「男性はいくつでも“モテる”のに、女性は若作りを勧められる」。若きフォトグラファーが「60代以上のファッションスナップ」を撮り続けるわけ|エイジング、プリーズ vol.2

Text: SHIORI KIRIGAYA

Photography: Daikichi Kawazumi unless otherwise stated.

2019.2.18

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エイジング、プリーズ

2月のNEUTの特集は「エイジング、プリーズ」。
“歳をとること”ってネガティブにとらえられがちだけれど、本当にそうなのかな?

▶︎プロローグ

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「一日に一人見つかればいいほうですね」。仕事が休みの週末にはひたすら銀座や表参道を歩いて被写体を探し続ける人がいる。彼は『OVER 60 Street Snap』(主婦の友社)として書籍化もされた、60代以上の女性を対象としたストリートファッションスナップ「L’idéal(リデアル、以下リデアル )」のフォトグラファーMASA(32歳)。26歳のときに友人と二人で始めたこの活動は、休止期間を経て現在も続けられている。

「女性が歳をとることへのネガティブ視」への疑問が活動の根底にあるという彼が活動に至ったきっかけと思い、彼自身の「老い」や「歳をとること」に対する価値観を今回のインタビューでは聞いた。

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L’idéalのフォトグラファーMASA

女の人ってアイドルばかりがもてはやされている

週末をリデアルのモデルハントと撮影に費やすMASAさんは、大学進学時には福祉学部か心理学部かで迷い、福祉の方面に進んだ。取っつきにくいとも思われがちな分野であるが、彼は当時からそんな見方をすることもなく、むしろ社会の周辺に追いやられてしまう人たちについて知りたいという思いでいたのだ。

今もそうですけど、ビジネス的なことには興味がなくて、どちらかといえば人間や社会の内面とかを指向してましたね。

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リデアルのウェブサイトの概要が載ったページには「特に女性は、生きてきた時間を否定するかのように、若く見られることが唯一の正解のような風潮がある」と書かれているが、同活動のアイデアが浮かぶ遥か前から、彼はこんな疑問を抱いていた。

男なら歳をとっても“モテる”といわれるのに、女の人ってアイドルばっかりがもてはやされて、若作りを勧められるような社会で、なんで男と女でそんなにも違うのかと。

アイドルに関しては若さだけでなく“幼さ”への信仰という要素が入ってくるが、年齢があがるにつれて周囲からどう見られるかは、見た目の性別によって異なる側面がある。それによって歳を重ねることを否定的にとらえてしまう傾向が主に女性にあり、世の中が生きづらい場所になっているという認識が彼のなかには常々存在していた。

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彼が活動を始めた2013年当時は、“美魔女”という表現がメディアに溢れていた頃。才色兼備で年齢を感じさせない女性を「魔法をかけているかのように美しい」と賞賛する意図で女性向けファッション誌で使われ始めたようだが、どちらかといえば“実年齢より若く見せている女性”を揶揄する表現と一般には受け止められており、彼の目にも女性を否定する言葉としか映らなかった。

“美魔女”って魔女ですからね、人間じゃないのかいみたいな。彼女たちのことを否定しているじゃないですか。みんなそこにいくんだったら、「年齢を重ねることって楽しい」って言ったほうがいいじゃんと思いましたね。

彼はそんな言葉に対抗するアンチテーゼとして、そして白髪混じりになっても無理に染めて隠さない「グレイヘア」のトレンドに通じる流れの先駆けとして、ストリートファッションスナップを通じて「歳を重ねたからこその美しさ」を社会へ提示した。そのような活躍によりマスメディアからも注目を浴びることになった彼らであったが、書籍化の目論みがあったわけではなく、活動を広めることによって自らの考えに共感してくれる人が少しでも現れてくれたらいい、という調子だった。

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『OVER 60 Street Snap』(主婦の友社)

仕事で関わるまでは、世代間のコミュニケーションが少なかった

今でこそ、高齢者の福祉に携わるMASAさんだが、新興住宅地に住む核家族家庭に生まれ育ち、大学を出るまでは上の世代と接する機会はわずかで、祖父母には病気で学校を休んだときに世話をしてもらうくらい。同様な家族形態が一般的な現代では、決して珍しくない話である。彼が仕事で高齢者と関わるようになり、それまで関わっていないから“異生物”みたいに思えていた彼らとの人間の根底にある共通点に気づいたことも、リデアルを思いつくきっかけとなった。

全然交流がないから、彼らの価値観も考え方も知らないし、まったく違う世界を生きている感じじゃないですか。そこで、両者が交わったらどうなるのかなってちょっと思ったんですよね。

「上の世代だって酔っ払って人に絡むことがあるし、歌が好きで宴会で歌うことだって多い」という例を挙げて彼は話してくれた。

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世代間のコミュニケーションが少ない人は、多世代が身近にいる人と比べて、ほかの世代がどんなもので、何を考えてどんな行動をするのかを想像しにくいため、偏見や漠然とした恐怖を抱きやすいと考えられる。年齢が違えど「誰もが同じ人間である」ということは単純な事実であるものの、それを実感として理解できる機会は意外と重要な意味を持つようだ。

選ぶのは、若い世代が見てもかっこいいと思える人

ファッションスナップの被写体を選ぶ際の彼の基準は、若い世代の人が見ても「かっこいい」と印象に残るような人。銀座や表参道では裕福そうで綺麗な装いの人たちが多く行き交うが、それでは出で立ちを見ても共感できる人が少ない。芸能人ではない身近な街ゆく人のなかから、奇抜でスタイルのある人を探すのに時間はかかるが、「普通の人でもこうなれるんだ」と思ってもらえるようにすることを、彼は目指している。

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さて、彼の「老い」や「歳をとること」に対する価値観はどんなものか、今回の特集のテーマに合わせて聞いてみた。彼自身に関していえば、覚えている限りはずっと「歳をとること」をポジティブに考えていたというMASAさん。取材時に着ていたセーターは高校3年生、パンツは大学3年生の頃に買ったもので、どちらも30歳を過ぎたいま、ようやく似合ってきたと感じられているのだという。

大人の雰囲気のある男性に憧れていたのでね、俺は早く歳をとりたいなと思ってました。人間の魅力って、いろんな思考をし経験をして、それが性別を問わず外側の雰囲気として素敵に表れるものだと考えています。

また「老い」という言葉に対する印象を聞くと、言葉自体はネガティブで、心身ともに弱っていく「死に際」の印象があり、「『歳を重ねる』というような言い方のほうがしっくりくる」と話す。誰もが逆らうことのできない年齢の積み重ねは、楽しいものだと考えるのがいいのではないか、と語る彼にはやはり人間の深い内側から浮かび上がる魅力にこそ目を向けようとする姿勢がみられた。

今後は、スナップしてきた女性たちに、彼女たちがどんな人生を歩んできて、現在のような姿になったのかをインタビューしていく予定だという。

 

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