「老い」も「若さ」も年齢では測れない。高校生でデビューしたアーティストと、“年齢”についてトークしたNEUTのラジオ第2回[NEUT RADIO vol.2]

Text & Photography: Natsu Shirotori

2019.2.27

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2月11日、先月から新しく始まったNEUTのラジオ番組「渋谷のニュートラル」の第二回目が放送されました。

メインパーソナリティを務めるのは、以前取材したヒップホップグループDos Monosのメンバーであり広告プランナーとしても活躍中のTAITAN MANとNEUT Magazine編集長のJUN。

渋谷のニュートラル

「渋谷のニュートラル」とは、渋谷を舞台に地域に密着した情報から経済や文化までを扱うラジオ局「渋谷のラジオ」で始まったNEUTのラジオ番組。生放送は公式アプリか、FMラジオ(詳細ページ)から、放送後にはnoteにて音声アーカイブが聞けます。この番組のキーワードは『◯◯をニュートする』。「ニュートする=ニュートラルな視点から物事を捉えること」と独自に定義し、毎回日本で「出る杭」とされている人や、エクストリーム・過激だとされているトピックをあげて、ゲストと共にニュートラルに考えていきます。


第二回目の放送では『「老い」をニュート』。「老い」や「歳をとること」について若者の視点から考える2月の特集「エイジング、プリーズ」に合わせてネガティブなイメージを持たれがちな「老い」について、様々な面から考えました。

今回ゲストとして招いたのはアーティストの草野絵美(くさの えみ)さん。アーティストとして、フォトグラファーとして、そして親として、幅広い経験をしてきた草野さんと共に、“おっさん”とは誰なのか、「若さ」に価値を置くとはどういうことなのかなど、「老い」に関係するトピックで盛り上がりました。そんな第二回目の放送内容をダイジェストでお送りします。

誰かによって作られた「老い」のイメージ

21の時に子どもを産んだんだけど、その時に「え、若すぎない?そんなに早く判断していいの?」と周りの大人の人に言われたの、でも25歳以上になったら早く結婚したほうがいいよって言われてる子も周りにたくさんいて違和感を感じた。

「老い」や「若さ」に対して明確な価値観があると語る草野さんは、自身が出産を経験したことで感じた年齢にまつわる社会からのプレッシャーについて話した。これに対しJUNは「不思議だね。どんだけ生きづらいんだよって話だよね」と同調。さらに草野さんは「若いとか若くないっていうのは相対的なものであって、美しさとかと一緒だよね。誰かが作ったイメージだったりもするし」とも指摘。誰が何を美しいと思うかがそれぞれの価値観で違うのと同じように、若さや老いへの感覚も本来は個人で異なるはずだ。社会に紐付く「老い」や「美しさ」のイメージを疑問視する草野さんが印象的であった。

“おっさん”を再定義

凝り固まった価値観に甘んじている人がおっさん的だと思う。

こう話すのはTAITAN MAN。昨年話題になった経済メディアの「さよなら、おっさん」というキャッチコピーを取り上げたJUNの投げかけに対し、TAITAN MANが自らの感じる“おっさん”のイメージを紹介した。続けて「別に男性じゃなくても女性でもおっさんぽいなっていう人が俺の中にはいるんだけど、要するに考えることを諦めている人だと思ってるの」と話した。“おっさん”は知識や価値観のアップデートや考えることをやめることで作られるという話でまとまった。さらに草野さんは50代で始めたブログが話題となり書籍の出版に至った自身の母を例に、 “Age is just a number(年齢は単なる数字)”の考え方を紹介。何かを始めるのに年齢で自らを制限しないことが大切なのではないだろうか。

いつか失われる「若さ」

いずれ失うものに価値を置くのは怖いと思う。

「2人とも20代でアーティストとしてデビューして『若いからフィーチャーされる』ってことも体験してると思うんだけど、そこに対してはどう思う?」というJUNの質問に対しこう答えたのは草野さん。TAITAN MANも「そこに価値が置かれすぎると、そのアーティストが加齢していったときに残るものがなくなるのでは」と話した。JUNも「若さを武器にした方が怖いっていうのはあるよね」と同調した。その一方で草野さんは若い時に挑戦するとチャンスが多いことにも言及した。「(若いと)確率は上がるから、それはどんどんやっていった方がいいと思う」と発言。草野さん自身が高校生時代よりフォトグラファーとして活動し、「高校生フォトグラファー」として取り上げられたことによって世界が広がった一方、肩書きに「高校生」とつくことに疑問も感じていたという。若さが武器として注目されてしまうことのあるアーティストならではの視点だ。

