ポートランドに存在する、アート溢れるホームレスの「聖域」

Text: Rika Higashi

2016.11.28

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アメリカ、オレゴン州ポートランドに「ディグニティ・ビレッジ」と呼ばれるホームレスの暮らす地区がある。日本語にすると、ちょっと堅いけれど「尊厳の村」という意味。つまり、自分は生きていていいんだと思えるような、「人間らしい生き方」のできるところである。そんなホームレスにとっての「聖域」を運営するのは、市やボランティア団体ではなく、ホームレスである住民たち自身だ。

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(Photo by Rika Higashi)

ホームレス同士がゆるくつながるコミュニティ

「ディグニティ・ビレッジ」の敷地内には、リサイクル材で造られた43軒のスモールハウスが建っている。建築家、アーティスト、学生などが、ボランティアで手を貸し、村内にアートが施され、明るい雰囲気だ。

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(Photo by Rika Higashi)

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(Photo by Katie Mays)

ここに、ホームレスとして辿りついた60人の男女が暮らしている。彼らは、留置所やシェルターでこの場所の存在を知り、望みをかけてやってきた人たちだ。無料で滞在できるのは、基本最長で2年。その間に、路上生活で傷ついた心身を癒し、仕事を見つけ、再出発することになる。ここで暮らすためには、住人たちが自ら定めた以下の5つの規則を守らなければいけない。

①自分もしくは他人への暴力の禁止
②盗まない
③ヴィレッジ内及びその1ブロック内での非合法ドラッグ、アルコール、マリファナ吸引の禁止
④ヴィレッジの平和を乱すような破壊的行動の禁止
⑤ヴィレッジ維持への貢献とコミュニティの生産的なメンバーになること

もし違反してしまうと、残念ながら追い出されてしまう。中でも5番目がユニークで、例えば、村の警備員や住居のメインテナンス、掃除、薪作り、薪の販売といった労働力の提供が義務付けられている。これが、自ら運営するコミュニティ形成の土台となっている。どのように村を自立して運営していくか、という運営方針は、住民を代表する役員が会議で決定。住民がそれぞれ1票を持っていて、役員は、年に一度の住民投票で選ばれている。

「ショッピング・カート・パレード」で勝ち取った場所

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(Photo by Kwamba Productions)

「ディグニティ・ビレッジ」が今の場所に落ち着いたのは、2001年9月のこと。前年、市内のホームレスたちが、アクティビストたちとともに、市の使われていない土地を占拠し、警察に追い出され、ショッピングカートでパレードをしながら次の場所へと移る・・・という活動をしながら交渉を重ね、この土地を市から無償で借りる契約を取り付けたという。政府が「ホームレス対策」の目的で、村づくりを提案したのではなく、ホームレス及びそのサポーターらが、行動を起こして生まれたのである。現在、全米で最も長く運営されているホームレスの村として注目されている。

人間らしくやり直せる場所

この村は、すべてを失ってしまった人が、自分のペースで、安心して眠り、食事をし、シャワーを浴び、トイレを使い、人と話したりする中で、人間らしさを回復していく場所だ。年単位で、ここにいてもいいという安心感は何よりも大きいという。体力、そして気力を取り戻した住民たちは、外で仕事と部屋を見つけ、自立していく。ここで出会った仲間とシェアハウスをする人もいるという。

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(Photo by Rika Higashi)

確かに、潤沢な資金とプロフェッショナルが常に援助する施設に比べると、ディグニティ・ビレッジの自立率や社会復帰のスピードが、特に優れているとは言えない。けれども、限られたリソースの中で、ホームレスたち自らが、立ち上がっていくことに意義があるのではないだろうか。

実際、ホームレス支援のモデルケースとして、全米から多くの視察者が訪れている。「ディグニティ・ビレッジ」を参考に、オレゴン州ユージンの「オポチュニティ・ビレッジ」、「エメラルド・ビレッジ」、ワシントン州オリンピアの「キホーテ・ビレッジ」といった類似施設が生まれた。

ホームレスになった人に、何ができるのか

私たちの多くが、社会的弱者の存在を知ると、同情を覚えるのではないだろうか。でも実際、路上生活を送る人に何をしてあげられるか、してあげたいか、と聞かれると、戸惑ってしまうかもしれない。

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(Photo by Rika Higashi)

日本でも、貧困は広がっていて、6人に1人が相対性貧困だと言われる時代だ。働きたい、と望んでも叶わず、住むところも連絡先も失い、たった一人で 、ただ生き延びるだけに過ごす不安定な日々が、心身をボロボロに蝕んでしまう。そして、一旦そうなってしまうと、社会復帰はとても難しい。そんな彼らを「ダメなやつ」扱いして、突き放したり、見ないふりをしたりする社会は、私たちが求めているものだろうか?

堕ちるのはあっという間だが、そこから這い上がるのは、並大抵のことではない。「ディグニティ・ビレッジ」に定められた2年という時間は短いだろうか、長いだろうか?

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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