古くなったから、飽きたから。
私たちは日々、ものを捨てる。
そして、そのものはゴミとなる。
でもそのゴミだって本当は、私たちの考え方一つでゴミにならなくてもよかったのしれない。
5月の特集「WASTED LOVE」は、
誰かのゴミを愛を持って生まれ変わらせる、あるブランドのストーリーを届けます。
古着のほか、一点物のリメイクを主に扱う432(よんさんに)。今年3月に始まったばかりの432は、ゴミ同然に扱われる古着や古布をハンドメイドで生まれ変わらせ、新しい価値を与えている気鋭のチームだ。
このハンドメイドという方法には、もちろん一点物のオリジナリティを追求するという面もある。しかしそれ以上に、ものを作る過程で、できるだけエネルギーを消費したくないという思いがある。
常に市場へ投入され続ける無数の服と、四季の移り変わりよりも早く発表され続けるアパレル産業の前のめりなサイクルに逆らうように、「服は作りたい時に作ります」と語る432のn2k(なつき)とTIA(てぃあ)。
今回はこの二人に、アパレル産業の常識に逆らっても実現したい未来について聞いた。
n2kとTIA、二人の出会いは、ともに文化服装学院で学んでいた学生時代までさかのぼる。
学ぶ科は違ったが、同校文化祭の目玉であり、毎年2万人以上の来場があるというファッションショー、その舞台裏を支える音響効果のチームで初めて顔を合わせた。ただ、当時は挨拶を交わす程度で特に仲がよかったわけではなかったという。
転機は昨年。n2kが自分の故郷である福島にTIAを誘ったことだった。
当時学校を卒業し、地元福島の古着屋で働きつつ、知り合いと野菜を作っていたn2kが、TIAがビーガンだと知っていたので「野菜食べに来る?」と誘ったのだとか。
福島で再開した二人は、互いに音楽と古着が好き、環境に関心があるという共通点をもとに仲良くなっていった。
当時すでに432の構想をパートナーと温めていたTIAだが、この再会を機に、n2kもチームに加わることになる。
TIA:もともと、今はロサンゼルスにいる432のもうひとりのメンバーと私で「古着屋やりたくない?」って話してたところに432の土台があります。自分たちが好きな90年代のレイブ*1系の服をアーカイブしたいから、そういう服を作ろうって考えてたんです。で、n2kもレイブが好きで気が合ったから、一緒にやろうってことになって。
ちなみにメンバーそれぞれに決まった役割はないという。理由は、「役割を決めてしまうとルーティーンワークになっちゃいますよね。だからその都度できることをみんなでサポートし合いながらやってます」とのこと。
432自体も古着というアウトプットに限らず、今後はアート、フード、音楽などにも着手して、表現の幅を広げていく予定だという。時代に合わせて、自分たちがやりたいことを、やりたいときにやっていく、そんなスタンスらしい。
「今はやりたいことがありすぎてどうしよう」と笑いながら話してくれた二人。生まれたばかりの432の目の前には、まだ見ぬ可能性が満ち満ちている。
(*1)1980年代の終わりにイギリスで起こったクラブ・カルチャーの大衆化によって発生した大規模なダンス・パーティーから派生した音楽、ファッション、パーティーなどの総称。
そんな432の二人だが、ゼロから新しいものを作り出すことに興味があまりなく、今あるものをかけ合わせて新しい価値を生み出すことに意義を感じているという。
それは冒頭に記したように、省エネルギーの観点からくるアプローチであり、毎日大量に生み出される服を前に「新しく作る必要ある?」と自問自答した末にたどり着いた一つの答えでもある。
また、二人とも消費を煽る広告が苦手だといい、それも大きな理由になったそうだ。
TIA:消費者の購買意欲を掻き立てる広告とかがあまり好きではなくて。だって、今目の前にたくさんの服があるのに、なんで新しい服を作らなきゃいけないんだろうって思いません?
