<森田剛 × 長久允 対談>「今日も死んでなくておめでとう」“死ななかった日”を祝う世界を描いた映画『DEATH DAYS』

Text: Fumika Ogura

Photography: MARIKO KOBAYASHI unless otherwise stated.

2022.3.11

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「5,4,3,2,1,0ー」。
「今日も死んでなくておめでとう」。

 昨年末、YouTubeにて12月29日から三夜連続で公開された短編映画『DEATH DAYS』。舞台は、生まれたときから死ぬ日(日付)が決まっているが、それが何年だかは分からず、「デスデイ」に死なかったら、人々がバースデーのように祝う世界だ。
 森田剛扮する主人公のデスデイは、大晦日の12月31日。毎年友人や恋人と、次の年を迎えるのと同じように、今年も生きていけるかをカウントダウンしていく。

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 2021年11月2日に森田剛(もりた ごう)が立ちあげた新事務所「MOSS」のコンテンツ制作の第一弾として作られた本作。『そうして私たちはプールに金魚を、』でサンダンス国際映画祭ショートフィルム部門のグランプリを日本人として初めて受賞した長久允(ながひさ まこと)が監督を務め、3月12日(水)より渋谷シネクイントを皮切りに全国で順次公開する。
 今回が初めてのタッグとなったという森田剛と長久允。どうして2人が「デスデイ(死ぬ日)」をテーマに作品を作ったのか、2人が考える「生と死」について話を伺った。

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左から長久允、森田剛

ーまず、2人が『DEATH DAYS』を作ることになったきっかけを教えてください。

森田剛(以下、森田):Youtubeで長久さんの作品を見たのがきっかけで、何か一緒にできたらなと思っていました。それで、「僕と一度会ってください」と、電話をかけたんです。

長久允(以下、長久):森田さんとはそれまで面識がなかったので、突然の連絡に本当に驚きましたね(笑)。それで初めてタッグを組むことになって、「何か頭に思い描いていることはありますか?」と聞いたら、「死や生についてですかね」と、森田さんがおっしゃって。

森田:死や生についてずっと考えているわけではないんですが、パンデミックや無差別殺傷事件など、どうしても死を意識しなければならない瞬間が増えたと思うんです。生きることや死ぬことって当たり前のことなのに、僕たちは何も分からないじゃないですか。

長久:僕もこれまで、『そうして私たちはプールに金魚を、』(2016)や、『WE ARE LITTLE ZOMBIES』(2019)など、自然と生と死をテーマに選んで作品を作ってきました。森田さんが考える、「当たり前だけど分からないこと」にすごく共感したんです。ちょうど、前々からぼんやりと考えていたコンセプトと重なって、それをベースに森田さんを主人公にして、脚本を一気に書き上げていきました。

ーYoutubeを発表する場にしたのはどうしてですか?

森田:この物語の伝えたいこととしても、気軽にいろんな人に見てほしいと思っていたので、作品を発表する場はYoutubeを選びました。

長久:3編で構成して作品を出していますが、それもYouTubeの特性に合わせて後から分けました。あと、今はスマホで見る人がほとんどだと思ったので、音や画角もそれに合わせています。とくに音はイヤホンで映像を見たときに、耳もとで囁かれたり、脳の中で訴えかけられたりするような音設計にしていて、画角と合わせてそこにいるような気分を味わえるようにしています。

森田:今回一緒に撮影をして思いましたが、長久さんは音を大事にしていますよね。

長久:これまでの経験として、絵よりも音のほうが反射的に脳へ反応するものなのかなと思っていて。音で人は興奮もするし、ショッキングにもなる。感情のコントロールが、音にあると考えています。なので今回の現場でも、人の心が動く鍵のようなものとして森田さんにはセリフのキーの高さを調節してもらったり、声で閉鎖感のようなものを出してもらったり。声色にはこだわってもらいました。森田さんは、声質がとても素敵なので、ついいろいろなセリフを読んでもらいたくなります(笑)。

森田:僕は舞台などにも出るので、声はすごく大事にしていて。響き方や流し方などは、いつも意識していますね。

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ー2人が考える「生と死」は、どのようなものでしょうか。

長久:「今日地震が起きたら…」「車で事故を起こしたら…」などをよく考えてしまうので、もしかしたら死ぬかもしれないなという意識が、人よりも強い気がしています。あと、僕は会社員時代に、上司や会社の体裁ばかりを考えて、自分に嘘をつきながら働いていたことがあって。それがすごくストレスで「生きている意味がないな」と思っていたときがありました。そんな経験もあって、人間っていつ死ぬか分からないなと気付いて、映画を作り始めたんです。今思うと、その悶々としていた時期がもったいなかったなとも感じます。

森田:『DEATH DAYS』を撮っているときも、作品ができ上がったときも思いましたが、自分に正直でいることって大事ですよね。自分を殺し続けてまで生きるよりは、自分や、自分の手の届く範囲を思いやる気持ちが、自分らしく生きていくことに繋がるのかなと思います。けど、実際は嘘ついても無理できちゃう人はできちゃう。自分自身もそうだったけど、きちんと自分と向き合ったときにこれからは正直に生きたいって思ったから、今があるのかなと思っています。自身と向き合うことって、少し怖いことでもあるんですけどね。

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ー『DEATH DAYS』では、「生と死」の描写をどのように描くことを心がけていましたか?

