるという意味が込められている。6699pressではJaeyoungがまだ世の中に足りていないと思う情報やストーリーをデザイン性の高い装丁で出版している。

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