n2k:一番のエコは無駄なものを買わないことだと思うんです。便利さだけを求めて消費するって、人や環境に対して無責任。
「新しい服を作る必要があるのか?」。
この疑問を前に二人は、「今あるものを最後まで使おう」と、古着やリメイクという方法をとった。それは、消費のサイクルを常に回し続けるために流行を生み出すアパレル産業の常識とは対極に位置する考え方だ。
だから432のアイテムは、シーズンという動機ではなく、「出したい時に出す」という動機で生み出される。何かに急かされることがない純粋なアウトプットは、だから奔放で、型にはまらない。どこまでも自由だ。
取材中、TIAがふいにもらした言葉が印象に残っている。二人に話を聞いたカフェのドリンクグラスに挿してあるストローを見て、彼女は「このストローがめっちゃ気になってるんですけど(笑)」と切り出しこう続けた。
TIA:「ストロー使います?」って一言聞くだけで、ゴミって結構減ると思うんです。少なくとも聞かれたら「ストローいるかな?」って考えますよね。あと、コンビニとか本当に小さいものを買ってもビニール袋に商品を入れるじゃないですか。あれも入れる前に一言あれば結構変わるし、こっちから一言言って断ることもできますよね。
何気なく口をつけているストローや手に持っているビニール袋は、果たして明日どうなっているのか。身近にある小さなそれらは、存外、大きな問題へとつながっている。
TIAの言葉にn2kが続ける。
n2k:そういう小さなアクション、自分のできる範囲で行動すればいいと思うんです。432のウェブサイトに「あなたのほんの小さなアクションが大きな変化へつながると信じています」という言葉があるんですけど、これは私たちの軸のような考え方です。思えば私たちが友達になって432をはじめたことだって、いつか大きな変化につながるんじゃないかって思ってます。
n2kとTIAの二人は、「エコじゃないからダメ」「プラスチックは絶対にNG」というアプローチではなく、今からできる簡単なアクションをベースに環境問題と向き合っている。
「自分のできる範囲で行動すればいいと思うんです」。
n2kのこの言葉から分かるように、彼女たちのスタンスには、誰かを否定する意図が感じられない。
「今目の前にたくさんの服があるのに、なんで新しい服を作らなきゃいけないんだろうって思いません?」。
TIAのこの言葉は、アパレル産業の核心を突く。この“Why”に答えられないアパレルブランドは、今後、厳しい時を過ごすかもしれない。
n2kとTIAはこの問いを前に、好きを表現しつつも、同時に環境に配慮するという思想をナチュラルに組み合わせて、432という答えを導き出した。彼女たちは、古い常識に囚われた人々を尻目に、軽やかに、これからの時代を走っていく。
HEMP CAFE TOKYO
Website二人のお気に入りのレストランはHEMP(麻)専門ダイニングHEMP CAFE TOKYO(ヘンプカフェトーキョー)。店名通りフードやドリンクにも麻が使われているという徹底ぶり。全てビーガン対応(乳製品、卵、肉などの動物性食品不使用)。
マイボトル
二人が当たり前のように使っているのがマイボトル。紙やプラスチックのカップを使わずマイボトルを持ち歩くスタイルは、身近なエコの代表格。国内外のコーヒーチェーンの多くでマイボトル持参の割引が用意されているように、世界的に浸透している。
辞書によれば「その価値にかかわらず所有する意志を放棄したもの」が「ゴミ」だと定義されている。
ゴミかゴミじゃないかは私たちの「意思」次第って不思議だけれど、私たちにはゴミを生み出さない力があるってことだろうか。
食料品の廃棄を禁じる法律の制定を皮切りに、衣料品廃棄を禁じる法律の整備を進めているフランスなど、国家レベルで動いている国もある。
便利さが正義のように感じられる現代の消費社会におけるめくるめく消費のサイクルは、私たちとは無縁の大きな動きのように感じるけれど、それを案外個人の考え方で変えられるという事実は小さな希望といえるかもしれない。
ゴミで溢れかえった時代なんて、変えてやろう。
Giving Project by MiiR
