「障がいか、才能か?」 現役大学生による、カルチャーと福祉をファッションでつなぐ“生のアート”プロジェクト【A-BRUT project】|GOOD WARDROBE #014

Text: Sonsil Ryang

Photography: Niko Wu

2018.11.2

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スマホさえ持っていればなんでも検索できる現代社会。長時間のスマホ利用やスマホ歩きが問題となっているが、顔を下げて画面に集中している時間のせいで、私たちは日常で何気ないときに出会える「素晴らしい遭遇」を見落としているのではないかと疑問に思うことがある。

パワフルで躍動感溢れるタッチや色彩。純粋な感情が溢れた表現で見る人に衝撃を与え、まさにこれぞ「一度見たら忘れられない」という表現がピッタリなアート、「生の芸術」をご存知だろうか。この「生の芸術」をファッションやデザインを通して多くの人に発信する「A-BRUT project(えーぶりゅっと ぷろじぇくと)」という大学生が立ち上げた非営利プロジェクトがある。運営代表者である関口佳那(せきぐち かな)さんもまた「たまたまふらっと入った」アート展で「生のアート」に遭遇し、衝撃を受けたひとりであるという。

「生の芸術」。

すでに知っている方もいれば、あまりピンと来ない方もいるかもしれない。ではA-BURT projectが考える「生の芸術」とはどのようなアートでその魅力はなんなのか。気になる「生の芸術」と、「生の芸術」をファッションを通して広める活動について関口さんにインタビューしてみた。

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ーまず始めに、「生の芸術」についておうかがいします。インターネットで「アール・ブリュット」と検索すると、一般的に障がい者のアートと関連づけられる「アール・ブリュット」や「アウトサイダーアート」を「生々しいアート」と説明する意味での「生の芸術 アール・ブリュット」のような表現やタイトルを目にしました。このときに使われる「生の芸術」という表現は、A-BRUT projectで考える「生の芸術」と同じなのでしょうか?A-BRUT projectが考える「生の芸術」について教えていただきたいです。

私たちはもう少し狭義の「アール・ブリュット」について扱っています。現在「アールブリュット」または「アウトサイダーアート」と呼ばれているものにはさまざまな定義がありますが、最も一般的には「西洋の正統的な芸術教育を受けていない作家が創造したアート」となっています。芸術の歴史的な文脈性や、教育による外的な影響を受けず、そのまま発露するアートということで、「アールブリュット(生の芸術)」と呼ばれるようです。ですから、場合によってはアフリカのアートや受刑者のアートなどが含まれることもあります。

誤解されやすいのですが、障がい者によるアート=アールブリュットではないんです。教育などの外的な影響を受けずに、独創的に創作されるという特性上、その担い手がたまたま障がいを持った人であることが多い、というだけで、逆に障がいを持った人のなかでも、いろいろなアートから影響を受けたり、芸術教育を受けたりしている方もいらっしゃいます。

私たちがフィーチャーするのは前提として障がいを持った方によるアートですが、そのなかでも伝統的なアートの文脈性から一線を画するような、生の表現欲求が発露したパワフルなアートにフォーカスしており、それらをさすものとして「生の芸術」という言葉を使っています。

「アール・ブリュット」「生の芸術」といった呼称や、障がい者によるアートをカテゴライズすることにはさまざまな議論があります。実際に福祉の世界では「アール・ブリュット」という呼称は施設によっては使用を避けているところもありますし、私たちもプロジェクト内で「アール・ブリュット」や「アウトサイダーアート」という言葉を使いません。しかし、これらの議論に十分に配慮をしつつも、そういった問題にデリケートになりすぎずに、ほかにない価値を持つ貴重なアートを積極的に発信していこうというのが私たちのスタンスです。

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ーどうして「生の芸術」というアートを発信していこうと思ったのですか?具体的なきっかけを教えてください。

