日本の「多様性」に疑問符をつける。“健常者であることが良しとされる国”を車椅子で生きていて感じること

Text: Keita Tokunaga

Photography: Keisuke Mitsumoto unless otherwise stated.

2018.1.29

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初めまして、徳永 啓太(とくなが けいた)と申します。私は先天性脳性麻痺というマイノリティな障害で車椅子を使用しているジャーナリストです。

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脳性麻痺とは身体を動かしにくいという障害、例えば歩くとき、コップを取るとき、脳からの信号が手や足に到達し、理想の動きとなります。私の場合はその信号が上手く伝達しづらく、動作に時間がかかったり、細かい作業が出来なかったりします。車椅子に乗っているので下半身が動かないと思われがちですが、身体は全て動きます。立つことだってできますよ。自慢じゃないですが…

今回は、日本で使われる「多様性」という言葉に感じる違和感について綴ります。

普通の学校に通ったことで、形成された「今の自分」

私は車椅子に乗っていたけれど、親の薦めで普通の小中高に通いました。今考えれば子どもというのはとても柔軟で、私の出来る事、出来ない事がわかれば自然と周りが手伝ってくれる。しかもその行動に違和感を感じませんでした。友人は僕をいわゆる“障害者”として扱っていなかったように思います。そんな幼少の経験が今の自分を形成しているように思います。

そして平凡な大学に進み暇を持て余していた時、興味を持ったのはファッションの世界でした。きっかけは地元松山市のセレクトショップで見つけた原宿のストリートスナップ。流行りをガン無視した格好、全く理解ができないコーディネート。私は度肝を抜かれたと同時にそこに自由を見つけた気がして感激しました。私は行動する時の選択肢は限られるけれど、ファッションは自由である。いつの間にか東京のストリートに惹かれ、世間の狭い地元から出るべく、就活で東京に仕事場がある企業を受けまくって、就職を機に上京しました。

福祉の中に閉じ込められた表現に、“不自由なもの”に見えてしまったファッション

当初はサラリーマンをやっており、ファッションに拘らなくとも東京にいることで満足していました。しかし後悔したくないと会社を辞め、ファッション関係のイベントに顔を出しまくっていた時、coromozaという会社を作ったオーナーとの出会いが大きなきっかけとなります。coromozaは服作りをしたい方、デザイナー志望の向けのシェアアトリエです。シェアオフィスという言葉は馴染み深いと思いますが、そのファッション業界向けと考えていただけたらと思います。私はオペレーションスタッフとして働く傍、「今のファッションを知ることも大切」というオーナーの計らいで、ファッションショーやブランドの展示会に数多く出向き、レポートを書く仕事もさせて頂きました。そこでは日本にも多くのブランドがあり、いろんな考えを持ったデザイナーと出会い、一人一人話を聞いて言葉にする、この仕事により様々な刺激をもらい、ジャーナリストとしての役目に大変関心を持ちました。

ファッションジャーナリストとして4年間務めたある日、考え方が変わった大きな転機が訪れました。それは2015年、当初は珍しかった身障者をモデルとしたファッションショー。しかし、私が希望しているファッションショーではないと感じてしまったのです。それは、学生の頃憧れた自由なファッションではなく、“福祉”の枠組みの中のファッションというものだからでした。私は自由にファッションを楽しんでいましたが、社会では福祉という枠組みの中でしか表現できないのか。もちろん活動としては大切なことですが、モヤっとした疑問が残りました。そこから日本社会は身障者についてどのように見ているのだろう、そして当事者たちはどのように感じているのだろう、そういったことに関心を持ち始めました。

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“健常者”という言葉がマイノリティを生み出す

また、私なりにいろいろな方とお会いして見えてきたのは、“健常者”という言葉の壁です。世間では障害者と分けるためにわかりやすいように使われていて、違和感がないかと思います。しかし、この言葉が自然と人を分ける記号になっているのではないかと思います。

辞典では「心身に障害のない健康な人。健全者。」とあります。健全者という定義に決まった事項もなく、健康な人というのもぼんやりとしていると感じます。つまり、ぼんやりとした定義にも関わらずほとんどの方が自分のことを健常者だと認識し、身障者は健常者に少しでも近づくことが“良し”とされている風潮があると思います。

2020年東京オリンピック・パラリンピックが決まって以降、各地で様々な福祉活動やイベントが行われるようになり、2017年は「ダイバーシティ(多様性)」という言葉が話題になって、男女、LGBT、障がい者、人種と多様な価値観を受け入れる街にしようと企業の活動、講演会が活発に行われてきました。渋谷区は多様な人と仕事のあり方などを積極的に受け入れようと体制を整えています。しかし、日本は人間の多様性を受け入れる度量があるのか。

健常者という言葉もあるように、日本は国際化を長年掲げつつ変わらない環境で、同じ価値観を持った小さな島国であって、違う国の価値観や考え方を表面では理解できても感覚として受け入れにくいのかなと思います。

このようにダイバーシティという言葉と現状には乖離があります。多様性を認めるのであれば、まず健常者という言葉に流されることなく身体の形や考え、国籍などマイノリティと呼ばれる方を尊重し、生きやすい世の中になるにはどうすれば良いか考える必要があると思います。

私はそんな日本の現状を悪いといいたいわけではありません。これが日本であると受け入れながら、理想とする多様性に向けて日本人はどのようなことを理解し、共存しなければならないか。それを探っていく必要があると思います。

2020年まで国の予算がオリンピック・パラリンピックを名目に公共施設や様々な人を受け入れるための福祉イベントなどに使われている現状、いわゆる“福祉バブル”が起きており、変わろうとしている日本。

私もマイノリティの1人として、様々な価値観を持ち人生を歩んできた方を毎月取材し、Be inspired!で「日本の多様性」を受け入れるため何が必要で、何を認めないといけないか私の価値観を含めたインタビュー形式の連載『車椅子ジャーナリスト徳永 啓太のkakeru』を来月からスタートします。この連載名には、自分の価値観と誰かの価値観を”掛け合わせて”新しい価値観を提案すること。そして、人生を“賭ける”、“駆ける”人をインタビューするという意味を込めています。

記事を読んでくださる方々に、新しい価値観を提供できるような記事を執筆していくので、よろしくお願いします!

Keita Tokunaga(徳永 啓太)

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脳性麻痺により電動アシスト車椅子を使用。主に日本のファッションブランドについて執筆。2017年にダイバーシティという言葉をきっかけに日本の多様性について実態はどのようになっているのか、多様な価値観とは何なのか自分の経験をふまえ執筆活動を開始。

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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