長久:本当は「生きているって素晴らしい」って掲げたいけど、生きることが素晴らしいとも限らないし、死んだらどうなるかは分からない。主人公の周りが次々とデスデイ迎えて死んでいくなかで、主人公は自ら死を選ぼうとしますが、なかなか死ねずに諦める。そして、目の前にあったコンビニの蕎麦を食べて「まずい」と思う。そんな感情自体が、生きている価値として僕らが表現できるギリギリのことなのかなと思いました。

森田:自死を選ぼうとするときに、死んでいった周りの人たちが出てくるシーンがあるんですけど、そこがすごく好きで。つい自分だけで頑張って生きているつもりになってしまうけど、知らないところで、周りが支えてくれていることに気付かせてくれる部分になっていると思います。

長久:やっぱり1人で生きていくことは難しいし、あそこのシーンは唯一自己中心的じゃないですよね。でも、だから現実で1人で生きている人は本当にすごい。

ー現代の世の中では、生きていくことに対して何か意味を見い出さなければならない風潮を感じますが、2人にとって「生きていくこと」とは?

長久:最近のムードとして、メディアでも派手な生き方を煽るようなトピックが多いなと感じています。生き方って誰かに押し付けられるものではないと思うんです。働いて、寝て、ご飯を食べて。ただ生きていくことが尊いことだし、褒められることだと思うんですよね。

森田:自分の経験上、とくに20代のときは頑張りたくても頑張り方が分からないときがあって。そういうときに、好きなものや夢中になれるものがあれば、楽になるのかもしれないけど、それってすごく難しいことなんですよね。『DEATH DAYS』でも、子ども時代の自分が出てきて「生きることに意味なんてないよ、はじめから。だから、ただ生きろよ!」と、主人公に訴えかけてくるシーンがあるんですけど、本当にそんなシンプルなことでいいんだと思います。僕自身も仕事柄、いろんなことに対して意味や理由を求められますが、本当は無理に何かを見出す必要はないのかなと思いますし。

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ー最後に、今日が『DEATH DAY』だったら、お二人は何をしますか?

長久:書きかけのシナリオをクラウドにアップして、監督やキャストを誰にやってもらうかを伝えて、それを遺作にします(笑)。あとは、子どもの自転車の修理などやり残しておいたことを済ませて、いつも通りにご飯を食べて、早めに寝るかな。

森田:まずは好物の餃子を食べて、そのあと、飼っている犬と家族とみんなでぎゅうぎゅうに寄り添って。けど、そのうち肩が凝ると思うので、しばらくしたら離れて。そんなくっついたり離れたりを家族と死ぬ瞬間まで繰り返したいですね。

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『DEATH DAYS』

3月12日(水)より渋谷シネクイントを皮切りに全国で順次公開
ドキュメンタリー映像『生まれゆく日々』同時上映

Website

『DEATH DAYS』は、『そうして私たちはプールに金魚を、』でサンダンス国際映画祭ショートフィルム部門の日本人初グランプリを受賞した⻑久允さんが監督を、公開中の映画『前科者』でも複雑な役どころを見事に演じた森田剛さんが主演を務め、石橋静河さん、前原滉さんら注目の若手俳優陣が脇を固めた注目の短編映画です。物語は、生まれたときから自分が死ぬ日(デスデイ)を知りながらもそれが何歳のデスデイであるかが分か らないという世界を舞台に、人々が様々な感情を抱えながら生きていく姿を描きます。森田さんは、友人や恋人との関わり合いの中でデスデイに向き合っていく20歳から40歳までの主人公を一人で演じました。

今回劇場にて同時上映が決定したドキュメンタリー映像『生まれゆく日々』では、森田剛さんを「剛さん」と呼ぶ親しみのこもったナレーションとともに『DEATH DAYS』の撮影の裏側を映し出します。映像には、森田さんが時折覗かせる無邪気な笑顔や素の表情、意外にも初挑戦という振付のない自由奔放なダンスを披露する姿はもちろん、劇中で披露する楽曲をエネルギッシュに歌い上げるシーンやレコーデング風景、さらには出演者陣が決して容易ではない本作のテーマに向き合う姿を臨場感たっぷりに収められています。 中でも一際印象的なのは、打合せや撮影の合間、部屋の隅で静かに考え事をするように一人たたずむ森田さんの姿です。撮影初日から物語後半の重要なシーンを撮影するというスケジュールにも関わらず、心身共に傷だらけの主人公の感情を見事に表現しきった森田さんの、画面から溢れ出さんばかりの芝居にかける想いを余すことなくお届けいたします。 ぜひご注目ください。

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森田 剛(もりた ごう)

1979年生まれ、埼玉県出身。95年にV6のメンバーとしてデビュー後、俳優としても幅広く活躍。 05年に劇団☆新感線の舞台『荒神~AraJinn~』で初主演。以後いくつもの作品で座長を務め、 16年には単独主演映画『ヒメアノ~ル』で演技力を高く評価される。 近年の出演作は、舞台『空ばかり見ていた』(19)、『FORTUNE』(20) 、映画『前科者』(22)など。
21年11月に自ら新事務所「MOSS」を立ち上げ、精力的に活動。5月には独立後初となる舞台『みんな我が子 -All My Sons-』への出演も控える。

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長久允(ながひさ まこと)

1984年生まれ、東京都出身。これまでに、脚本と監督を担当した短編『そうして私たちはプールに金魚を、』(2016)や、長編初監督を務めた『ウィーアーリトルゾンビーズ』(2019)を発表。最近では、舞台作品『(死なない)憂国』(2020年)、ドラマ『FM999』(2021年)を手がけるなど、映画以外の場にも活動の場を広げている。

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