服も、楽器も、食事も、思い出も“捨てない精神”が強いミュージシャンが「消費期限の長い音楽」を作りたい理由|赤澤えると『記憶の一着』 #006

Text: ERU AKAZAWA

Photography: ULYSSES AOKI

2018.3.30

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こんにちは。赤澤 えるです。
思い出の服を持ち寄る連載『記憶の一着』、第6回です。
たくさんの服が捨てられる世の中で、残る服って何だろう。それはどうして残るのだろう。それを手放す時ってどんな時…?

服の価値、服の未来、
ゲストのお話をヒントに考えていく連載
です。

本日のゲストはミュージシャン・はっとりさん。「マカロニえんぴつ」というユニークな名前のロックバンドでヴォーカルとギターを担当する彼。現役音大生だった頃に組んだそのバンドの音楽は「全年齢対象ポップスロック」と称され、日々着実にファンを増やしています。バンドを代表するフロントマンである彼が選ぶ、『記憶の一着』とは?

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赤澤えるとはっとりさん

▶︎赤澤えるのインタビュー記事はこちら

“問題作”と言われるMVで着た『記憶の一着』とは

赤澤 える(以下、える):『記憶の一着』について聞かせてください。

はっとり:「鳴らせ」のMVで着た服。僕のバンド「マカロニえんぴつ」が全国デビューしたミニアルバムのリード曲です。バンドとしても俺としても思い出のある作品で着ていた、通称“鳴らせシャツ”です。大人の方々に協力してもらって初めてちゃんと撮った、すごく大事なミュージックビデオ。3年くらい前になるかな。

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える:あの話題作!何回観たことか…。

はっとり:“話題作”というか“問題作”ですね(笑)たくさんの人にそう評価されたMVです。未だに「顔が近い」とたくさん言われます。でもあの映像が無かったら届いていない人もいると思う。賛否両論ありますが一番再生回数が多い作品です。

える:あの内容は自分たちで決めたの?

はっとり:いいえ。監督にコンセプトを丸投げする形でした。撮影前にコンテをもらったんですけど、色々なシーンがあると思って楽しみにしていたら、ずっと同じカット。ただ人が向かい合っているだけで、最初は「…ん?」って思いました。どんなものになるのか想像がつかなかった。

える:主演のお相手は、瀬戸かほさんですね。

はっとり:そうです。初対面でいきなり向かい合って、5cmの距離で歌いました。

える:あれって合成じゃないの?!本当に向かい合っていてあの表情、すごい。

はっとり:そうなんです。合成って言っても信じる人がいるほど近すぎる距離。めちゃくちゃ歯磨きましたもん。現地に着いてからもブレスケアしましたし。

※動画が見られない方はこちら

飽きたら捨てるって言うので本来はOK

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える:これを買った時のことを覚えてる?

はっとり:学生時代からよく行っている下北沢の古着屋さんで買いました。MV用ってわけじゃなくて、単純にかわいかったので。最初のアーティスト写真もこれを着ていましたよ。

える:しっくりくるものに出会ったんだね。

はっとり:自分が小柄なのもあってオーバーサイズで着たいんです。タイトなのを着ると似合わなくて。袖も裾も長めの大きめサイズを着たい。だからこれはぴったりでした。生地がちゃんとしているからずっと着れてる。

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える:この服をもし手放すとしたらどんな時ですか?

はっとり:基本的に捨てないです。服もだけど、楽器のエフェクターとかもそう。壊れても捨てられないんです。捨てちゃえば良いんだけどね、捨てない。かわいそうだなって。紙袋とかも使う日が来るだろうと思って残しておきます。これは貧乏性って言われたら何も言い返せないけど。

える:基本的にモノを捨てられないタイプなんだね。

はっとり:小さい時にトイ・ストーリーがすごく好きで、あれが人生のバイブルなんですよ。捨てられたおもちゃたちが仕返しをするっていう話。モノには全て魂が宿っているから捨てたら絶対に悲しむんだって、アホらしいけどすごく信じてた。それが今でも自然に自分の中にあるのかなって思います。

える:そうかもしれないね。

はっとり:ごはんも同じです。全部食べる。残さない。メシ残す奴は本当に嫌い。この前もメンバーが、自分が注文したくせに「辛くて食えない」って言い出して…。 お前絶対に食えよって圧力かけました。スタジオより喧嘩する(笑)それくらい嫌なんです。

える: “捨てない”っていう考えや思いが、服だけじゃなく様々なジャンルであるんだね。それが音楽に反映していたり影響されていたりする感覚はある?例えば、楽器の音を余さず聴いてほしいとか、アルバムを隅々まで残さず聴いてほしいとか。

はっとり:これはすごくあると思います。掃いて捨てるほど音楽があって、ただでさえ消費されやすいシーンだし。でもそれを否定もできない。今は自分で選んで情報を取りに行く時代だから、飽きたら捨てるって言うので本来はOKなんです。音楽もだし、ファッションもね。それでもやっぱり自分の音楽が一時期ワッと聴かれて「次はあっちのバンドだ」なんて急にいなくなっちゃったらすごく悲しいし、実際そういう経験もあった。だからこそ、その場が盛り上がれば良いという音楽はやってきていないつもりだし、これからもやりたくない。ずっと先まで聴かれ続ける音楽をつくっているつもり。俺はそういうバンドになりたい。

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脱退メンバーの、最後の言葉

える:その服を纏ってからの3年間、どんなことが変わった?

