透明感のある歌声と、感情の揺らぎや変化の瞬間をまっすぐに捉えたリリックで、世界中のリスナーの日常に寄り添ってきた、ノルウェー西部・オーレスン出身のシンガーソングライター・SIGRID(シグリッド)。2017年のEP『Don’t Kill My Vibe』をきっかけに国際的な注目を集め、以降もポップスの枠組みの中で、誠実に“正直な自分の姿”を更新し続けてきた。
約3年ぶりとなる最新アルバム『There’s Always More That I Could Say』では、理由のわからない衝動や、言葉にしきれなかった感情、その曖昧さまでも肯定するようなサウンドとビジュアルを提示。ノルウェーの静けさの中で育まれた感性と、ダイナミックなコーラスワークが交差する本作は、彼女自身にとっても特別な一枚だという。
11月には約2年ぶりとなる来日公演を実現し、東京・大阪で熱狂的なステージを披露した彼女に、幼少期の記憶や感情を音へと変換する制作プロセス、新作アルバムに込めたテーマ、そして日本での体験やライブに対する想いを語ってもらった。

静けさの中で生まれた壮大なサウンド、そこに宿る感情
NEUT:ノルウェーで生まれ育ち、自然や静けさの中で音楽と向き合ってきたと伺いました。ノルウェーという土地は、あなたの音楽にどんな影響を与えていると思いますか?
SIGRID:私が育ったノルウェー西海岸の小さな町は、天気が悪い日も多くて、自然と家の中で過ごす時間が長かったんです。だからこそ、自分で“大きな音”を想像してつくるしかなかった。その感覚が、私の曲にあるダイナミックなコーラスにつながっていると思います。実家では、本当に私とピアノだけ、という時間がほとんどでした。
一方で、地元のカルチャースクールはとても活発で。私は10年ほど放課後に演劇とダンスを続けていて、ボーカルやピアノのレッスンはさらに長く受けていました。当時はアーティストになるためというより、ただ純粋に楽しかったからやっていたんです。実は、高校を卒業する直前まで「この道に進みたい」とはっきり意識していなかったくらいで……。

NEUT:感情と真っすぐに向き合ったメッセージ性の強い歌詞が印象的です。楽曲制作では、そうした感情をどのようにサウンドへと落とし込んでいるのでしょうか?
SIGRID:おお、いい質問ですね! インストゥルメンテーションそのものが、実はすごく多くの感情を内包していると思っています。新しいアルバムの中では、『Eternal Sunshine』が特にうまく表現できた曲ですね。
例えば曲の後半では、幽霊のような質感のバッキングボーカルと、ずっと走り続けるような“ギャロップ感”のあるビートを意識しました。シネマティックでありながら、感情の神経がむき出しになっているようなサウンドになったと思います。

NEUT:デビュー以来、世界的な注目を集め続ける中で、変わらず大切にしている“自分らしさ”とは何でしょうか。また、心を整えるための習慣や、今のあなたに影響を与えているアーティストがいれば教えてください。
SIGRID:ちょうど東アジアツアーから戻ってきたばかりなんですが、帰ってからは「自分にとって良い」と分かっていることを全部やりました!友達に会って、ゆっくりハイキングをして、料理をして、お気に入りのポッドキャストを聴いて、テレビを観て……そんな“ほっこりタイム”です。そして、とにかくたくさん寝ました。本当に。
正直に言うと、今日は自分のアルバム『There’s Always More That I Could Say』を聴いていました。何度も言ってるけど、好きじゃなかったら作品は出さないし、リラックスしている最中に自分の新しいアルバムを聴いているって、かなり良い兆候だと思いません?(笑)それくらい誇りに思っている作品です。ほんとに最高!
他には、Benee、Blondshell、Lily Allen、Rosalía、Iris Caltwait、Sa_G、そして Jouska の新作をよく聴いてます!