もともと私(代表の関口)がクラシックアートが好きで、時の試練を経てきたアートにこそ普遍的な価値があると考えていたのですが、2年前にパリに行って美術館をまとめて5件ほど回ったとき、なんだかうんざりしてしまったんです。どれもすばらしい作品なんですが、同じように陳列され、同じ西洋芸術の文脈性のうえで語られ、だんだん全部一緒に見えてきてしまって。そんなとき、表参道のEye of Gyreで「アールブリュット?アウトサイダーアート?それとも? – そこにある価値 – 」展をやっていて、たまたまふらっと入って、すごい衝撃を受けたんです。図鑑もインターネットもない時代に、クジラやゾウのような未知の動物に初めて会ったら、こんな衝撃を受けるだろうなというような驚きでした。誰にも媚びを売らず、ただ描きたいから、描きたいように描きました、という純粋な表現欲求が発露したアートに圧倒されました。そこで、私が体験した「生の芸術との遭遇」の衝撃をもっとたくさんの人に感じてほしいと、企画を立ち上げました。

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ーA-Brut projectは感情社会学やパフォーマンスアート、障がい社会学を専門としたゼミから立ち上がったということですが、ゼミでの研究以外にほかにどのようなリサーチを行ったのでしょうか?また、そのうえで難しかったことはありましたか?

精神病院の造形教室や、障がいを持った方のアートをプロダクト化しているNPOなどを訪問させていただきました。「生の芸術」を発信したいというのが自分たちのエゴだけでなく、本当にアーティストたちやその支援者たちにとっても喜ばしいことなのか、自分の目で確かめたかったからです。実際に現場に赴き、私たちが思っていた以上にアーティストたちは作品の発信にモチベーティブであることを知りました。しかし、ではどんどん対外的に積極的に発信していきましょうということではなく、もっとセンシティブな問題がたくさんあることも目の当たりにしました。様々な障がいの特性上、自分だけで作品の保存や発信ができないアーティストを搾取から守り、また「障がい者アート」としてではなくほかのアートとフラットに扱っていくために、福祉の現場は本当にたくさんのことを考え、慎重に発信を進めておられます。そういった配慮を尊重しつつ、「福祉」の色をなるべく出さずに、「アート」としてある程度キャッチーに発信していくバランス感を構築するのは困難でした。ご協力いただいた福祉施設との信頼関係を最優先し、慎重に企画を進めたんですが、初めて関わる領域で配慮を欠き失敗したこともありました。

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ー発信の方法としてどうしてアートやデザインを選んだのですか?

障がいを持ったアーティストがかわいそうで支援したいからではなく、めちゃめちゃイケてるアートが存在するのに十分に発信されていない、だから発信していく。その担い手がたまたま、時に「障がい」と呼ばれる特徴を持った人たちだった、というのが、このブランドのスタンスです。エシカルファッションとしてやっているのではなく、結果としてエシカルになったというか。

「支援」としてでなく、「アート」として発信していきたいんです。そのためには、企画が「かっこいい」ことが絶対に必要だと考えました。かっこいいといえばファッションです。まずファッションとして、デザインの良さから入ってもらい、そこで興味を持ってもらいたい。そのために、ビジュアルに徹底的にこだわりました。NYLONなどでも活躍しているフォトグラファーのNiko WuさんやWEBデザイナーに協力していただき、企業によるファッションブランドにも引けを取らないビジュアルを目指しました。

また、学生を中心としたファッションやカルチャーのフィールドという、私たちだからこそリーチできる領域で作家をリプリゼンテーションしていくことにも、意味があると考えました。ファッション業界や学生のカルチャーシーンと福祉の現場には溝があります。ファッションアイテムという日常的なものによって両者をつなぐことで、そのギャップを埋めていくことができる。それまで福祉にまったく関わりのなかったファッショナブルな学生が、障がいを持つアーティストのアートワークを身に着けている。そういったことで、障がいを持つアーティストたちに、社会とのつながりを感じてもらうこともできるのではないかと考えています。

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ーA-BRUT projectを通して、人に伝えたいメッセージはなんでしょうか?

