中国当局に追放された現代美術家アイ・ウェイウェイが、2時間にも及ぶ「難民映画」に詰め込んだもの『ヒューマン・フロー 大地漂流』|GOOD CINEMA PICKS #019

Text: SHIORI KIRIGAYA

Photography: ©2017 Human Flow UG.

2019.1.7

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スマートフォンを使ってインターネットに接続すれば、世界に暮らす人々がどんな生活をしているのか、ある程度は知ることができる。それと同様に「難民」に関する情報も、日常的に流れているが、これも断片的なものにすぎない。

2011年にはタイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選出された、現代美術家であり社会活動家のアイ・ウェイウェイは今回、ドローンやスマートフォンを使い、世界規模の難民危機の巨大な流れをとらえた。それがドキュメンタリー映画『ヒューマン・フロー 大地漂流』で、まもなく日本でも公開される。

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アイ・ウェイウェイというアーティスト

この映画を紹介する記事では、すべてといっていいほど、アイ・ウェイウェイという名前が先に出てくる。彼は、一体どんな人物なのだろう。2008年に北京五輪のメインスタジアム「鳥の巣」の設計に参加したことで一躍有名になり、翌年東京の森美術館で行われた日本初の個展“アイ・ウェイウェイ展ー何に因って”には46万人が来場するなど、社会や人が持つ価値観への鋭い視点と、幅広い表現手段が世界的に注目されている。さらに知られているのは、中国の象徴ともいえる「天安門」に向けて中指を立てるという、反骨精神に溢れた作品だろうか。

そんな彼は、中国の北京市でともに詩人だった両親のもとに生まれたが、父親が政治的な理由で糾弾され、家族で故郷から追放される。アイ・ウェイウェイ自身もその後、尽力していた人権活動や世界的に注目を集めた政治的な制作活動により、政府に目をつけられて監視され、幾度も理不尽に自宅で軟禁されたり展覧会の開催を禁止されたりしただけでなく、投獄されたこともある。彼が創造にあたって、社会の矛盾や問題と直接向き合うことを重視するスタイルをとるようになったのには、そのような過去の経験が関係しているといっていいだろう。また、今作からも垣間見えるが、社会的な弱者と同じ立場に立つ姿勢でいることについても、同様だ。

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左からアイ・ウェイウェイ、保護された難民の青年。ギリシャのレスボス島にて

2015年秋に出国して以来一度も中国へ戻っていないアイ・ウェイウェイは、現在ドイツのベルリンに巨大なスタジオを構えて難民問題に取り組む。それは中国の政府当局が、同国の内政批判的な活動をしないなどの条件つきで彼のパスポートの所持を許可しているという事実があるからかもしれない。彼自身もある意味で難民なのだ。

世界で深刻化する、人の流れの問題

では、彼がドキュメンタリー作品の題材とした「難民問題」はどれほど深刻になってきているのか。世界の難民は、ここ10年間で約2倍に増えており、国内での強制的な移動を余儀なくされた国内避難民を含めると、世界人口の1%弱に相当する6,850万人にのぼるという。

23カ国40カ所の難民キャンプと国境地帯を巡る同作からは、過去から続く難民問題の悪化の状況や、安全な暮らしを求めてヨーロッパに向けて困難な道程を進む人たちや、搭乗可能人数をはるかに超える人びとが乗り込んだボートが岸にたどり着く様子などを淡々ととらえる。彼らはスマートフォンを持ち歩いており、Wi-Fiがあれば残してきた家族と連絡をとる姿も見受けられた。それが、居住地を離れることを余儀なくされた難民の一つの姿なのだ。

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2時間20分間でアイ・ウェイウェイは何を伝えたかったのか

本作の長さは2時間20分。映画としては比較的長いが、難民が経験する現実がどの程度映されているのだろう。彼らの数ヶ月、数年間あるいはそれ以上の歳月に及ぶ物語をどのようにして観客に体験させ、どう考えさせるかが、製作陣が本作で重点を置いた箇所である。そしてインターネットの発達やグローバリゼーションが進んで“狭くなった”世界における難民問題の全体像を、ほかの映画にはないスケールで描いているところが本作の特徴だ。

アイ・ウェイウェイはインタビューでこんな発言をしていた。彼は芸術家として、映像内に時折演出を用いることで、集合体としてみられがちな難民たちの「人間らしさ」の表現を試みている。

人間は、誰かに困難が降りかかった時や危機が差し迫った時、自分のことのように実感する必要があります。人間同士にそのような信頼がなければ、隔たりや境界線を感じて互いに誤解し合うでしょう。そんなものが作り出す未来に、決して光はありません。

『ヒューマン・フロー 大地漂流』

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2017年ヴェネチア国際映画祭5部門受賞
監督・製作:アイ・ウェイウェイ
製作:チン-チン・ヤップ、ハイノ・デッカート
製作総指揮:ダイアン・ワイアーマン『不都合な真実』
編集:ニルス・ペー・アンデルセン『アクト・オブ・キリング』
原題:HUMAN FLOW
2017年/ドイツ/ビスタ/5.1ch/2時間20分
日本語字幕:チオキ真理
後援:国連難民高等弁務官(UNHCR)、認定NPO法人 難民支援協会
配給:キノフィルムズ/木下グループ

1月12日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

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