“理由のわからない衝動”その曖昧さを肯定する新作アルバム
NEUT:10月に約3年ぶりとなる新作アルバム『There’s Always More That I Could Say』をリリースされましたが、この3年間で心境や制作への向き合い方にどんな変化がありましたか?
SIGRID:このアルバム制作のためのスタジオ時間は、今までで一番楽しかったと言えるかもしれません。「完璧なアルバムを作らなきゃ」っていうプレッシャーではなくて、あらゆる感情をそのまま詰め込んだ“ひとつの作品”を楽しんで作るタイミングだと感じていました。

NEUT:アルバムのビジュアルがとても印象的です。作品全体を貫くテーマについて教えてください。
SIGRID:今回は初期2000年代のムードを意識していて、slickで洗練されているけれど、やりすぎない。それでいて楽しくて、生命力のある雰囲気を大切にしました。
でも、すべてを語っているのはアルバムカバーだと思っています。写真の中で私は叫んでいるけれど、その理由は自分でもはっきり分からない。怒りなのか、喜びなのか、傷つきなのか、いたずら心なのか、フラストレーションなのか……それとも、ただのアドレナリンなのか。その曖昧さ自体が、このアルバムのテーマなんです。

NEUT:アルバムタイトル「There’s Always More That I Could Say」からは、日常の中にある“もどかしさ”も感じられます。この作品で表現したかった「言葉にならなかった感情」とは、どのようなものだったのでしょうか。
SIGRID:まさにあなたが言っているような意味合いです。どんな出来事に対しても、私は“もっと言える”ことがある。でも、あえて言わない。

「私と同じくらい楽しんでほしい」SIGRIDが描くライブの理想形
NEUT:11月には約2年ぶりとなる来日公演も果たしましたが、日本の音楽や文化からインスピレーションを受けた経験はありますか?
SIGRID:あります! アルバムのエグゼクティブ・プロデューサーであるAskjellと一緒に『Two Years』を書いたんですが、そのとき私たちはインスピレーションを求めて2週間日本を旅しました。その結果、アルバムの中でも特にお気に入りの1曲が生まれたんです。先日、東京でAskjellと一緒にアルバム楽曲を披露できたのも、本当に特別な体験でした。

NEUT:ライブでは、どんなステージをイメージし、観客にどんなことを届けたいと考えていますか。
SIGRID:とにかく、私と同じくらい楽しんでもらえたら最高です!
東京と大阪のライブは、本っっっ当に最高でした。信じられないくらい。
NEUT:今後挑戦したいことや、ライブをしてみたい国はありますか?
SIGRID:またすぐに日本に戻りたいです。次はスキーをしに行きたい!それが私の夢なんです(笑)。
NEUT:最後に、日本のファンへメッセージをお願いします。
SIGRID:私の音楽を聴いてくれて、ライブに来てくれて、本当にありがとう。
みんなに会えてとても嬉しかったです。またすぐに戻ってくるね xx


SIGRID
ノルウェー出身のシンガー・ソングライター、シグリッド。
独特のハスキーさと突き抜けるハイトーンを武器に、2019年のデビュー・アルバム『Sucker Punch』で本国ノルウェー初登場1位、全英TOP5入りを果たし、世界的な注目を集めた。以降も『How To Let Go』(2022年)でノルウェー1位、全英2位を記録し、北欧ポップを牽引する存在として評価を確立している。
“脆さ・力強さ・喜び”を同時に宿した楽曲群で世界のリスナーを魅了し、総ストリーミング再生数は22億回を突破。グラストンベリーやOVOウェンブリー・アリーナをはじめ、ライブアクトとしても確かな存在感を示してきた。自由で本能的な制作環境から生まれたシングル「Jellyfish」を経て、2025年10月には約3年ぶりとなる最新アルバム『There’s Always More That I Could Say』をリリースし、11月には約2年ぶりとなるジャパン・ツアーを成功させた。

There’s Always More That I Could Say
1. I’ll Always Be Your Girl
2. Jellyfish
3. Do It Again
4. Kiss The Sky
5. Two Years
6. Hush Baby, Hurry Slowly
7. Fort Knox
8. There’s Always More That I Could Say
9. Have You Heard This Song Before
10. Eternal Sunshine