「社会をよくしたい」という気持ちはほどほどでもいい。ソーシャルグッド特化型クラウドファンディング会社の25歳社長が考える社会変革へのちょうどいいスタンス

Text: Noemi Minami

Photography: Daikichi Kawazumi unless otherwise stated.

2019.5.23

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人気クラウドファンディングサービス「CAMPFIRE(キャンプファイヤー)」によるソーシャルグッド特化型クラウドファンディング「GoodMorning(グッドモーニング)」(2016年10月〜)が2019年4月に分社化。代表取締役社長に、これまで事業部責任者を務めてきた現在25歳の酒向萌実(さこう もみ)が抜擢された。

今回NEUTでは「別に自分自身が特に社会問題の当事者だったとかいう意識はなかった」と話す彼女が、クラウドファンディングの可能性を信じ、社会を変革させようと全力で同事業に取り組みながら目指すところを伺った。

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酒向萌実

「社会をよくしたい」という気持ちはほどほどでもいい

イベントの開催費や映画制作費から、地域活性化のためのプロジェクトなどあらゆる場面で資金集めに使われるクラウドファンディングサービスは、近年めまぐるしい広がりを見せている。そんな中、“社会にいいこと”に特化したGoodMorningでは、2016年10月の立ち上げ以降約1,400件のプロジェクトが実行され、累計支援額は約7.3億円(2019年3月末時点)と、多くの社会課題の解決に取り組む団体や個人を支援してきた。

「プロジェクトを立ち上げる人だけではなくて、お金を払って支援する人たちも社会変革の担い手だよねって私たちは思っています」と話す同社の代表取締役社長の酒向は、サービスを通して人々がカジュアルに社会変革に関われるような環境作りを目指す。

本当に没頭してその社会問題に取り組んでないと「社会をよくしたい」って言っちゃいけないような空気がある気がして、それはなくしていきたい。ほどほどでいいと思うんですよね、ほどほどでいい人は。

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「GoodMorning」立ち上げより携わってきた酒向は、過去数年の取り組みの中で社会変革には「連帯」が必要だと確信したという。一つのプロジェクトが成功したとして、そのプロジェクトがどんなに素晴らしくともそれ単体で社会を変えることは難しい。大切なのは、様々な立場の人が様々な形で問題に取り組むことだという。そしてその参加度は個人ができる範囲でよく、「いろんなグラデーションがある中で連帯してみんなでちょっとずつ前進できるように」というのが彼女が辿り着いた答えだった。

別に自分自身が特に社会問題の当事者だったとかいう意識はなかった

「意識高い系」という言葉が現れてから久しいが、社会問題に取り組む人々に対して一定のイメージがあることは否定できないだろう。そのイメージに当てはまらないためか、酒向は彼女の活動とは本来関係ないはずの私生活や服装について言われることもあったと話す。

私もこういう仕事をしていると「もっとちゃんとしてる人だと思ってた」とか言われたりする。「夜遊びとかするんだね」とか、なんか清廉潔白であれみたいなプレッシャーは正直あるし、「そういう仕事をするのであれば服装も考えるべき」とかも注意されたことあるんですよ。

何か興味のある問題に対して活動している人、或いは活動したいと思っている人へのそういったプレッシャーは、一種の制限となりうるためマイナスに働くことが多いだろう。「社会問題に取り組む人」に一定のイメージができているゆえんには、世間の中になんとなくある「社会問題は自分とは関係のないもの」という空気も関係しているかもしれない。

別に私たちは社会の構成員の一人なんだから「貢献」しなくても社会の一部なわけで、社会問題に対して「自分たちとは関係のない何かをよくするために貢献をするもの」っていうイメージを変えたいと思っています。

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「別に自分自身が特に社会問題の当事者だったとかいう意識はなかった」と話す彼女が社会問題に興味を持ったきっかけは身近なもので、親が日常的に話していたり、新聞の切り取りをくれたりしていたからだったという。

一方、学校の教育も彼女の考え方に影響した。彼女の高校では、国勢調査などのアンケートの中にある「性差に対する偏見を含んだ表現」を見つける授業などがあったそうだ。そういった授業を通して自然と問題の本質に目を向ける習慣がついたという。

結構聞かれるんですよね、どこで育ったのかとか、お父さんとお母さんはいるのかとか。苦労して育ったんじゃないかとか多分思われるんですけど、「何にもないですよ」っていつも思って。結構それは嫌なんですよね。当事者じゃないとそういう問題に興味を持たないってはずはないし、想像力があれば興味を持つだろうし、ナンセンスな質問だなってたまに聞かれて思いますね。

個人の問題は社会の問題かもしれない

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GoodMorningの企業説明に「誰もが資金調達など、挑戦ができる社会は『課題を個人が自らの努力で解決する社会』と常に隣り合わせにある」ことに気をつけなくてはならないと書いてある。これは一体どういうことだろうか。

酒向は、社会の構造的な問題によって生じる個人の問題を「個人が解決するべきこと」としてしまうことの危険性を指摘する。

彼女が例としてあげたのは、待機児童問題。保育園が足りないことが原因で子どもを入園させられない母親が、クラウドファンディングの力を使って認可外の高い保育園に入れたとしたなら、それはクラウドファンディングの素晴らしい成果と言える。だが、人々が他人の力を借りてそのような問題を個人で解決することを常に期待し始めたら、個人の負担が重い上、本質的な問題は隠れてしまう危険がある。

「それって社会の問題じゃない?」っていうのを忘れて、「自分で努力している人もいるんだからあなたも努力しなさいよ」って言ってしまうような自己責任論とか、新自由主義みたいなところにインターネットって結構簡単にいく危険があると思っています。

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社会人経験は数年、25歳にして代表取締役社長となった彼女は「正直、プレッシャーはめちゃくちゃあります」と話す。だが、GoodMorningの可能性を信じる気持ちは誰にも負けないとも言い切った。

私の一番の強みはGoodMorningで社会をよくしていけるって信じているところだけだと思うので。それ以外は、他の人ができることの方が絶対多いんです。だから私は、「信じて諦めない」っていうのが一番大事かなって思ってて。そうしないとプレッシャーに負けて泣けてきたりとか結構するので、あとはもう人に聞いてやろうって思ってます毎日。

「社会に貢献する」というと大変なことのように聞こえるかもしれないが、そんな時に今回酒向が取材中に何度も強調していた「自分のペースで参加するのでいい」というメッセージを思い出して欲しい。私たちは、「できる人ができることを少しずつすること」がどれだけ大きなインパクトをうむのかを忘れてはいけない。

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