「OLもギャルも主婦も田舎の子も誰もおいていきたくない」モデル山本奈衣瑠が社会に対しての“なんで?”を追求する雑誌EA magazineを作った理由

Text: Miku

Photography: Naoki Usuda unless otherwise stated.

2020.9.2

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山本奈衣瑠(やまもと ないる)はモデルとして活動する傍ら、昨年創刊したフリーマガジンEA magazine(エア マガジン)では編集長を務める。「選択できる個人を増やすこと」を目指し、読者と一緒に学んでいく姿勢をもつEA magazineは、これまで自身の言葉を発信してこなかった、あらゆる社会問題に対してあまり関心がなかったと話す彼女にとって新たなフィールド。

山本奈衣瑠とEA magazineは一心同体のようだ。

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山本奈衣瑠

EA magazineは、絶対に答えを押しつけない

山本奈衣瑠が編集長を務めるEA magazineは社会のあらゆる課題や問題を考えるきっかけ作りを目指し、より多くの人の手に渡るようフリーマガジンとして不定期に発行されている。昨年vol.1となる「自分のこと、どれくらい知ってる?ーHow much do you know yourself?ー」をNIKE(ナイキ)とのタイアップにより実現した。

カリスマ動画クリエイターのkemio(けみお)が渡米した際に感じた人種差別や日本人としてのアイデンティティについて話したり、ギャル雑誌『姉 ageha』編集長の小泉麻理香(こいずみ まりか)が、性差別やマジョリティ側の意見が正しいとされる風潮について言及したり、山本奈衣瑠と同世代の幅広い若者が登場し、社会や自分自身への葛藤を持ちながらも生きていくための手がかりや選択肢を提示した。

そして今年5月にはvol.2となる「FIND YOUR LINE」をESTIVO(エスティボ)と共にローンチ。本誌はvol.1に引き続き、読者と制作者それぞれが「自分という存在を問い直し、より深く自分について知り、世界とどのように繋がっていくか」を考えるきっかけになるような内容だ。

彼女が発信する言葉やEA magazineは、受け取り側に余白を与えてくれる。

EA Magazineは答えをボンって出すんじゃなくて、皆さんと一緒に考えるものにできるように作りました。

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もともと彼女が周りにいるモデルやクリエイターなど仲間内で社会への違和感や問題について話しているのを聞きつけ、社会課題に対してアクションを起こしているNIKEが話を持ちかけたのがEA magazine創刊のきっかけだった。以前からモデルとしての表現だけでなくメッセージ性があるものを作りたいと思っていたこともあり彼女は制作を決めた。

マガジンのタイトルは、日常に存在する人、物、自然、環境など、「空気」のように当たり前に重要なものに、もう一度向き合うという意味を込めて「空気=AIR」から 「EA(エア)」と名づけられた。

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そもそも彼女自身があらゆる社会問題に関心をもち、発信するようになったのはどうしてだろうか。それには周りの影響が大きかったという。

彼女の周りにはHIGH(er) magazine編集長haru.やNEUT Magazineの編集長平山潤(ひらやま じゅん)など、メディアを通して自分の声を発信する仲間が多かった。社会問題に関する話題に自然と触れるうちに「なんでだろう」が彼女のなかでどんどん大きくなっていった。

みんなの話を聞いていてなんでだろうって思うことがすごく多くて。世の中とか大人に対して。それでどんどん質問したし、自然と勉強していった。

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EA Magazine vol.1の制作をするにあたり、昨年3月にフランスで開催されたNIKE PARIS WOMEN’S EVENTには大きく背中を押されたという。そのイベントでは、NIKEが誕生した歴史を振り返るとともに、女性にフォーカスし社会問題について話し合うトークセッションが開かれた。彼女はそこで物事の深刻さ、発信する必要性を改めて感じたと語る。

なんで女の人が声を上げているのか、なんでフェミニストっていわれる言葉ができたのか、それがずっと分からなかったの私。正直最初は、なんでそんなに言うの?とも思ってた。でも言わないと伝わらないからみんなで声をあげているだけだっていうのが分かったのね。もし昔の私と同じように思ってる子がいるなら「そうじゃないんだよ」っていうのを、自分の体験を通してEA magazineでは伝えたかった。

ファッションもかわいくてクールで、さっきまで自撮りを楽しんでいた自分たちと同じような子たちが、性差別や自国に対する不満、そして彼女たちの傷ついた過去を吐露し変化を求める姿を見たことで自身の言葉を声に出して伝えることがどれほど重要か身をもって感じたという。言わないと伝わらない、変わらない。だから声を上げるんだと気がついたのだ。

届ける、等身大の姿で

EA magazineは老若男女、あらゆる社会問題や人生の選択においての意思決定に思い悩む人へ、次のフェーズに進むまで寄り添い、誰かのヒントになることを目指している。またそれは彼女自身のためでもあるという。

