現代社会に潜む闇「SNS中毒」を“SNSの力”を利用して喚起させる22歳の風刺画アーティストFrancesco Vullo。

Text: Jun Hirayama

2017.5.25

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『IRON JAWS(アイロン・ジョーズ)』

まずは、この写真を見て欲しい。ただのアイロン、それともサメ。あなたはどちらに見えるだろうか?少なくとも筆者には直感的にサメにしか見えなかった。

「最高のアイデア」は時にとてもシンプルなものなんだよ。「既存の概念」なんて関係なしにアイロンを見ていたら、ふと「恐ろしいサメ」に見えてきたんだ。

そう私たちを、普段の味気ない型にはまった世界から、型に当てはまらないクリエイティブな世界へ誘ってくれるのが、22歳のアーティストFrancesco Vullo(フランチェスコ・ブーロ、以下フランチェスコ君)。

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Francesco Vullo

イタリアで一番大きな島、シチリア島のパレルモで生まれ、子供の頃から、いつも描くことやクリエイティブな活動に興味を持っていたという彼に、彼の持ち味でもある「社会風刺」、「社会啓蒙」のアートをなぜインスタグラムなどのSNSを利用して発信をするのか伺った。

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「現代社会の闇」に気付かせてくれる、彼の巧みな皮肉のビジュアライズ。

彼の主なアートの発信地はインスタグラム。フォロワーは8万人をゆうに超えている。作品のトピックは様々で、政治、ネット依存、ソーシャルメディア依存、人種、地球温暖化、核戦争。多くの作品は、時事ネタや現代の文化から影響を強く受けており、どんな人でもわかる現代社会への皮肉が込められている。そして、いつもと違う「こんな見方があるんだ!」と思うような新しい視点をわれわれに与えてくれるのが彼のスタイルだ。

僕はアート活動を始めた時、自分の考えや意見を「可視化させたい」という個人的な理由が一番にあった。もともとコンセプトや、思想、アイデアを扱うのが好きなんだ。それで、クリエイティブな作品をつくる時は、僕の作品を見てくれる人が何かしらの刺激的な感情をいだけるように、人とは異なった視点でモノを見るように努力してるよ。普段みんなが見ている世界の角度を少しでも変えることができれば、おもしろい結果を示すことができるからね。

「過去の名作」と「現代社会のアイコン」が織り成すアイロニーなシナジー

レオナルド・ダ・ヴィンチの『モナリザの微笑み』と出会い系アプリ『Tinder』、葛飾北斎の『神奈川沖浪裏』とドラム式洗濯機、フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』と鼻ピアス。誰もが一度は見たことあるような有名な絵画が彼の作品にはよく登場する。またそんな名作と一緒にキャンバスに描かれているのは現代を象徴するアイコンたちだ。

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フランチェスコ君の最近のお気に入りでもある、インターネットやSNSの依存性のダークサイドを表現した作品『THE SON OF THE WEB』もその一つ。

この作品は、かの有名なルネ・マグリットの『THE SON OF THE MAN(人の子)』をリメイクしたもの。本当は真ん中にリンゴがあるんだけど、そのリンゴを、ジェネレーションY(80年代から90年代に生まれた世代)やミレニアルズ(80年代から2000年初めまでに生まれた世代)が連想しやすい、現代的なアイコンのインスタグラムで「いいね!」を押したときに表示されるハートと置き換えたんだ。若い人がインターネットやSNSで溢れかえっている「現代社会の異常さ」に気付いてもらえるような作品にしたかったんだ。

また、昨年のトライベッカ映画祭で試写上映された核戦争について描かれた映画『The bomb』のために描き下ろしたフランチェスコ君の作品では、かの有名なアルフレッド・アイゼンスタットによる終戦を象徴する写真『V-Day in Time Square(勝利のキス)』と、戦争を象徴する原子爆弾がマリアージュしている。彼は原爆についてこう述べた。

原爆は死と破壊を生む唯一の道具であり、人類史上最悪の創造物だと僕は思っている。僕ははもちろん反原発だよ。だって自然環境も人類をも脅かす危険な存在だからね。

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『I love you so(私もあなたがとても好きです)』

フランチェスコ君の作品は、歴史的に有名な作品と、21世紀に生きる誰もがわかるアイコンやモチーフと掛け合わせ、過去の名作をアップデートすることで、私たちが普段気付かない「現代社会に潜むダークサイド」を気付かせてくれるのだ。

『MELTING POLE(溶けていく北極)』

「今を生きる人」なら誰もが理解できる作品。

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インスタグラム、ツイッター、フェイスブック、スナップチャット。数多くのSNSが溢れている中で、SNS依存などの社会問題を、“SNS”を使って啓蒙している彼の作品は、特に若い世代に向けて作品を作っている訳ではないという。

特にターゲットはいなくて、どの世代の人も理解できる作品に仕上げているよ。もちろんインターネットやSNS依存の問題や、ポップカルチャーからの影響などのトピックは、ミレニアル世代(僕と同じ世代)の子たちにとって、身近に感じると思うけどね。

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今を生きる若者の総称として“ミレニアルズ”という言葉を耳にすることも多くなってきたが、そんな世代のキーワードとして「社会貢献」や「デジタルネイティヴ」が挙げられる。フランチェスコ君が行う、社会派アートをSNSで発信することは、もはや今の時代とても自然なことなのだろう。

今年、初の個展を企んでいるという彼に、インスタグラムなどのSNSで社会風刺や、啓蒙することがなぜ重要なことなのか最後に聞いたらこう返ってきた。

僕はSNSがどれほど実用的でパワフルか知っている。インスタグラムのようなソーシャルプラットフォームを通じて、自分のアイデアを共有したり、何かについてのビジョンを提示したり、世界中の人々にアプローチしたりすることは、驚くべきことだし、興味深いことだと思うよ。数年前まではこんなコミュニケーションは誰も想像もできなかったからね。

何よりもこういうツールを利用して、僕が社会問題について話をすることで、より多くの人々に、社会問題について深く考えるきっかけを与えることができたらいいな。

Francesco Vullo

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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