「個人が持つ倫理観は組織になっても失うべきものではない」。化粧品メーカーの世界を変えるシンプルな信念|LUSHの『手前味噌ではございますが』

Text: Noemi Minami

Photography: SAYURI MUROOKA unless otherwise stated.

2018.8.23

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日本には400万社以上の企業が存在する。そこには、さまざまな思いを抱えながら日々働いている何千万人もの人がいる。

そんな莫大な数の企業のなかから、「社会にいい影響を与える企業」に焦点を当て、個人のストーリーを通して、その企業のありかたに迫る新シリーズ『手前味噌ではございますが』。このシリーズでは、そこで働く人が思わず「手前味噌ではございますが…」と、心の底から情熱を持って話せるような企業のみを紹介していく。

一個人として社会にどう貢献できるのか、どう消費をするべきなのか(どんな企業をサポートするのか)、どう働くか、そしてどう生きるか。もしかしたらそんな普遍的な質問への答えのヒントとなるかもしれない。

第一回は、カラフルさと華やかな香りで知られているUK発の化粧品・バス用品メーカー『LUSH(ラッシュ)』の日本法人、株式会社ラッシュジャパンで働く山下夏子(やました なつこ)氏に話をうかがった。

夏子さんのストーリーを通して、LUSHという企業を知る。

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山下夏子さん

掲げた理念を体現する人たちが集まる場所

大学時代から「社会をもっといい場所にしたい」という思いを抱いていたという夏子さんは、法学部で国際政治や国際法を学んでいた。しかし、政治や法律の世界は対立した相手を否定することを避けられない。「片方がマイノリティとなり、マジョリティだけがハッピーな社会になってしまう」、勉強していくなかでそう感じ始めモヤモヤしていた。

そんな思いを抱えたまま留学したアメリカで、持続可能なビジネスモデルを実現できる「サステイナブルなビジネス」という概念に彼女は出会う。気候変動、水資源の問題、森林伐採、生物多様性の減少など、人類が抱える課題にビジネスを通して挑戦していくことに興味を持ち始めたのも、この頃だった。

私は社会を変えるような革命的なことを起こすタイプではないかもしれないけれど、「このままでいいのかな」って、何に対しても疑問は持っていました。

アメリカから帰国後、就職活動の時期も近づいてきたある日、ショッピングをしているときに出会ったのがLUSHのノットラップ(風呂敷)だった。可愛いデザインに惹かれて購入したが、そのときもらったLUSHの小冊子「Lush Times」*1には、LUSHは資源を再生しながら原材料を調達していると何気なく書いてあるのが目に止まる。「日本にもこういう会社があるんだ」、アメリカ留学時代に触れたサステイナブルなビジネスを体現していた企業を日本で見つけ、それ以降、積極的にLUSHの開催する製造工場の見学や店舗で行われるトークイベントに参加するようになったという。

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決定打となったのは、イギリスで開催されるLUSHの全世界のマネージャーが集まるイベント「ラッシュクリエイティブショーケース」に、顧客から特別に2名だけ招待されるという企画で当選したこと。そこではLUSHのオフィスメンバーや店舗のスタッフと濃密な時間を過ごし、LUSHは社会にとっていい影響を与えるような理念を掲げているだけではなく、実際にその理念を体現している人たちが集まっている場なのだと実感した彼女は「ここにいたいとすごく思った」と思い返す。

当時は新卒採用を行っていなかったLUSHだが、履歴書を送り猛アピール。彼女の情熱は届き、インターンとして2016年に入社した末、2018年にそれまでのLUSHとしては異例の新卒・新入社員となった。

(*1)現在は『Lush Times』に紙版はなく、オンラインのみ

声なき人々の声を伝える仕事

 

二匹のうさぎのイラストと共に「NO!動物実験」と書かれた手提げ袋が印象的なLUSHが、動物愛護的な思想を持つことを知っている人は少なくないかもしれない。実際には、動物愛護の活動にとどまらず、同社はあらゆる分野において地球に、人に、動物に優しくあることを理念に掲げている。

LUSHにはCSRだけを扱うようなわかりやすい部署があるわけではなくて、意思決定をするごとに倫理観に反していないかどうかという基準で物事を考えています。

それは「原材料の栽培や採取の方法が地球に負荷をかけていないか」や「原材料のサプライヤー先の労働者はフェアな賃金を支払われているか」から「社内のミーティングで用意される食事に肉が使用されていないか」まであらゆる面に対していえる。