まずは、「生の芸術との遭遇」の衝撃を、みなさんにも体験してほしいです。情報化が進んだ現代社会において、「予想しなかったこと」に出会う機会って、すごく少ないですよね。何もかもまえもって予想されてしまう世界だからこそ、人々は潜在的にそんな驚きを希求していると思うんです。既存の芸術の文脈性から一線を画した「生の芸術」 のひとつひとつの表現は、そんな衝撃を私たちに与えてくれる、希少なアートです。このアートの魅力を、まずは少しでも多くの人に知って欲しいです。

もうひとつは、袖のロゴにも盛り込んだ「Est-ce un handicap ou un talent?(障がいか、才能か?)」というメッセージです。「障がい」と呼ばれているある特徴が、時に特別なアートを生み出す「才能」として現れ、すばらしい感動を私たちに与えてくれることがある。その視点の転換って、すごく素敵なことだと思うんです。そういったことを、このプロジェクトを通して感じていただければ嬉しいです。

ー社会、アートが「こうなればいいな」のような理想はありますか?

社会の価値観や福祉の世界を変えていきたいとか、そういった大きなことを掲げている企画ではないんです。もっとカジュアルに、「生の芸術」を楽しんでいただければ。ただ、イケてるアートとの出会いから、「障がい」というものへの見方が少しポジティブになればいいなと思っています。

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野田夢友さんの作品がプリントアウトされたロングTシャツ(全4種類うちの一部)

ーSNSやウェブサイトで野田夢友(のだ ゆめと)さんの作品でデザインしたロングTシャツを拝見し、とてもカラフルで力強さを感じました。プロダクトを製作するうえで、一番こだわっていることや、制作する際に作品をどのように選んでいるのか教えてください。

まず作品選びについてですが、野田さんの作品はその生き生きとした線のタッチや自由な色彩感が、今回の企画のフィロソフィーにぴったりだと感じました。また初めて見たときから、こんなTシャツにしたら絶対にかっこいいというイメージも湧きましたので、今回フィーチャーさせて頂きました。

プロダクトのデザインにおいては、作品をパーツとして消費するのではなく、作品を主役としてその魅力を伝えるデザインにこだわりました。躍動感のあるタッチや色彩感を損なわないように、作品のトリミングや配置に配慮しました。

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ーA-BRUT projectの今後の展望について教えてください。

障がいを持ったアーティストのアートワークを発信していく、プラットフォームのような存在になっていければと思います。今後も今回のようにプロダクトを展開していきつつ、企業や団体からのオリジナルアイテムの受注にも力を入れていきたいです。今までなんとなくデザインされていたチームTシャツを、私たちに発注してもらう。そうすればアーティストのアートワークを取り込んだ本格的なオリジナルアイテムにできますし、ひとり当たり数百円のロイヤリティの負担で、カジュアルにアーティストを支援することもできます。今までと違うオリジナルアイテムを考えている企業などに、ぜひプロジェクトのサイトからご相談していただきたいです。

また現在は完全に非営利で、ボランティアの学生によって運営されていますが、クラウドファンディングなどを活用してもっと持続的な形にしていければとも考えています。ただ、フィロソフィーを損ねてしまってはプロジェクトの拡大の意味はないですので、作家とその家族の意志を最優先する点だけは、今後も変えずにやっていきたいと思っています。

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好きなブランドのロゴ入りシャツを着ると、なんだか自分もそのブランドの一員になったような気がするときはないだろうか。同様にこのイケてる「生の芸術」が施されたデザインを身につけることによって、自分もアートの発信者として参加することができ、また関口さんが述べたようにアーティストたちも、自分の作品がデザインされている服を身につけいてる人たちとつながりを感じることができると思われる。この両者をつなぐA-BRUT projectの活動は、「観る」や「着る」で終わらないアートやファッションのパワーを証明し、これからもより多くの若者にインスピレーションを与えるに違いない。

A-BRUT project

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A-BRUT projectは、感情社会学やパフォーマンスアート、障がい社会学を専門とする慶應義塾大学岡原正幸研究会の学生が中心となって立ち上げられた、非営利目的の組織。「生の芸術」を若者のファッションやカルチャーのフィールドで広めたいという志を持った、ボランティアの学生によって運営され収益はすべて運営費およびアーティストへのロイヤリティに充てている。

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イベント情報

2018年度 早稲田大学学園祭

早稲田大学学園祭の出版団体ENJI主催のフリーマーケットにて出展。

日程:11/3(土)10時〜17時
場所:早稲田大学 10号間上

Scream

「Scream」にてブース出展。

日程:11/12(月) 18:30open

場所:新宿marz

SUPER SHANGHAI BANDプレゼンツ

出演:羊文学&ステレオガール

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