メディアはイスラムを偏向報道している。東京ストリートを楽しむ平成生まれのムスリムに聞いた、ぶっちゃけ話 VOL.2

Text: Shiori Kirigaya

Photography: Chihiro Lia Ottsu unless otherwise stated.

2017.11.7

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「ムスリム(イスラム教徒)」という言葉を聞いて、“テロリスト”を思い浮かべる人はどれくらいいるだろうか。言うまでもなくムスリムの多くは“テロ”と何ら関係ないが、現に「ムスリム=テロリスト」という偏見は、日本だけでなく世界に存在しており、イスラム教を信仰する人たちにとって大きな悩みの種となっている。

彼らをそんな偏見なしに見るには、実際にイスラム教を信仰している人と知り合って、「彼らがどのような生活を送っているのか」や「何を考えているのか」を知る機会を作るのが手っ取り早いかもしれない。

だが、そうは言っても、その機会を一人ひとりが作ることは決して簡単ではないだろう。そこでBe inspired!は日本で暮らすムスリムの若者たちにインタビューを行ない、彼らが話してくれたことを紹介する記事シリーズを始めた。

Photo by 撮影者

今回インタビューに答えてくれたのは、サウジアラビア出身で現在日本の大学で勉強しているサルマン(写真左、日本に住んで5年)とサード(写真右、日本に住んで7年)の2人。

第1回の記事はこちら。「イスラム教に無知な日本人へ」。東京ストリートを楽しむ平成生まれのムスリムに聞いた、ぶっちゃけ話。VOL.1

ムスリムとは、イスラム教を信仰する人(イスラム教徒)のことをさす。7世紀にムハンマドが開祖となったイスラム教は、唯一神アッラーを信仰し、啓典は『コーラン』。1日5回メッカの方角へ向かって礼拝をし、イスラム暦の9月である「ラマダーン」には日没まで断食をすることが特徴で、断食には自身を清める以外に貧者の立場に立つという意味がある。また、不浄な動物とされる豚肉を食べることや飲酒などが禁止されている。

 

ー神様とはムスリムにとってどんな存在ですか?

サルマン:神は私たちのすべて。信じることで神聖になれるから。

サード:食事をするとき、楽しいときや悲しいときに神に祈りを捧げるし、イスラムは生活のすべての側面に関わってくるものだから、日々のことのすべてはイスラム*1とつながっている。それが規則ともつながっていて、イスラムにおける神と人々の関係は素晴らしいものだと思う。

(*1)イスラムは宗教であるだけでなく、日々の生活すべてにおよぶ考えであるため、ここでは「イスラム教」ではなく広義の「イスラム」と表記している

ーイスラムの教えに、日本人にも通じるところはありますか?

サード:日本に来るムスリムは多いけれど、日本人の「よく働き、時間を守るところ」は、イスラムの考えと似ている。たとえば、人の嫌がることをしたり、ゴミを道に捨てたりすることは、イスラムでもよくない。ゴミの分別にまで細かいルールがあるとか、「人に優しいことをしたら自分は優しい人になれる」という考え方とかも似ていて、そういう意味で日本人はイスラム教徒といて居心地が悪いことはないと思う。

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ー「ムスリム=テロリスト」という偏見についてどう思いますか?

サード:メディアはイスラム教を悪い宗教だと見せようとしているように思える。「イスラム」はアラビア語で「平和」を意味するし、イスラムは平和的な宗教で、そんなのは現実とはかけ離れている。確かにメディアの言うとおり、過激派組織「ISIS」などコーランからイスラムの考えを曲げて解釈するムスリムはいるけれど、イスラムが悪い宗教というのは正しくない。でもムスリムと交流した人は、日本の人も含めて、間違っているとわかるはず。メディアはいろんな意味でプロパガンダなのだと思う。

サルマン:日本とかイスラム教国以外でも犯罪はあるし、テロリストがいることだってある。でもメディアはそれに言及しようとしない。プロパガンダでイスラムと戦おうとしているように感じる。「一人を救えば全人類や地球を救ったことにもなる」、コーランにはこんな一文が載っているんだ。それから「一人が犯罪を起こしたらムスリム全体に影響が及ぶ」という考え方もある。

サード:ここでムスリムとして一番言いたいのは、「ムスリム=テロリスト」という偏見は間違っているということ。そして日本人に言いたいのは、すべての情報を鵜呑みにしないでほしいということだよ。

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ーイスラム教についてもう少し教えていただけますか?

