社会を良くするために「ベスト」を目指さない男、江良 慶介

Text: Moe Sasaki
Photography: Kohichi Ogasahara

2016.1.29

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シンプルライフ、サードウェーブ、オーガニック、こんな言葉を見かけることが多くなった。ここ数年の間で、これらの言葉を「聞いた人」、「聞き慣れた人」、「聞き飽きた人」。様々な人がいるが、人の意識やライフスタイルに変化が起こっていることに気づいていている人も多いのではないだろうか。

たくさんお金を稼いで、高価なブランド品を買い揃えることはもはやステータスではない。それよりも仕事もプライベートも大切にし、身の丈にあった心地よい暮らしを作り出そうとする人がとても多くなっているのだ。そうした人々の意識の変化を汲み取り、サスティナブルなビジネスに取り組むのがkurkku alternartive(クルック オルタナティヴ)」の代表、江良 慶介氏だ。

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ベストではなくベターを目指す、新しい世代の働き方

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外資系企業に勤務していた20代前半、十分な収入がありながら、お金ではないものに価値を見出した江良氏。「自分が何かをすることで誰かのためになる方が満足感が大きい」と思ったのをきっかけに、2005、kurkku(クルック)の創始メンバーとなった。

「できるだけ広い人に共感してもらえるオーガニックな衣食住」を理念として、オーガニックフードのレストラン・バーを展開。
都心にひっそり佇む緑の空間、代々木VILLAGEを運営する会社だ。そこから派生したクルック オルタナティヴの代表として江良氏は、オーガニックコットンに関わるビジネスに取り組んでいる。

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「オルタナティヴ」という言葉は、音楽が好きな人には馴染みのある言葉かもしれない。「代案、新しくとってかわるもの」という意味がある言葉だが、どうして「オルタナティヴ」と名付けたのだろうか。

「ベストを探すのではなく『今よりちょっと違う形をした、今よりちょっと良いモノ』を探す姿勢を大切にしたいから」

江良氏はそう説明する。「ベストを目指すよりも、ベターな形を追求していくこと」“ベターな形”とは、誰でも、すぐにでも実行できる「オルタナティブ=別の可能性 / 第三の選択肢」のことなのだ。

「ふわふわのコットン」で人が傷つき、大地が死ぬ

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もし、今あなたがTシャツを着ているなら、ぜひ裏側についたタグを見てみてほしい。どこで生産されているだろう?私たちが身につけている衣料品やタオルやベッドシーツ、これらのコットン商品がどこで生産されているかを考えてみたことがあるだろうか。そして生活からコットンが消えてしまったらどうなってしまうか、想像したことがあるだろうか。現在、世界の主要コットン産地は、中国、アメリカ、そしてインドだ。そしてそこには、「ふわふわのコットン」によって苦しめられている人々が大勢いる。世界の全農作面積の「5%」にしか満たないコットン畑で、世界の殺虫剤の「25%」が使用されているのだ。この農薬は生産者の身体に被害を及ぼし、土壌を汚染して作物の収穫量を減らす。この問題に苦しむインドの生産者たちに、持続可能な栽培と生活の支援を行っているのが、クルック オルタナティヴが企画・運営している「プレオーガニックコットンプログラム」だ。

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この現状に対して江良氏はこう話す。

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「問題や課題を明確に意識することから、オルタナティヴを見つけることができる。インドのコットン畑の問題に気づいたから、サスティナブルに解決していく方法を考えるわけで。今のままじゃダメだ!ということに気づかないと、モチベーションにもつながらない」

また「コットン産業」と「ファストファッション」の深い関係についてもこう話す。

「ファストファッションも、農家にとっては収入を得るために必要な存在。だけど一方で、バングラデシュで起きた事故のように、ファストファッションの犠牲になっている人もいる。どこがどのように犠牲になってるかというのは一様にはいえない」

単純に良し悪しを決められないこと、そうした物事に行き当たったときこそ、江良氏がいう「ベストよりもベターを探す」ことが大切になってくるのかもしれない。

オーガニックコットンのイメージを変える「別の可能性」

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「5万円のジーンズ」と「数千円のジーンズ」あなたならどちらを買うだろうか?

「たとえ、5万円のジーンズが『天然の着色料を使って染めたオーガニックコットン』だとしても、数千円のファストファッションのジーンズが、『ある程度縫製がしっかりしている』のであれば、安い方でいいやって消費者は思うでしょ?僕だってそんなジーンズ買えないし!」

そう江良氏は笑いながら言う。

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「ファストファッション」に「オーガニックコットン」。どちらも消費者にとって選択肢の1つ。その中で、ファストファッションの代替品としてオーガニックコットンを選んでもらうための「工夫しているポイント」が2つあると言う。

①課題設定をすること

素材やモノやサービスを通して、消費者が本質的に課題解決に参加できる仕組みを作ること。

②単純にモノとして魅力があり、売れる商品にすること

「パッケージやブランドの付加価値も含めて、魅力的な商品にすることが、多くの消費者に選んでもらうためには必要不可欠なこと。『社会の課題解決になるからこの商品を買ってください』というのは乱暴だよね。商品としての良さと、僕たちのメッセージを両立させなくちゃいけないと思う」

やはり「オーガニックコットン」だからといって買う人は少ない。だから「あ、これいいじゃん」と気軽に手にとったものが、エシカルな商品だったくらいのバランスを目指さないと、選んでもらえないのだろう。

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「エシカル」という言葉は、どこか“真面目でいい子”なイメージをもたれやすいが、最近では、歩きタバコやポイ捨てなどは少なくなったようにも思える。それは、現代社会が“そういう行為”を「カッコ悪い」「ダサい」と認識し始め、少しずつエシカルなライフスタイルが現代人に定着してきているからだろう。

そんな自然と「エシカルなライフスタイル」が組み込まれている現代人が、江良氏の言う「オルタナティヴ=別の可能性」を追求していくことで、社会が少しずつ“ベター”になっていくのではないだろうか。

Be Inspired by Exam Exam Exam…

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最後に、Be inspired!というメディアに因んで、人生の中で「最もインスパイアを受けたモノ」は何か?と尋ねるとこう返ってきた。

「受験システム」

一瞬「?」が頭に浮かんだ筆者だが、彼は受験勉強に追われていた経験があり、システマティックな日本社会に懐疑的になったという。

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こうした受験戦争や、外資系企業での過度な競争社会の経験の反動が、「ベストではなくベター」「メインストリームではなくオルタナティヴ」を追求する江良氏の姿勢につながっているのだ。

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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