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EA magazine創刊以前はモデルとして自身について発信することがあまりなかった山本奈衣瑠。SNS上で発信することに「知らない誰かに内に秘めた感情を消費されてしまうような感覚」があったという。だが周りの人たちの発言や発信をきっかけに社会に関心を持ったことで、自分の小さな気付きも発信することで誰かに届くと感じたという。
生まれ育った地元では関心を持つ機会が少なかった過去があるからこそ、地元の友人たちはもちろん遠くに住む誰かのために自分の言葉を感情ごと発信するようになった。彼女はどんな選択や発見にもその人だけの色があることを深く理解し相手へのリスペクトを忘れない。

私は“なんで?”をやめない。“なんで?”の先にまた“なんで?”が絶対あるし、そこから想像していくことも楽しいから。いろんなことに疑問を持つこと、想像することをみんなもやめないでほしいな、ずっと。

分からないことは人から教わり、会話を通して互いに理解を深め合う。まずは起きている物事に対してフラットに耳を傾け、不要なバリアを張らないことが重要だと彼女は話す。人に伝えるときは難しい英語やカタカナはハードルをあげるので選択しない。探求していくなかで、新たな発見や学びを純粋に楽しみながら、咀嚼し、自身の言葉に変えて届けている。

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モデルで編集長。彼女は自身の立ち位置をどう捉えているのだろうか。

トータルで見たときに「モデルの山本奈衣瑠さんがやってるEA magazine」でいいのね、別に。私の体から生まれてきたものだから。モデルでもあるし編集長でもあるし、だからなんかあんまり表面的にポジションを分けることはしたくなくて。

例えば「山本奈衣瑠が表紙だから欲しい」なら、それでもいい。自身の知名度が上がればEA magazineにとってもプラスになり思考も行き渡る。そしてそれは同時に社会に存在する「〇〇が政治について話すな」といった風潮への挑戦でもある。

緊急事態宣言下、芸能人やミュージシャン、そしてモデルなどが「#国民投票法改正案に抗議します」のムーブメントに参加した際に「〇〇が政治について話すな」というコメントが多くみられ、議論が生まれた。山本奈衣瑠は、そんななか自身がモデルとして社会課題について発信することを一種の運動として行なっているのだ。

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人生はスノーボードと似ている

vol.2のテーマは、「FIND YOUR LINE」。これから描きたいラインに向かって、挑み続ける取材対象者の人生模様を切り口とし、映画監督の枝優花(えだ ゆうか)やテレビディレクター・プロデューサーの上出遼平(かみで りょうへい)、小説家の青羽悠(あおば ゆう)そしてスノーボーダーの佐藤亜耶(さとう あや)、音楽家の小袋成彬(おぶくろ なりあき)、藤原史織(ふじわら しおり)ら6名が登場する。

人生で思いがけず行き詰まったときにみえる景色を、到達したときにみえる真新しい景色を、彼女はスノーボードのようだと例えた。進みたいのにうまく進めないもどかしさは皆同じ。一度立ち止まったことで見えた景色は、その人だけの人生の彩りになる。

取材をしたみんなは何かを与えるために表現している人が多いと思っていたけど、共通していたのは自分を救いたくて作っているということ。結局自分の人生を肯定したいとか、自分のためにとか、自分が作らないと生きていけないから作ってた。それを聞いて私のなかでも自分がこれまで困ったこととか辛かったこと、苦しんできたことが人に何かを与えられるものになると知った。

だからEA magazineでは取材対象者を“すごい人”と称賛するのではなく、脆く人間味のある部分にも焦点を当てている。

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EA magazineは形に囚われずメンバーもテーマもレイアウトもロゴだって空気のように、その都度自由でいいと彼女は話す。それでも唯一何があっても変えたくないのは「フリーペーパー」であること。

誰でも読めるものではありたい。OLもギャルも主婦も田舎の子も誰もおいていきたくないっていうのはずっとあるから。どこにいても読んで同じ気持ちになれるように。1号目のときに自分の地元の友達のことを載せたりしたのもそうなんだけど、そういうのはずっとあるね。忘れたくないね。

読者と一緒にEA magazineを築き、自身も学び続ける。vol.1の制作で取材対象者や読者の思い、夢を詰め込んだエンジンを彼女が受け継いだことでさらに強くなれたという。今も変わらず、誰に対しても平等で真摯に向き合っている。

社会問題に対する学びの敷居を下げることを目的としながら、同時に作品として優れたものを生み出し続けることは難しいことかもしれない。だがかかんに取り組み続け、SNSでのフォロワーやイベントをしたときの来場者数などの数字だけでなく個人の気持ちを動かしたいと彼女は話す。大きな海のように広がってほしいと。

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人生の選択に悩んだときにこの本は、そっとヒントをくれる。
EA magazineは、あなたを決しておいていかないはずだ。

山本奈衣瑠(やまもと ないる)

TwitterInstagram

2014年〜モデル活動
2019年〜所属事務所を辞めフリーランスで活動
雑誌や広告CMなど幅広い分野で活動中


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EA magazine

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読者と制作者それぞれが「自分という存在を問い直し、より深く自分について知り、世界とどのように繋がっていくか」を考えるきっかけとなるコンセプトマガジン。
公式サイトを起点に無料配布中。

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