「僕は“できないから”見てるだけ」。誰も教えてくれない三軒茶屋の薬膳料理ワークショップ、るくぜん|TOKYO GOOD FOOD #011

Text: Ayah Ai

Cover: JUSTINE WONG

PORTRAIT PHOTOGRAPHY: JUN HIRAYAMA

2017.10.5

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フェアトレード、ダイレクトトレード、オーガニック、ベジタリアン、ビーガン、ゼロウェイスト、昆虫食、未来食…。東京の街に日々増えていく、お腹をただ満たすだけではない「思想の詰まった飲食店」。

「海外からビーガンの友達が日本に来ていて、ビーガンメニューのあるレストランを知りたい」、「サードウェーブの先を行くコーヒーが飲みたい」、「フードロスがないレストランに行きたい」、「無農薬野菜が食べたい」、「友達や恋人と健康な食事をしたい」「ストーリーのある食材で作られたものを食べたい」などなど。そんなニーズに答える連載です。

「食べることはお腹を満たすだけじゃない。思想も一緒にいただきます」。その名も『TOKYO GOOD FOOD』。フーディーなBe inspired!編集部が東京で出会える、社会に、環境に、健康に、あなたに、兎に角「GOODなFOOD」を気まぐれでお届けします!

それでは第11回目の『TOKYO GOOD FOOD』行ってみましょう!

WHERE IN TOKYO

今回は2015年1月にオープンした鍼灸院「るくぜん」で、1〜2ヶ月に1回、4人×2回=8人だけを定員に開催されている薬膳料理ワークショップをご紹介。オーナーの難波さんは10年前、事故で失明。「できない」ことがあるからこそ生まれた、このワークショップについて彼にお話を聞きました。

Photo by 撮影者
オーナーの難波さんと”相棒”の盲導犬モナミ

WHAT’S GOOD

ーオススメの一品はありますか?

うーん。毎回違う料理を作っていて、どれも楽しんでいるので、特定のこれ!っていうのは決めがたいですね。それに、ワークショップは、4人ずつ1日2回開催しているんですが、同じレシピでも作る人たちが違うと、味も違ってきます。それがまた面白さでもありますね。

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10月開催「もろもろモロッコ マグリブ薬膳 ワークショップ」メニューのバスティラ

ーどんな料理を作っているんですか?

最初は症状別でやっていました。花粉症対策とか冷え性対策とか。それに季節の食べ物を取り入れて、レシピを考えていました。でもだんだん苦しくなっちゃったんです。

レシピを考えるために1ヶ月前くらいから準備をするんですが、1ヶ月先の季節の物を揃えるのは大変だし、症状にあわせた食材を選ぼうとすると選択肢も狭くなる。だから、そのうち、ひとつの食材にフォーカスを当てて、「この食材はこういう効果がある」というようなテーマに変わっていきました。

その後、メキシコを特集したときだったかなぁ。ある国の名物料理をまるごと作ってみたら、すごく面白かったんです。レシピを考えるにあたって、その国の文化背景や歴史も調べていくと、その国でその料理が生まれているのには、ちゃんと理由があって、その料理がその土地の人たちの健康を維持しているんだなって気づかされたんです。

それからは、国をテーマにするようになりました。オリジナルのレシピを参考にしつつも、食べ物の効能とかを考えて、るくぜん風にアレンジします。

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昨年12月開催「ロシアより愛をこめて あったか薬膳 ワークショップ」のメニュー、ボルシチの壷焼き

ー普段は鍼灸院で、月に1〜2回、料理ワークショップをやっていらっしゃるんですよね?

2015年1月にこのサロンを立ち上げました。その2〜3年前に薬膳を勉強していたんですが、鍼灸は東洋医学で、薬膳も東洋医学と重なるところが多い。鍼灸で体の外側から、薬膳で体の内側から、良くするようなサロンをつくったらおもしろいんじゃないかと思ったんです。

このお店を作るためにいろいろなショールームに行っているとき、キッチンを囲ってみんなでワイワイしたら楽しそうだなと思って。だから、鍼灸院だけど、キッチンが中心にある、ちょっと変わったつくりのサロンになっています。

台所って普通の家だと隅っこの方にあって、お母さんがひとりで作って、リビングに「はい、できました」って持っていくような感じじゃないですか。でも、キャンプだとみんなで作る。ああいう感じが楽しいなぁと思うんです。同じご飯をみんなで作って、みんなで食べる、その過程を楽しめるような場をつくりたいですね。

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CONCEPT & PHILOSOPHY

ー料理教室ではなくて、料理ワークショップって呼んでいるのはなぜですか?

