【NEUT MEETS 小袋成彬】ロンドンに移住して5年、磨いてきた人間としての形

Text: Fumika Ogura
Photography: Adi Putra
Styling: Taiki Kato
Hair & Makeup: Mikio Aizawa
Prop Styling: Yuusuke Ishii
Edit: Jun Hirayama
Location: Sasazuka Bowl

2024.8.31

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 2019年に東京からロンドンへ活動拠点を移した小袋成彬。コロナ禍を経て、5年の月日が流れるなかで、一人の人間として、そしてアーティストとしての気付きがあったという。最近聴いている音楽のことやアーティストとしての姿勢、ロンドンでの生活など今の小袋成彬の頭のなかを、NEUT Magazineの編集長・平山潤がのぞいていく。

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ピュアな部分から形作られていくもの

平山 潤(以下、平山):この撮影は、去年(2023年)小袋さんが日本に来ていたときにしていたんですが、そこからあっという間に年が明けましたね(笑)。

小袋 成彬(以下、小袋):前々から「NEUT」で何か一緒にできたらいいなとは話していたけど、去年帰国したときに、ようやく撮影が実現しました。あけましておめでとう!(笑)

平山:あのときはゆっくり話せなかったので、今日こうしてお話ができるのがうれしいです。最近はどんな感じで過ごしてましたか?

小袋:変わらず元気に過ごしているけど、デジタルデトックスしてました。単純に時間がなかったからというのもあるけど、現実世界としっかり向き合っていました。

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平山:今は制作中ですか?

小袋:そうです。今年はほぼ毎日スタジオに引きこもってます。ロンドンの友人たちと一緒に曲を作っています。アジア、アフリカ、アメリカと人種も結構バラバラで、どんなグルーブになるのか楽しみです。それぞれの見た目も違うので、ビデオでも残したら面白いかなと思っています。

平山:楽しみです。

小袋:あとは、最近、ジャズやファンクにハマっていて。マイルス・デイビスや、ロイ・ハーグローヴをよく聴いていました。マイルスは、歌うようにトランペット吹くなと思いながら、YouTubeでひたすら彼らの動画を漁ってました。あとは、トムクルーズ。これまで彼の印象は、大衆的なアクション俳優のイメージがあったんだけど、最近「レインマン」を観て、そのイメージが覆されて。それからファンになっちゃいました。

平山:今まであまり触れてきてなかったことを改めて見直している感じですね。

小袋:そうですね。ここ最近は、現代のものより、昔の作品を観たり聴いたりする時間が多かったかもしれないです。ちょうど先週、改めてエリック・クラプトンを聴いていて、その音楽的なピュアさにやられていました。

平山:ピュアさ?

小袋:彼の70年代前半の作品は、楽器が少なくて音がミニマルですごくかっこよくて。そこにピュアさとクリエイティビティを感じましたね。

今って、さまざまなプラットフォームで音楽を聴くことができるし、誰もが簡単に音楽を作れる時代になってきているじゃないですか。本当に素晴らしい音楽を見つけることが難しい時代だと思います。むしろクラプトンが生きてきたような、まだ環境が成熟していなかったときの方が、ミュージシャンの本質的な部分を強く感じやすいのかなって。

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平山:そのピュアさっていうのは、結局その人たちの音楽に対する愛だったり、本人の生き様だったり。もちろん技術的なこともあると思うんですが、小袋さんが惹かれる人たちの共通点ってありますか?

小袋:なんだろう。繰り返しになってしまうけど、ピュアさとクリエイティビティが共通点になるんですかね。本当にピュアなアートって、子どもの絵だと思うんです。でもそれに感動するかって言ったら、そのピュアさに対しては微笑ましいと思うけれど、心は奪われるほどではない。だから大人になっていく段階で、ピュアさを失わないことと、表現に付随していくクリエイティビティが大事になってくると思うんです。素晴らしいアートを作るためには、アプローチの仕方や言い回しなどを工夫したり、新しい視点と発想が必要になったりするから。

平山:あとは、持続性とかですかね? やっぱり、続けていくことで、自身の作家性やスタイルが築きあげられていくのかなって、個人的には思いました。

小袋:もちろん。でも俺は何かを続けようと思っているわけではなくて、これを作りたいという気持ちが当たり前のようにあるから。新しいものを生み出していくために、新しいプラグインを購入したり、楽器を購入したり、何かを続けていくための努力は必要かもしれないけど。人それぞれですよね。ディアンジェロなんてもうずっとリリースしてないし。プリンスは毎日のようにリリースしてたし。あれだけ出すってやっぱクレイジーな人だよね(笑)。こうして話していて思ったけど、さっき潤くんがくれた「惹かれる人たちの共通点」は、自分自身を信じている人かもな。

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嫌いなものが減って、自分という人間がどんどん見えてきた

平山:小袋さんの音楽を最初のアルバムから聴いてきて、毎回作風がちょっとずつ変わってきている印象があって。一枚目と今って全然違うと思うんですよ。どのアルバムも好きですが、自身の中で変わってきているなと思うところはありますか?

