「何よりこれが一番自然な選択だった」。東京からUターン、宮崎で藍染師への道を歩む男の目指す場所|EVERY DENIM山脇の「心を満たす47都道府県の旅」 #004

Text: YOHEI YAMAWAKI

Photography: ERU AKAZAWA unless otherwise stated.

2018.7.31

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こんにちは!EVERY DENIMの山脇です。EVERY DENIMは僕と実の弟2人で立ち上げたデニムブランドで、2年半店舗を持たず全国各地でイベント販売を重ねてきました。 2018年4月からは同じく「Be inspired!」で連載を持つ赤澤 えるさんとともに、毎月キャンピングカーで日本中を旅しながらデニムを届け、衣食住にまつわるたくさんの生産者さんに出会い、仕事や生き方に対する想いを聞いています。
 
本連載ではそんな旅の中で出会う「心を満たす生産や消費のあり方」を地域で実践している人々を紹介していきます。

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▶︎山脇 耀平インタビュー記事はこちら

今回紹介したいのは、藍染め師への深いリスペクトを持ち、日本の伝統を継承しようと奮闘する二上拓真(ふたかみ たくま)さん。地元・宮崎県で60年以上続く工房で働く、若き藍染め職人のいままでとこれからを伺いました。

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二上拓真さん

愛ある師の人柄に惹かれUターン

『綾の手紬染織工房(あやのてつむぎせんしょくこうぼう)』。二上さんが勤めて4年になるこの工房は1966年、染織作家の秋山 眞和(あきやま まさかず)氏によって創設された。

蚕を育て、絹糸を紡(つむ)ぎ、手動の木製織り機で織る。素材から生地になるまで、人の手を動力としたこの昔ながらのやりかたで、「綾の手紬染織工房」は着物を中心とした和装の生地をつくり続けている。

地元・宮崎県で高校卒業後、東京の大学に進学した二上さんは、農学を専攻し農作物を巡る環境について学んでいた。3年生になり徐々に将来のことを考え始めていたある日、新宿の百貨店で行われていた催事を訪れる。

新宿の宮崎物産館での展示販売の中に、藍に染められた美しいストールがあった。それこそが、染織業界を代表する作家・秋山氏が手がけた藍のストールだったのである。

色の綺麗さに惹かれた二上さんはそのストールをすぐに購入。催事の現場に居合わせた秋山氏の友人に直談判し、宮崎の工房を見学させてもらう約束を取り付けた。

『綾の手紬染織工房』は、僕が生まれ育った町の隣町にあるということで、小さい頃からその存在だけは知っていました。でもまさか、自分の地元でこんなにも素晴らしいものづくりをしている人がいるなんて。しかもそれを東京で知るなんて、全く思ってもみませんでした。

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思い立ったら即行動が信条の二上さん、さっそく帰省し工房を見学させてもらうことに。そこで見たのは、糸から生地まですべて人間の手によって丁寧に作り上げられていく工程。伝統的に受け継がれてきた手紡ぎ、手織り、染めを目の当たりにし興奮が冷めやらなかった。

長い経験の中で削ぎ落とされた、シンプルな所作を美しいと感じた。こんなにも人がなめらかな動きをすること、その風景を人から人へ継承しずっと残してきたこと。その事実にただ心を打たれたという。

そんな工房を主宰する秋山氏とも対面。彼が見せてくれた数々の染物作品。その表現の豊かさはやはり圧倒的だった。ただそれ以上に、二上さんは秋山氏のユーモア溢れる素敵な人柄に心を奪われたという。

初めて会った時僕は緊張でガチガチだったんですが、秋山さんはとにかく気さくで面白く、素人の僕に対しても丁寧に接してくださいました。ものづくりのクオリティもさることながら、彼の人柄に惹かれてしまって。そのとき直感的に「この人についてったら面白そう!」と思ったんです。大学卒業後、どのように生きていくか。モヤモヤしていたところから、一気に道が拓けた気がしました。

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当時大学院への進学も視野に入れていたという二上さん。秋山氏との出会いから弟子入りを決意し、4年生の夏に再び工房を訪れ働かせて欲しいと懇願した。最初こそ断られたものの、やがて想いは受け入れられ大学卒業とともにUターン。晴れて手仕事の職人として一歩を踏み出した。

自然な選択を大切にする

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現場の工程を一通り経験し、現在は糸や生地の藍染めを主な担当とする4年目。とにかく若手が少ないと言われるものづくりの職人世界において貴重な人材でもある彼は、業界に入ったという決断を「自然な選択」だと語った。

「東京から宮崎に戻って工房で働く」と周囲に話した時は、とても驚かれましたし止められました。突発的すぎるだろうと。なんでそんな道を選ぶんだと。でも自分にとっては、何よりこれが一番自然な選択だった。秋山さんも当時72歳。彼から技術を継承するには急がなければという気持ちもありました。

自分の心に問いかけ、納得する道に踏み出すこと。きっとうまくやっていけると自信を持つこと。すべて根拠のないことかもしれませんが、大きな決断をする上では大切な考えだと思っています。