僕が作らないからですね(笑)。僕がレシピを考えて、そのレシピを見て、参加者の人に作ってもらう。10年前に事故で目が見えなくなったんですが、それより前から、もともと料理はあまり得意じゃないんです。

みんなが作ってくれた方が絶対美味しいに決まってる(笑)。だから、友人たちに僕の家に来てもらって、作って一緒に食べたりしていたんです。

食べ物をみんなで作って分け合うことって、人間社会の一番の始まりのような気がするんです。それに、いろんなものを食べた方が健康になる。今ひとりで食べている人が多いじゃないですか。そうすると食べられる品数も少ないし、偏りも生まれがち。たくさんの人と一緒に食べた方が、いろんな物を食べられて、健康にもつながります。

薬膳のもともとの考え方も、「食べ物はすべて薬になる」っていうところからきていて、要は組み合わせなんですよね。よく「薬膳っぽい」ものって、生薬が入ったりしているけど、本来、そういうことではないんですよね。

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10月開催「もろもろモロッコ マグリブ薬膳 ワークショップ」メニューの、ラム肉とキノコと栗のタジン鍋

ー先ほど「僕は作らない」っておっしゃっていましたが、ワークショップはどんな感じで進んでいくのですか?

そうですね、僕は見ているだけです(笑)。レシピに書ききれていない細かいところを伝えたり、わからないところがあれば質問してもらって答えるようにしています。

この間、参加者の人から言われたのは、質問をするときにも、目が見えない僕にどうしたら伝わるか、材料や状況をよく観察して、描写する必要があると。それも勉強になるって言っていましたね。

そして、参加者の間で自然に役割分担が決まっていくのもすごいです。料理が得意な人が難しいものを作ったり、自信がない人はできることをやればいい。そういう雰囲気が自然と生まれます。みんなで声を掛け合って、「私はこれをやります」「私はこれをやっておきます」って自発的に進んでいくんです。

僕は見栄えも重視したいので、写真を用意しておいて、それを参考に盛り付けてもらいます。まぁ、それにこだわらなくてもいいんですけどね。ワークショップだから正解はない。みんなで本来は自由に、食材を使って作る。レシピをほぼ見ないで作る人も時にはいます(笑)。

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CHANGE SOCIETY

ーるくぜんでの料理ワークショップを通じて、社会に届けたいことはありますか?

そんなに大それたことは考えていないです。でも、料理を作る場で、作ることを人に委ねるっていうのは新しい取り組みかなと思います。一般的な料理教室だと、先生が作って、生徒さんがそれを見て、「あぁそうですか。美味しいですね」で終わっちゃう。ワークショップなら、自分で考えて、試行錯誤して作る。だからこそ身につくことも多いんじゃないかと思います。

あとは、「できなさ力」。僕はできないことが多いけど、できないことで他の人がやってくれたりする。他の人がやってくれるなかで、自分では思ってもいなかったものや、もっと面白いものが生まれたりする。できないことがあることで、できることがより増えたりするんじゃないかなって、僕は思っています。

事故に遭ったとき、あと5mmずれていれば、死んでいたそうなんです。だからこれからはもうおまけっていうか…。これからを生きるのは、全部「プラス」な気がするんです。だから自分が面白いって思えることをやっていたい。

みんな、目が見えなくなったら、今までやってきたことができなくなるって思うでしょ。でも、そんなことないんだよっていうことを証明したい。それが今まで僕を支えてくれた人にできる恩返しだし、そのひとつが、この料理ワークショップだと思っています。

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料理を作る場だけど、先生が作らない。薬膳料理だけど、東洋の枠にとらわれない。「苦手」「できない」も問題ない。ただ、集まった人たちみんなで食事を楽しむことを大切に…。

固定観念や思い込みにとらわれることなく、自然体に物事に向き合っていく難波さん。彼の作る料理ワークショップは、体の内側から栄養をとれるだけでなく、心のやすらぎやゆとりも届けてくれる場だ。

ぜひ次回のワークショップにあなたも飛び込んでみてはどうだろうか。

次回の『TOKYO GOOD FOOD』もお楽しみに!

るくぜん

WebsiteFacebook

Address:東京都世田谷区三軒茶屋2-34-4 林ビル1F

電話番号:03-6753-5225

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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