はっとり:本当に色々ありましたけど、特に実感している変化は“感謝”をするようになったこと。「感謝をしなきゃダメだよ。自分一人で生きているわけじゃないから」って母親とかに言われるじゃないですか。そんなの分かってるし当たり前じゃんって思ってたんだけど、本当の意味で分かってなかったなって思うんです。

最近メンバーを1人失って、理由は色々あるんですけど「メンバーという一番近い存在に感謝をしていなかったな」って思ったんです。脱退の時に色々と本音を話してくれて「他のメンバーがついてこなくなっちゃうよ」って言われたんですけどそれで改めて反省して。身近な人への感謝が足りてなかった。この5年ついてきてくれたメンバーがいる中で、それが本当に欠けてた。

える:去っていくメンバーが教えてくれたんだね。

はっとり:そうです。あとそれによってライブのスタイルが変わりました。俺たち毎年「今年来るバンド」って言われ続けてて、それでも思い通りにうまくはいかなくて。それでも来続けてくれるファンの方がいる。その人たちへの感謝でライブが変わったんです。それまでは何のためにやっているのかっていうのが、いまいち自分の中ではっきりしていなかったところがあって、良いライブ・悪いライブの差もあまりよくわからなかった。でも最近は目の前の人に感謝をして、「俺たちを選んでくれてありがとう。あなたたちは何も間違っていないよ」って抱きしめるくらいのつもりでライブをするようになって。そしたら今まで苦手だったMCも自然と話せるようになって、自分がライブをやっている意味が分かってきた。楽しくなってきましたよ。

える:すごく伝わってくる。2、3年会っていなかったけど、本当に変わったね。言葉と表情にハリがあるというか…。

はっとり:変えてもらったって感じですけどね。過去の自分が嫌いですもん。一週間前の自分でも嫌い。夜眠れなくなるくらい、いちいち反省しちゃうんですよ。心配性というか、人からどう見られているかがすごく気になるんです。傷ついて気付くことも傷つけられて気付かされることもあるしそれは避けられないけど、俺は誰も傷つけたくない。

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昔の彼女は、自分の一部

はっとり:そういえば“捨てられない”って話で言うと、思い出もそうです。今日俺が選んだこの店も昔付き合っていた彼女と来ていたところ。男って基本的に昔の彼女のことを嫌いにならないと思うんです。自分を構成してくれた、自分を作ってくれた存在。その人が好きなものを好きになっちゃったりして、それが自分の一部になる感じ。だからたまにこういう思い出の場所にくることもなんとなく良いというか…(笑)懐かしいな、あの頃はあぁだったなって浸る。

える:そういうのって曲に反映されるの?

はっとり:そういう曲ばっかりですよ!今回のアルバムのテーマなんて「別れ」ですからね。初フルアルバムで「別れ」です。さっき言ったことに戻るけどやっぱり捨てられない。服もエフェクターもメシも、思い出も。

える:作品にしたら一生残るから、余計忘れられないね。

はっとり:忘れないために曲にしてるのかも。捨てて進まないといけないんです人って。離れて、捨てて、身につけて、また離れて、の繰り返し。でも俺はそれだけだと寂しい気もするから、時々拾いに戻るんです。ライブに来てくれる人にも、拾いたくなったらおいでって言いたい。そういう人のことも俺は捨てません!

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彼の“捨てられない”という価値観が、このバンドの全てなんだなと感じました。

言ってしまえば彼と私はきっと同じ立場。“捨てられない”または“捨てない”という価値観と、そうする価値のあるモノ、その両方を世の中に提案・提供する使命を背負っている者同士だと思います。

そして、音楽も服も扱う人の扱い方によって輝くし、傷つくし、時には簡単に消されてしまうこともある。

だからこそ、それに気がついた人から丁寧に愛すべきだなと彼と話して改めて感じました。instant GALAのステージでは、彼が捨てなかったものの集大成が観れそう。心から楽しみです。

マカロニえんぴつ はっとり

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Eru Akazawa(赤澤 える)

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LEBECCA boutiqueブランド総合ディレクターをはじめ、様々な分野でマルチに活動。
特にエシカルファッションに強い興味・関心を寄せ、自分なりの解釈を織り交ぜたアプローチを続けている。
また、参加者全員が「思い出の服」をドレスコードとして身につけ、新しいファッションカルチャーを発信する、世界初の服フェス『instant GALA(インスタント・ガラ)』のクリエイティブディレクターに就任。

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instant GALA

クラウドファンディング

あの日、あの時、あの場所で、あなたは何を着ていましたか?「載せたら終わり」の新時代、載せても終わらないものは何ですか?服への愛着・愛情を喚起し、ソーシャルグッドなファッションのあり方を発信する、思い出の服の祭典。
4月22日(日)渋谷WWW Xにて初開催です。

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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