こんにちは、環境アクティビストの清水イアンです。
想像してみてください。
あなたは数億年は優に生きる宇宙人旅行者です。真に「ユニバーサル」な音楽フェスへ向かうため、銀河間を横断する旅をしています。道中、あなたのロケットは「クライオジェニアン紀」*1の地球の横を飛び抜けていきます。
コスモスを代表するビッグでバンギングなヒット曲たちを5億年間思う存分楽しんだ後、帰り道にあなたはもう一度地球の横を通り過ぎます。この時、地球は「ジュラ紀」*2の真っ只中。
(*1)7億2000万年前から6億3500万年前まで続いた地球の歴史上もっとも壮絶だった氷期が二つあった時代(紀)です。「紀」とは地球の歴史の単位の一つです。クライオジェニアン(Cryogenian)の語源はギリシャ語で「氷」を意味する「Cryos」 と「誕生」を意味する「Genesis」。
(*2)2億130万年前から1億4500万年前まで続いた「紀」。英語では Jurassic Period。一応、映画ジュラシックパークのテーマになった恐竜の生息していた時代です(実際の恐竜はほとんど白亜紀のだけど)。
約7億年前、今の東京は南極ほど寒かった
星屑を蒸留してできたスペース・ウィスキーをちびちびと口にしながら、偶然、行きも帰りも、あなたは窓の外にふと目を向けます。そこに宇宙の暗がりの中で光り輝く地球を発見したあなたは、「なんて美しいんだ!」と思ったかもしれません。しかし、帰り道に、「そういえば、5億年前にもこの惑星の横を通ったのを覚えてるぞ!」とはきっと思わなかったことでしょう。
なぜでしょうか?
クライオジェニアン期間、地球はまるで「雪玉」のようにほぼ完全に氷によって覆われていました。その時代には、現在東京がある位置は南極ほど寒く、目視できる生物は存在しませんでした。海の中はほとんど空っぽです。
ジュラ紀の地球はより青く、暑い惑星でした。植物が密生した超大陸*3を巨大な恐竜が歩き回り、海も生命に溢れていました。氷河などの氷は、標高の高い地域や、南極と北極付近にのみ存在していました。
エイリアン・トラベラー(あなた)の視点から見たクライオジェニアン紀とジュラ紀の地球は、二つの全く異なる惑星に見えたことでしょう。
気候、生態系、地質の観点からも確かに大きく違いました。しかし、例え氷に覆われて空っぽだろうが、暑くて忙しかろうが、二つの地球には目には見えないある根本的な類似点があります。それは、様々な自然の力やプロセスによってその状態が形成された、ということです。
(*3)今の地球にある大陸がまだ繋がっている状態がジュラ紀にはありました。この繋がった大陸を「超大陸」と言います。
地球の歴史が24時間だったら、人類が誕生したのはラスト77秒
ジュラ紀から早送りすること数億年、「完新世」(かんしんせい)*4にたどり着きます。完新世は、私たち全員が、今、この瞬間に呼吸し生活している時代です。
しかし、地質学者を含むたくさんの研究者が、もはや私たちは完新世に住んでいると考えるべきではないと主張しています。彼らいわく、私たちは未だ見たことのない時代への幕を開けたのだと。それは、たった一種類の生き物が君臨する新しい時代。その種とは、ホモ・サピエンス、僕や君のことです。
(*4)1万1700年前に最後の氷期が終わったところからから現在に続く時代。英語では Holocene と言います。Holocene は Holos (=全体) + Cene(=新しい)の組み合わせ。長い地球の歴史(46億年前から続く)のことを「地質時代」と言い、区分は大きいものから小さいものまでこんな順位です:累代(Eon)> 代(Era)> 紀(Period)> 世(Epoch)。「世」は「紀元」の区分。つまり、「世」は「紀元」よりもより細かい時代ということです。
地質時代(あるいは数億年生きる宇宙人旅行者)の視点に立つと、ホモ・サピエンスが地球に降り立ったのはほんの最近のことです。地球の歴史を24時間に圧縮すると、人類が誕生したのは24時のたった77秒手前のこと。
たったの77秒。にも関わらず、私たちが地球に及ぼした影響は絶大です。
すでに私たちは数多くの生物の分布と個体数を永久に変えました。容赦ない化石燃料の使用は気候変動や海洋酸性化*5を引き起こしました。農地、都市、道路やその他の産業活動は地形や生態系に不可逆的な変化を及ぼしました。地球の堆積物には過去の核爆弾の使用が刻まれています。人類の文明は、宇宙から見えるほどのスケールに成長を遂げました。