サルマン:私たちの宗教には「人のことを強く考える気持ち」があって、女性や若者のことも気にかけている。それから「ラマダーン」と呼ばれる1ヶ月間の断食をする習慣があるけれど、それは貧しくて食べたり飲んだりすることができない人たちが経験していることを経験するためで、すごく平和的な考え方がもとにあるんだ。

サード:これらはイスラム教の一部にすぎないけれど、このようにイスラムの教えにはさまざまな理由があるし、それを多面からみることができる。

あともう1つ言いたいのは、誰かが犯罪を犯したとして、その人物の国籍や宗教を調べて、もしキリスト教徒なら「精神的な問題があった」と言われるのに、イスラム教徒だと“テロリスト”だと呼ばれてしまう。僕に言わせれば、どんな宗教の人でも人を殺す人には精神的な問題があるし、誰が起こしたって悪いこと。それなのにどうして“テロリスト”だとか言われるんだ。

ー日本人から差別を受けたことはありますか?

サルマン:ある夜、道を歩いていたら何人かの男性とすれ違って「“イスラム国”はダメ!」って差別的なことを言われたことがある。けれど僕は悪い対応はせず、彼らに「イスラムって言葉の意味を知っているの?」と聞いてみた。すると、彼らは「知らない」って。

だから「なんで何も知らないのに、僕のことを差別するの?」「ムスリムについて何も知らないで、悪いことをしているムスリムしか見ないですべてのムスリムを判断しないで」と言ったんだ。そうしたら彼らは「本当にごめんなさい」と言ってきて、それで友達になった。もし差別をするなら、その前にイスラムの意味を知らないといけないし、知らないなら差別してはいけない。

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ー日本のよかったところは何ですか?

サード:日本人の多くは宗教にリスペクトがあるのはいいと思う。それからどこから来ていようが、それについて言われないところがいい。

サルマン:日本の学校では、祈りの時間に対しても学生や先生が配慮して、祈りの場所まで用意してくれたこともあった。「お祈りしてきていいよ、急がなくていいよ」ってね。あとは、フリーダムな国かな。

サード:そう、危険なことでなければ自分のやりたいことができるフリーダムな国だと思う。それから社会のシステムが厳しくできている。たとえば、お店も時間通りに開く。もし開店時間が10時なら、10時きっかりに開くというように。

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ー日本人が抱いている、ムスリムの変な「ステレオタイプ」はありますか?

サード:ステレオタイプといえば、ムスリムはフレンドリーではなくて、いつも家にいて誰とも話そうとしないイメージがあるかもしれない。けれど、それは実際とまったく違う。他の人と何ら変わらないんだよ。

サルマン:僕たちはもっとクレイジーだよ。

サード:そう(笑)クレイジーな人もいる。僕のまわりにはすごく敬虔なムスリムがいるし、僕も戒律に厳しいほうだけれど、僕は日本で素晴らしい体験をしているし、厳しいからどうということはない。

サルマン:ムスリムは顔が濃くて怒って見えるかもしれないけれど、暑いからそうなってしまうだけで、日本では涼しいからいつも笑ってる(笑)

サード:あと映画では怒っていてうるさいイメージがついている気がするけれど、それも違う。僕たちもほかの人と同じように生活しているから、そこは誤解されている気がするかな。

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日本には特定の宗教を信仰しない人が多く、ある意味でムスリムにとって暮らしやすい反面、普段のニュースを鵜呑みにしている人が多い。そのため、ムスリムを“テロ”や過激派組織「ISIS」と関連づけてしまう人がいる。だがそれは日本の若者のせいではなく、メディアの報道のせいだと、サードがインタビューで話していた。

だからこそ、何に関しても真実を知ろうとする姿勢があるなら、ニュースで報道されることをまずは疑い、当事者の実態はどうなのか、彼らが実際に考えていることは何なのかを知ろうとすることが大切となる。この記事も、ムスリムの若者たちのいくつかの側面を知る機会となれば幸いだ。

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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