地球から「奪い、作り、捨てる」ビジネスモデルの終焉。“髪飾り”で環境問題について学ぶ場を作る女性

Text: Noemi Minami

Photography: ©️SAYA Designs

2018.5.9

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日常的に消費する物の「背景」が、着実に注目され始めている今日この頃。「私たちの世代は変革の瀬戸際にいて、私はその変革を後押しする人間になりたい」と話すのは、イギリス出身のビクトリア・ジョーンズだ。

彼女は「やりがいを感じられるキャリア」を探し求めて、インドネシアのバリに移り住んだ。そこで目にしたのは豊かな森林と、その半分以上が商業的な目的で伐採されているという現実。それは地元の住民に悪影響を与えるだけではなく、地球の未来に関わるグローバルな環境問題だと感じたビクトリアは、自身が大好きだという“髪飾り”のブランド「SAYA Designs(サヤデザイン)」を起業する。髪飾りの製造・販売を通して彼女が目指すのは、「より多くの人に環境問題への興味を持ってもらうこと」。

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ビクトリア・ジョーンズ

ビジュアルアートを仕事とする彼女は、オークション会社や教育機関など様々な業界で働いていた。そんななかで、人が「大切にしている物」に対して持つ強い思いについて考え始め、「物」の力を使って環境問題を考えるきっかけを作れるのではないかと思い立つ。

以前、彼女のボーイフレンドが中国に旅行に行ったときにお土産として買ってきてくれた伝統的なハンドクラフトの髪飾りに感激し、髪飾りは彼女にとって大切な物となった。髪飾りなら小さくて軽いので、世界中に簡単に送ることもできる。そこで髪飾りの会社を起業したのだ。

そしてSAYA Designsは髪飾りのブランドである以上に環境問題について学ぶ場であり、より多くの人に興味を持ってもらうための「媒体」だと彼女は言う。

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インドネシアには世界の中でも最も生物学的に多様な森林がある。それにもかかわらず、世界の中で最も森林伐採が行われている場所でもある。もともとあった森林は現在二分の一以下となった。1960年代以来、パルプ(製紙)、紙、ベニヤ板やパーム油を生産する場所の確保のために森林伐採が行われているのだ。このままいけば、美しい森はなくなる。

「リサイクルするだけでは足りない。経済のあり方を考え直さなきゃいけない」と話すビクトリア。彼女は「消費の仕方の変革」を訴える。世界中のほとんどの国で、自然から資源を「奪い、作り、捨てる」ことを繰り返しているのが現状だ。

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そこでSAYA Designsは「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」を体現しようとしている。サーキュラーエコノミーには「回復」と「再生」がデザインに取り組まれている。イノベーションを利用し、無駄になる部分をゼロにし、生産過程での地球へのインパクトも考える。経済を生み出し、自然と社会の富を、枯渇するのではなく増やすことが経済方針だ。

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具体的に同社が行なっているのは以下の三点。

①リサイクル
木材は環境に優しいが、伐採の際には意識しなければならないことがある。熱帯の木々は育つのに時間がかかり、伐採したあとは再生するのに時間がかかる。そこでSAYA Designsは「Made & Ways(メイド・アンド・ウェイズ)」という彫刻家チームと手を組んだ。彼らはインドネシア中の産業のために使われていた森林エリアからそのままにしておくと分解するのに100年以上かかるうえに土地の栄養にもなりにくい切り株を掘り出している。SAYA Designsもそんな木材を使うことで、地球への悪影響を最小限まで減らすことを試みている。

②コンテンポラリーデザインとローカルアーティストの融合
髪飾りは何千年にも渡って使われてきた歴史的かつ文化的な物。木材の髪飾りは長持ちし、プラスティックの代わりとなる。インドネシアの自然の良さを生かし、木の模様をそのまま残しているため、一つとして同じものはない。ビクトリアが自らデザインし、バリのアーティストの手によって限りなくシンプルな道具と技術によって作られているのも特徴だ。仕上げには天然ワックスと天然オイルが使われている。

③髪飾り一個につき、木10本
SAYA Designsは髪飾りを一つ購入してもらうたびに、10本の木を植えている。そうすることで、緑のある未来を描こうとしている。

現在は、#TurningHeadsForGoodというハッシュタグキャンペーンも行なっているSAYA Designs。こちらのハッシュタグに飛べば、彼らが日常的に行なっている環境問題に対するポジティブなアクションをチェックすることができる。

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アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 マネジング・ディレクター牧岡 宏(まきおか ひろし)氏は、内閣府の消費者動向調査からみても近年の傾向として「新製品の投入で既存の製品を時代遅れにし、買い替え需要を創出する“強制陳腐化モデル”は通用しない」と話す。(参照元:Harvard Business Review)1990頃から指摘され始めた、自然から資源を「奪い、作り、捨てる」このビジネスモデルには経済的にも、資源的にも未来がない。

今後は消費者一人ひとりが、循環可能な経済へとマインドシフトしていくことは不可欠になっていくのかもしれない。そんなときに楽しくショッピングできるのが、SAYA Designsのようなブランドなのではないだろうか。

SAYA Designs

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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