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染め師として藍の染料と向き合う日々。どうすればもっと美しく染められるか。きれいな藍色を出すことができるのか。試行錯誤が続く中で、やればやるほど、秋山氏のすごさに驚かされるばかりだという。

うまくいくときもあれば、そうでないときもある。希少な天然素材を使用する分、失敗ができないというプレッシャーと、歴史的に積み重ねられた奥深い技術の数々。職人として成長するには十分すぎるほどの環境の中で、二上さんは師の技術を継承しようと奮闘しているのである。

秋山さんが安心して生きていけるように、自分がもっともっと成長したい。規模が縮小しているこの産業で、22歳・経験0の僕を工房に受け入れるのがどれほど覚悟のいることだったか。その想いが身に染みるからこそ、秋山さんの生きてきた証をしっかり継承したいと思うんです。「秋山がやってきたことは価値があるんだぞ」ってことを伝えていきたい。

「意志を引き継ぎたい」そんな風に思える人と出会うこと。それがどれだけ人生を豊かにするのかを、二上さんは教えてくれた。

伝統は信念

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二上さんが働く「綾の手紬染織工房」のように、手紡ぎ、手織り、手染めなど、手仕事を生業とする工房は、生産効率だけを追求すれば機械に頼るのが正解であるいまの業界において、これからどうしていくべきなのか。

どこの工房も「自分たちの基準」を設けることが必要だと考えています。特に僕たちが関わるこの和装業界では、昔からずっと人から人へと受け継がれてきた技術や技能がある。その中で、何を大切に思い、どこを残していくのか。逆に何を残さなくていいのか、それをしっかりと考えないといけない。

考えるためにはいま、僕たちの何が価値として世の中に提供できているのかをもう一度見つめ直す必要がある。「人の手でつくられている」というのは、その手段でしか到達し得ないクオリティのモノを届けているからなのか、はたまた、希少性にこそ価値があるのか。

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和装織物として半世紀以上ものづくりを続けてきた「綾の手紬染織工房」であるが、着物という、「上質」「尊さ」といったイメージを表現できるものづくりに携わり続けてきたからこそ、今後、もっと身近に、人々の暮らしに日常的に溶け込むためには、つくる側自身が発想を柔軟にしていく必要があるという。

自分たちが行う仕事について、何を価値として残していくのか、伝統的と言われる産業だからこそ真剣に突き詰めていかなければいけないのですね。そんな風に質問した筆者に、二上さんは微笑みながらこう返した。

伝統的ってラテン語で「traditio(トラディーシオ)」、英語で言うところの「surrender(サレンダー)=終わる」という意味と「hand over(ハンドオーバー)=手渡す・引き継ぐ」みたいな意味があって、消えるものは消える、残るものは残るという考え方こそ伝統だと思うんです。

さらに英語で「tradition(トラディション)=伝統」を調べると、最初に出てくるのが「belief(ビリーフ)=信念」という意味。つまり伝統はカタチじゃなくて思想で残すべき。というのが僕の考えです。

師匠・秋山さんから受けたすごいと思う考えを僕はしっかりと引き継いでいく。そしてそれ以外は変えていく。変化させなければ生き残っていけないけど、変えてはいけない考え方もある、ということは肝に命じておかないといけないでしょう。

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二上さんは僕と同じ1992年生まれ。同世代の人間がこれほどまでに国内の手仕事と向き合い、哲学を深めていっていることに、とても大きな刺激をもらいました。

大きな変化を生まなければ生き残っていけない業界の中で、それでも変わらない良さを探そうとしている。持ち前の好奇心を目いっぱい使って、自らの心のうちに、美しさとは何かを問いかけながら。

「僕が秋山さんと出会い、一緒に働きたいと思ったように、僕と出会ったことで、ともに働きたいと思ってもらえる人間になりたい」。インタビューの最後でポロっとこぼした二上さんの夢。

彼の願いはそう遠くない未来に叶えられるだろうと確信しています。

二上 拓真

TwitterInstagram

1992年生まれ。東京の大学在学中に藍染め師・秋山眞和との出会ったことから地元宮崎県の染織工房へと就職を決意する。本藍染めを軸に、養蚕から染織まで絹織物産業の担い手、伝え手として活動している。

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山脇 耀平 / Yohei Yamawaki

TwitterInstagram


1992年生まれ。大学在学中の2014年、実の弟とともに「EVERY DENIM」を立ち上げ。
オリジナルデニムの販売やスタディツアーを中心に、
生産者と消費者がともに幸せになる持続可能なものづくりの在り方を模索している。
繊維産地の課題解決に特化した人材育成学校「産地の学校」運営。
2018年4月より「Be inspired!」で連載開始。
クラウドファンディングで購入したキャンピングカー「えぶり号」に乗り
全国47都道府県を巡る旅を実践中。

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キャンピングカーで巡る47都道府県の旅のスケジュール

第5回:2018年8月14日(火)〜8月21日(火)

行き先:
8月14日(火)徳島
8月15日(水)徳島
8月16日(木)高知
8月17日(金)香川
8月18日(土)香川
8月19日(日)高知
8月20日(月)愛媛
8月21日(火)愛媛

現地でのイベント情報は随時更新していきます!詳しくはTwitterをご覧ください。

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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