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死にたくない理由

出来るだけ死にたくないって気持ちが自分をポジティブに保つ。

JUNの「何歳で死にたいとかってある二人は?」に対してこう答えたのは草野さん。これに同調しつつTAITAN MANは「俺も永遠に死にたくない。なぜなら、俺が生きてた方が世の中にとっていいから(笑)」と発言。「歳をとる前に早く死にたい」というような意見もある中で、2人のようにポジティブな姿勢が大事なのかもしれない。この話題からJUNが取り上げたのは平野啓一郎(ひらの けいいちろう)さんの「分人主義」の考え方。対話する相手の数と同じだけ別の自分が存在すると考える分人主義では、自分の死によってその中にいる他人も死んでしまう、と捉える。この考え方に対しTAITAN MANは「自殺しても自分が死ぬだけだからいいじゃんみたいな言説は昔からあるけど、それは全然ちがって。あなたが死ぬことは、イコール俺の中の誰かを殺すことでもあるんだっていう風に考えるといいなって思う」と反応。「老い」についての話題から、その先にある「死」まで一歩掘り下げたトークへと進んだ。

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ポジティブ・エイジングのために

子どもの頃の思い出を定期的に思い出して、その気持ちを大切にすれば固定観念に縛られた“おばさん”や“おじさん”にならない。

渋谷のニュートラルでは、毎回の放送のまとめとしてゲストの方に「今日からできること」を提案してもらっている。草野さんが今日からできることとして挙げたのは「子どもの頃の気持ちを思い出すこと」。草野さんが子どもの頃の気持ちを忘れていない人として例に挙げたのが黒柳徹子(くろやなぎ てつこ)さん。何でも新しいものに敏感に反応し、興味を持つ黒柳さんは、楽しみながら、素敵に歳を重ねているように見える。美容業界などを筆頭に、身体的に「若くて美しいものがいい」というような価値観に基づいて「老い」に抗おうとするアンチ・エイジングを推進する空気がある。しかし、本当に大切なのは「老い」を認め、その上で新しいものを受け入れて変化し続ける自身を楽しむようなポジティブ・エイジングの姿勢ではないだろうか。そんな素敵な「老い」を手に入れるために、今日は子どもの頃の思い出を振り返ってみてはどうだろうか。

以上、第二回「渋谷のニュートラル」をダイジェストでお送りしました。

最後に、今回の放送のジングル*1は4人組音楽グループ踊foot works(オドフットワークス)のPecori(ペコリ)さんに作っていただきました。トークはもちろん、毎回変わるジングルにも注目して聞いてみてください。

次回は3月11日16:10より、「男性の中の女性性」をテーマにお送りします!

(*1)ラジオ番組などで、番組の始まりやコマーシャル前後に入る短い音楽

草野絵美(くさの えみ)

90年生まれ、80年代育ち。アーティストで、歌謡エレクトロユニット「Satellite Young(サテライトヤング)」主宰・ボーカル。2012年生まれの息子の子育てをしながら、『SENSORS(BS日テレ)』のMCを務めたり『サンテPC』CMに出演したりと、多方面で活躍中。

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TAITAN MAN

1993年生まれ。3人組ヒップホップグループDos Monosのメンバーとして活動中。2017年には韓国・ソウルでのライブやSUMMER SONIC2017への出演を果たした。2018年には日本人として初めてアメリカ・LAのレーベル「Deathbomb Arc」との契約を結び、初の音源「Clean Ya Nerves」をリリースした。2019年3月20日にDos Monos の1st アルバム「Dos City」がリリースされます!

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JUN

1992年生まれ。大学卒業後、社会派ウェブマガジン『Be inspired!』の編集長を経て、現在は2018年10月に『Be inspired!』からリニューアル創刊した『NEUT Magazine(ニュートマガジン)』で創刊編集長を務める。「既存の価値観に縛られずに生きるための選択肢」をコンセプトとする同誌で、消費の仕方や働き方、ジェンダー・セクシュアリティ・人種などのアイデンティティのあり方、環境問題などについて発信している。

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