2700万人もの「現代奴隷」の闇に、カメラひとつで迫った女性フォトグラファー

Text: Momo Banbeni

2016.12.8

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あなたは「奴隷」と聞くと、昔の話で、今はもう存在しないと思っているかもしれない。

しかし現在世界には2700万人の奴隷が存在し、死と隣り合わせの環境下、重度の強制労働を虐げられているということを知っているだろうか。

現代社会が作り出す、闇の世界。たくさんの人にこの現代奴隷を知ってもらおうと、この闇に光を当てた写真家がいる。

リサ・クリスティンが見た現代奴隷

アメリカ出身の写真家リサ ・クリスティン。彼女は28年間にわたり、世界中の先住民を写真に収めてきた。バンクーバーの平和サミットで単独の展示会をするという名誉を与えられたリサは、同サミットでNGOのFree The Slavesという奴隷解放運動をする団体の支援者と出会い、世界中に現代も存在する奴隷について知ることになる。

彼女は自分と同じ時代に起こっている残虐行為に落胆し、自分の無知さを知り自己嫌悪に陥った。そして自分が知らないのなら、ほかにも知らない人は大勢いるはずだとカメラを手に取り、奴隷をカメラに収める旅に出た。

旅を終えた彼女はTED Talksで、彼女が2年間にわたる旅で目撃した奴隷を写真と共にスピーチした。その衝撃的なスピーチにたくさんの人が現代奴隷の現実を知ることとなる。

▶︎リサ・クリスティンさんの写真はこちらから。

18ドルの借金で捕らえられた奴隷

山で働く鉱夫。彼らは小さな懐中電灯をボロボロのゴムで頭にしばり、滑りやすい木材が設置されただけの縦横1mの穴を地下50mまで潜る。埃と熱気で重苦しい空気のなか、話し声と、男たちの不快な咳の音、そして粗野な道具で石を切り出す音だけが縦穴に響く。

ガーナにはこのような違法鉱山がたくさんあり、多くの鉱夫が奴隷となり、金の採掘をしている。鉱夫のなかには親戚に売られたり、借金の肩代わりになり奴隷になる人もいるという。

鉱山によっては72時間以上も地下に潜っていなければならなかったり、作業工程で使われる水銀に汚染された水のなかに入って採掘するなど、労働者の安全はお構いなし。死と隣り合わせだ。

リサのスピーチによると、大航海時代にアフリカ大陸からアメリカ大陸に奴隷が積み出された時の奴隷の価値は、アメリカ人労働者の年収の3年分だったという。現在の貨幣価格で約5万ドル。

けれど現在の奴隷はさらに悲惨なことに18ドル程度の借金で一家族が何世代にも渡って労働を強制されていることもある。

安値で取引される現代奴隷。その数は控えめに見積もって当時の2倍の2700万人。そして皮肉なことにも、この奴隷制度は世界全体で年間130億ドル以上の利益を生み出しているというのだ。

今も蔓延る児童労働の影

ヒマラヤでは子どもたちが石を背負って、麓の道で待っているトラックまで山岳地帯を何キロも運ぶという児童労働が存在する。子どもの体重を優に超える大きな石板を手作りのハーネスで頭から吊り下げる。

報酬もなく16時間から17時間も働かされているのに自分が奴隷だと知らない人もいるそうだ。それは生まれたときからそんな環境で育ってきたため、他人と比べることができないからだろう。

ガーナにある世界最大の人造湖ヴォルタ湖では、4千人を超える子ども達が児童労働の犠牲になっているという。

子どもたちは家族から取り上げられ、売買されて姿を消す。こうして捕らえられた子どもたちは小舟に乗り、魚を獲る。彼らは夜中の1時から働きだす。大漁だと漁網は500キロ以上の重さにもなるという重労働をたった7歳や8歳の子どもがするのだ。

彼らは泳げない。網が水底の木々にひっかかったら、網をはずすために怖がっている子どもたちを湖に放り込むという。暴力に怯え、逃げることもできない。

世界にはこのような形で今もたくさんの児童労働が存在するのだ。

インドとネパールでは、埃まみれになりながら、多い時は18個ものレンガを頭の上に乗せて、焼け付く窯から数百メートル離れたトラックまで運ぶ子ども供たちがいるという。気温50℃。疲労のため彼らは物言わず黙々と1日16時間から17時間この作業を繰り返すという。彼らには休憩も食事の時間も与えられない。

ここに彼女がTEDでプレゼンテーションした「現代奴隷のレポート」の動画がある。その19分くらいの動画のなかには2年間にわたり彼女が撮り続けてきた写真とメッセージが込められている。

※動画が見られない方はこちら

奴隷と切り離せない私たちの暮らし

リサは奴隷を駆り立てるのは商業だと訴える。奴隷が作る商品には価値があるが、商品を作る人々は使い捨てなのだ。奴隷制度は世界中どこでも違法であるが、事実、存在している。利己主義がまかり通る現代の社会では、利益さえ出せばいいと考える人たちが蔓延しているのが現実ではないだろうか。

経済大国である日本は、世界でも上位の消費を誇る。グローバル化や自由貿易が進み、家のなかを見渡しただけでも、輸入品に囲まれている私たちの暮らし。消費者と生産者の間には大きなギャップが存在し、お互いの顔を見ることができない。そうなると買う時になかなか生産環境まで考えることは難しく、知らず識らずのうちに生産過程に奴隷が使われている商品を購入していることは十分にありえることだ。

リサはインドでテキスタイルを作っている繊維業者を訪れた。その村では家族全員が絹取引で奴隷扱いされていた。父親の手は黒く染まっている。そして息子の手は青と赤に染まっていた。彼らは大きな樽で染料をかき混ぜ、絹を液体の中に肘の深さまで沈める。体に染み付いた染料は有毒だ。リサ・ クリスティンの現代奴隷のスピーチは、私たち一人ひとりの心に訴えかける。

「私に一体何ができるのだろう?」と。

私たちがその奴隷と自分の暮らしを結びつけて考えることができなければ、世界中から奴隷の数が減ることはないだろう。現代の消費社会は、便利で快適なものが世界中から安値に手に入るものの、その水面下ではこのような奴隷問題が後を絶たない。

奴隷問題に光を!

リサは取材の時にロウソクをたくさん持って行き、撮影した人に分け与え、その灯りをカメラに収めた。これから奴隷問題に光が当たり、たくさんの人たちがこの問題に気がつき、世の中が変わると信じて。

「これらの写真が、見る人々の力を呼び起こし火となり、その力が集結して炎となり、その燃え盛る炎が奴隷問題に光を当てることができますように。その光がなければ、束縛という野獣は闇の中で行き続けるでしょう」そうリサは話した。

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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