WebsiteドリンクウェアのブランドMiiR(ミアー)は、“製品そのものをプロジェクト化する”新しいビジネスモデル「Product to Project™️」を企業理念とし、毎年企業収益の3%を利用して世界中の水、教育の行き届かない地域のサポートプロジェクトに取り組んでいる。全ての製品にはGive Code™が印字されており、購入者自身がウェブ上で登録することで様々なプロジェクトやコミュニティに参加、追跡できる。
The Earth Polo by RALPH LAUREN
WebsiteアパレルブランドRALPH LAUREN(ラルフ・ローレン)が、独自のカーボン染色によって染色に水を使用せず、かつリサイクルしたペットボトルを素材にしたポロシャツThe Earth Poloをリリース。The Earth Poloの素材には、一枚あたり約12本のペットボトルが使用されており、そのため同製品が作られるたびにこの地球からペットボトルがリサイクルされていくという。
530 conference 2019
Event PageNEUTで連載する中村元気が企画したカンファレンス「530 conference 2019」が、5月30日=ゴミゼロ(530)の日に開催される。「サーキュラーエコノミー(循環型社会)」をテーマに、現場で活躍する方を登壇者に招いたトークセッションと、実際のビジネスケースを用いた実践的な内容のワークショップを実施。参加者に循環型ビジネスを実践するための具体的な方法を持ち帰ってもらうことが目的。
SUSTAINABLE MATERIALS
Websiteさまざまな素材や技術を製品開発に結びつけるためのコンサルティング会社Material ConneXion Tokyo(マテリアル・コネクション東京)が、5月20日から7月31日にかけて、素材という観点からサステイナブルを考える企画展「SUSTAINABLE MATERIALS」を開催。期間中は参加企業によるプレゼンテーションのほか、SDGs(持続可能な開発目標)に関するセミナーも開催される予定。
#REUSEandRESPECT
#REUSEandRESPECT地球環境を考えてアクションする日アースデイ(毎年4月22日)に合わせてスターバックス コーヒー ジャパンが使い捨てプラスチック削減啓発キャンペーンを開始した。同社が1996年の日本一号店出店から提案を続けているマイタンブラーでドリンクを楽しむ人は年間600万人以上。ひとりのアクションの先に大きな変化を生み出すことを目指す同キャンペーンは#REUSEandRESPECTから参加可能。
都会のローカルコミュニティ、「原宿キャットストリート CATs」の活動日誌。
Article「消費の中心地」である原宿のキャットストリート沿いで、クリーンナップを中心に活動する地域コミュニティCATs(キャッツ)を主宰する中村元気。地域に関わる様々なレイヤーの人達と共に居心地のいい街を作るために日々活動している彼が、NEUTで連載している「都会のローカルコミュニティ、『原宿キャットストリート CATs』の活動日誌。」。同地での活動を通した様々な人々との出会いを交えて紹介している。
「ゆるいアクティビズム」によって動き出す、25歳会社員女性の“プラスチックさよなら活動”
Article会社員として働きながら、洗って何度も使えるステンレス製ストローのブランド「のーぷら No Plastic Japan」を始めたノイハウス萌菜。会社員との二足のわらじを履きつつ自分のペースを守りながら、環境に対して関心を持つコミュニティを広げていけたらと考えている。そんな彼女は、いわく「ゆるいアクティビズム」を通して、誰かが環境について考えるきっかけを作り出す活動を続けている。
環境アクティビスト 清水イアンの「22世紀の地球の歩き方」
Article「地球の歴史が24時間だったら、人類が誕生したのはラスト77秒手前。それから人類が及ぼした影響は絶大です」。この一節を起点に、“人と自然の関係性”に強い興味を抱く環境アクティビスト清水イアンが、現状予測される22世紀の世界に対して人がどのような影響を及ぼしているかを「種」にフォーカスして考える、「環境アクティビスト 清水イアンの『22世紀の地球の歩き方』」。約100年後の未来を歩くように紹介する。