小袋:作品をリリースすることで人生にケリをつけるタイプなので、当時なにを考えていたか細かく覚えていないんですよね。特に一枚目は、まだ20代でキャリアの前半だからフレッシュなところもあると思うし。具体的に何が起きてどう変わってきたかを言葉で説明するとなると、難しいところではあるかな。

平山:個人的には、小袋さんとこうして言葉を交わしていくなかで、小袋さんの考え方がどんどん洗練されてきたのかなとは思いました。

小袋:それは間違いないかもしれない。自分とは一体どういうものなのかを段々理解できてきたのかも。音楽のスタイルもそうだし、人間としてのスタイルも含めて、昔に比べたら自分の色が出てきた気がします。

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平山:それって自分を受け入れていく作業だと思うんですが、どういうタイミングでそれを感じましたか?僕自身も今年からNEUTを一人で運営するようになって、改めて自分がどういう人間なんだろうって、考えるときがあって。

小袋:どうだろう。嫌いなものが減ってきたことに気づいたときかな。20代前半は、音楽や他のアートでも、あんまり好みじゃなかったらすぐ簡単に嫌いと思ってしまっていた気がするんだよね。若い頃は、まだ自分という存在が確立されてないがゆえに、早く本当の自分にたどりつきたくて、まるで彫刻のようにいろんなものをまず削ぎ落としてきた感覚があった。でもだんだん自分の本来の形が見えてくると、削ぎ落とすことよりもやすりで磨いていくことにエネルギーを割くようになって、それが「自分を受け入れていく」という感覚なのかもしれないです。ロンドンに住んでいるからそう思えてきたのかもしれないけど。

ロンドンで暮らしてから見える東京という場所

平山:ロンドンでの生活はいかがですか?もう住み始めてから5年くらい経ちますよね。

小袋:俺はお米にうるさいらしいよ(笑)。というのも、自宅で同居人がお米を炊飯器に放置したままにするのが信じられなくて、ラップにくるんでから冷凍庫に入れるように教えたら「あなたは服を散らかすくせに、お米にはいちいちうるさい」て言われて、思わずハッとしたんですよ。

平山:その発見、日本にずっと住んでいるとわからないですよね。そういう面で、ロンドンに住んでいて、国籍や人種や言語など自分のバックグラウンドとは異なる方々の行動に対して、なにか思うことはあったりしますか?

小袋:東京にいる人のなかで東京出身の人が意外と少ないのと同じように、ロンドンは世界中のいろんなところから人が集まっている都市なんです。イギリスに生まれ育ったけど両親がイギリス人ではない人も多いし。そういう状況にいると、そもそも違うことが当たり前なんだという感覚が育っていきます。あと、音楽は共通言語として存在しているなと最近つくづく思いました。コードを伝えると、セッションができちゃう。英語よりも先に、いろんな人とコミュニケーションができた言語だった感じです。

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平山:僕も一年間アメリカに住んでいたり、最近だとアジア諸国に遊びに行ったり、違う国で過ごすことで日本という国が見えてくることがあると思うんですが、イギリスと日本の違いを感じたことはありますか?

小袋:たくさんあります。でもこの前日本に帰ったら、観光客がめっちゃ増えていて、見た目のバラエティーはロンドンとあまり変わらなかった気がします。国際都市だなあって。ビヨンセが渋谷のタワレコに来るなんて、他の都市では絶対に考えられないことが起きてるよね(笑)。

平山:確かに(笑)。

小袋:街に緑が減っていることがある意味で東京の魅力の一つになってしまっているのが悲しいかな。自然との共存が今の街づくりでは感じられないよね。渋谷駅前の開発だって、デベロッパーに就職した地方の頭のいい連中が、資本主義的な理想の下に「俺たちのかっこいい渋谷」を作ってるよね。

平山:本当にそうですよね。そう思うと、他の都市は緑があったり、川があるところもありますし。

小袋:そう。ロンドンは割と緑が多い気がする。

平山:東京はコンクリートジャングルというか、満員電車しかり、街としてどんどん窮屈になっていく感じがありますね。緑が生活にないと気がめいっていく感じがありますし。

小袋:ブレードランナー的な風景が観光の売りになっているよね。だからこそ、本物とフェイクを自分で見極めていく力がさらに必要になってくるかもね。

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小袋成彬(おぶくろなりあき)

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日本・埼玉県出身、イギリス・ロンドン在住のアーティスト。株式会社TOKA創業者。

 

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