また、社会貢献の現場で第一人者として活動しているNPO・NGOやボランティアの人々をサポートするために、2007年9月にハンド&ボディローション「チャリティポット」の発売を開始して以来、同商品の売上の全額を社会課題の根本的な解決に取り組む小さな草の根団体に寄付している。

知識とか、パッションはあってもオーディエンスが少なかったり、資金がなかったりして社会を変えるほどの影響力が十分ではない人たちとLUSHが協力して、プラットフォームとなり、声を伝え、みなさんに共感してもらえるように活動しています。

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そんなLUSHでの夏子さんの仕事は、メディアスタジオというチームで商品の裏側にある社会問題や声なき人々の声を伝えること。要はLUSHの編集部である。

本国イギリスに続き、2017年にLUSH独自のメディアを立ち上げた日本チーム。LUSH(LUSH公式チャンネル)、Lush Kitchen(コスメの舞台裏)、 Lush Times(社会問題に焦点を当てたジャーナリズム) Soapbox(声なき声の発信), Gorilla Arthouse(カルチャーとアート)、 Lush Life(生活に関わるライフスタイルとカルチャー)の6つのチャンネルを設けている。

夏子さんはそのなかでも主にLush TimesやLush Life、Gorilla Arthouseで執筆を担当し、「語られることを必要としている物語」を世の中に発信し続けてきた。これまで山口県・上関原子力発電所を取材で訪れ地元の人の声を記事にし、全国の店舗で建設中止を求める署名活動を先導したり、青森県のレインボーパレードに参加し、LGBTQ+コミュニティの声を発信、LUSHとしての彼らへのサポートを示したりしてきた。

「仕事何してるの?」って聞かれて、特に大手に勤めていると会社名で答える人って私の世代に多い気がするんです。でもそれって本当に仕事なんだろうかって、それって会社の名前じゃんって思ってて。私はラッシュで働いていますが、自分の仕事はライターであり、それに誇りを持っています。”会社がそうだから”ではなくて、世の中に伝わるべきだけれど伝わってないことを、自分が届けたいと心から思って日々チャレンジを続けています。

シンプルだけど大切な、LUSHの軸となるもの

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LUSHの創立者マーク・コンスタンティン氏の考えは、単純かつ明快である。子どものときに学校で習うような「人に優しく」や「動物をいじめちゃだめ」といった道徳観念を大人になっても、そして企業レベルになったとしても変わらず持ち続けること。

「LUSHはあくまでもビジネスとして利益を生み出すことにとても興味がある」と度々マーク氏は強調するそうだが、「ビジネスになっても道徳を忘れない」という単純な軸さえあれば、思っているよりもずっとシンプルに企業として倫理的に間違った方向に進むことを避けられるのかもしれない。

夏子さんが就職活動で悩んでいたときに、たまたま参加したLUSHのイベントでマーク氏が「LUSHが利益を生み出し続けなければ、そのまわりにいる草の根団体や労働者にお金が回らなくなってしまう。LUSH内部の人がハッピーじゃなければハッピーを届けられない」と話していたのを聞いてとても共感したそう。

ビジネスをうまくやりながら、そのお金を自分のためだけに使うのではなく、自分がこんな世界がいいな、って思った世界を作るために投資するっていうのは、すごくシンプルだけどやるべきことだなって思いました。

そんな思想を持つLUSHで働く夏子さんに、働くことの意義をうかがうと、「自分の幸せとか、楽しいことがどこかで誰かの幸せにつながっていること」という返事が返ってきたのは決して不思議ではなかった。

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化粧品が大好きだからって他のブランドに入っていたら、もしかしたらそこは動物実験をしているかもしれない。正しくないと思っても、仕事だからしょうがないってやらなきゃいけないかもしれない。でもLUSHでは自分が嫌な思いをすること、信じていないことをやらなきゃいけないって状況には絶対にならないんです。

「社会に出たら…」「現実的に考えれば…」などの、よく耳にする“大人の決まり文句”。社会人になると、まるでそれまでとは違う生き方を期待されているかのように感じた人もいるかもしれない。だが、「小学校で習った道徳を忘れない」といった非常にシンプルな軸を持って成功しているLUSHの存在が、ビジネスのありかたを、そして個人としてのありかたを考え直させてくれる。

LUSH(ラッシュ)

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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