要約すると、ホモ・サピエンスは、地球の生態系、気候、化学、地質に「エポック・メイキング」と言えるほどの変化を与えてきました。文明が発展する中で自然のプロセスに並ぶ力を得た私たちは、地球の歴史上前例のない、地球の状態を形成する力をたった一つの種*6が有する新しい時代を誕生させたのです。
この新しい時代を「人新世」(じんしんせい)と言います。
いつかあの宇宙旅行者が地球に降り立つことがあれば、こうやって挨拶してあげましょう。
「人新世へようこそ」
(*5)CO2が吸収されることで、海の酸性度が増すことです。海の酸性度が増すと何が起こるのか?これについては連載の中でいつか触れます。
(*6)「種」とは英語で Species。全ての生き物が「種」です。生物の「区分」という理解で正しいです。
今から約100年後の「22世紀の世界」はどうなっているのか
昨年の6月まで、僕、清水イアンは環境NGO「350.org」という場所で働いていました。その頃に僕がNEUTで、環境活動をする中で出会った人にインタビューをした記事はここで読めます。中々いい記事があるのでよければぜひ。
350を辞めてからは、日本一ダイバーシティに富んだサマーキャンプを開催している教育ベンチャー Gakko (ガッコー)というところで日本代表をやりつつ、「環境に取り組むコミュニテイ&メディア」Spiral Club(スパイラルクラブ)のメンバーとして、空いた時間で環境について話したり記事を書いたりしています。
そもそも、僕は自然が大好きだから環境NGOで働いていました。でも僕は人も大好きなのです。自然も人も大好きだから、昔から「人と自然の関係性」に強い興味があります。
現在、私たちが生態系に及ぼす影響は、恐竜の時代を終わらせた隕石以上であると科学者は言います。それだけ人類は周りの世界を変化させることが得意になりました。人新世が幕を開けたと言われるゆえんです。
でもまだまだ、人類は世界に「どのような変化を及ぼしているのか」「その変化が自然、そして人類にどのような影響を及ぼすのか」について考えるのが不得意だと感じています。僕もまだまだ不得意です。知らないことばかりです。
なのでこの連載を通して上で挙げた二つの問いをたどる冒険に出かけたいと思います。そして今から約100年後の22世紀には世界がどうなっているのか、ちょっとした未来の予測を立てたいと思います。宇宙旅行とは行きませんが、興味深い旅となることでしょう。
連載では、人類が世界に「どのような変化を及ぼしてきたのか」そして「その変化が自然、そして人類にどのような影響を及ぼすのか」を追求する「入り口」として、毎回一つの「種」にフォーカスします。
例えば、マグロをその「種」に選んだとしましょう。マグロがそもそもどんな魚なのか、というところから、歴史の中でのマグロのことや、人間活動のマグロへの影響、マグロを取り巻く政治、マグロに関わる会社まで調べたいです。できるだけ多様な方の話を聞いて、最後はマグロの未来について考察して…うんうん。
楽しそう。こうやって「種」というレンズから「人間 × 環境」について色々と自分も勉強できて、みんなも知っていける感じにします。
まだ確定ではないですが、扱いたいなと思ってる「種」はこんな感じです!
・しろくま(この前アラスカ行ったし)
・牛 and/or 鶏
・サンゴ(種じゃないけど)
・マグロ and/or 鮭 or その他
・レタス and/or トマト or その他
・その他リクエストがあれば!
よし。
もうこれ以上説明するのは面倒だし、早く冒険に出かけたいので、次回の連載で会いましょう!
では!行ってきまーす!
清水イアン
読んでくれてありがとうございました。いかがでしたか?今回の連載は「環境に取り組むコミュニティ」Spiral Club(スパイラルクラブ)のメンバーとして行っています。Spiral Clubは誰もが参加できる「オープン」コミュニティです。「Let’s talk about the environment! 」(環境について話そう!)を掛け声に、情報発信、イベント開催、アート製作などなど行っています。2月2日にSpiral Clubローンチを記念するALL DAYランチ・展示・トークイベントを開催します。よければ遊びに来てください!入場無料です。