目的は「他のプレイヤーよりも強く生きる」。ある若者が“絶対的な勝利条件がないボードゲーム”を作った理由

Text: SHIORI KIRIGAYA

Photography: SHIORI KIRIGAYA unless otherwise stated.

2018.7.27

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電車やバスの中で、スマホやゲーム機を使ってゲームをしている人を日常的に見かける。一見彼らは、誰かとコミュニケーションをとっているようには見えないが、実は画面の向こうにプレイしている対戦相手がいることが少なくない。またプレイヤーは常に制作者の予想した行動からどう外れるか・どう意図に則した行動をとればいいのかと思考しながらプレイしているため、対戦相手だけでなく作った人との間に高度なレベルのコミュニケーションが生まれているのだ。

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ゲームには「リスク」もあれば「チャンス」もある

阿佐ヶ谷にある現代美術ギャラリー「TAV GALLERY」で、ゲームを題材に作品作りをしてきた若手アーティストのアランが、複数の意味を持つ概念「コミュニケーション」をコンセプトにした新作ボードゲーム「communicatio – コムニカチオ」*1やそれに付随する作品を展示し、新たな「ゲーム」の可能性を提示する個展を開催している。そこでBe inspired!は、アラン氏の考える「ゲームの持つコミュニケーション性」について直接話を聞いた。

TAV GALLERYのギャラリストを務める佐藤栄祐氏に「アランくんは、アート界の人格者」と言わしめた彼は、丁寧な口調で展示や自身の思想を説明してくれた。

(*1)コミュニケーションの語源で、「共有する」「分かち合う」という意味があるラテン語の言葉

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大好きなトレーディングカードゲーム「マジック・ザ・ギャザリング」のカードのコレクションを手にするアラン氏

ゲームが常に持つ「コミュニケーション性」

アラン氏いわく、「2つ以上のものの間で行われる情報のやりとり」がコミュニケーションだ。そこで必要なのが、文脈の共有。ゲームで誰かと対戦しているとき、文脈の共有は既にできている。ゲームのルールを知っていなければ、プレイすることはできないからだ。そのようなゲームのルール(文脈)を知らないためにゲームができない状態は、たとえば「サッカーの話をしていて、相手がサッカーについて何も知らなければ、意思疎通がうまくいかない」のと同じだと、彼は説明する。 

さらに、ゲームには常に制作者やルールを作った者がいる。彼らと常に「コミュニケーション」をとり、状況を認識しながら文脈を蓄積するとともに敵の動きを予想するという行動が、プレイヤーの間で行われているのだ。

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会場では展示されているボードゲーム「コムニカチオ」を実際にプレイすることができる

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「コムニカチオ」のルールブック

ゲームと現実世界の共通点

彼はまた、ゲームとは「現実世界にある事象を抽象化したもの」だと話しており、「知的生命体の繁栄」をテーマとする「コムニカチオ」も、人間社会にある要素を抽出して作り上げた。

石油資源がどっちのものなのかという争いや、人の先を行ってそれを取ろうとすることは現実世界でも起こりますよね。ゲームで起こることは国同士の問題に例えられるし、自分の意識とリンクしていくようなものだと思います。

ここでさす要素とは、国家間の問題に通じる「どのようにして領土や資源を守るか」というものや、「どこで妥協点を見つけるか」というビジネスでの取引や日常の人間関係に通ずるもの。同ゲームには絶対的な勝利条件がない(誰かを倒したら終わりではない)ため、プレイヤー同士で折り合いをつける必要があるのだ。

アーティストであり、ゲームデザイナー

アラン氏は、幼い頃からトレーディングカードゲーム「遊戯王」に親しんできた。カードショップに通ったこともあったが、世間話はしなくともゲームに関する会話が盛んで、プレイヤー同士のコミュニケーションが常に行われていたという。そのような経験から、ゲームのコミュニケーション性が意識のなかにあった。

アーティストとしては、世界的にプレイされているトレーディングカードゲームを題材にするなど、ゲームをテーマに作品作りを行ってきた。最近ではゲームデザイナーとして、自身が考案したゲームを製品化しており、活動の範囲を広げている。

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ゲームとコミュニケーション

「ゲーム」と「コミュニケーション」というキーワードを肯定的に結びつけることは、あまりされてこなかった。オンラインゲームのやりすぎによる問題が起きている事実は否定できないものの、ゲームの持つコミュニケーション性を念頭において考える必要があるのではないだろうか。カードショップに集ったプレイヤーたちとの対面での「コミュニケーション」や、オンラインゲームで知らない相手と対戦する際の間接的な「コミュニケーション」、そしてアラン氏が指摘していたゲームの作り手との「コミュニケーション」などが、個人の生活にとって重要な情報のやり取りとなっていることもある。

この展示は見る者にとって、決して一面的に語ることのできない「コミュニケーション」とは何かを考え直すきっかけとなるのではないだろうか。

アラン(三浦阿藍)

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1991 鳥取に生まれる
2014 成安造形大学芸術学部芸術学科卒業
2015 鳥取大学大学院地域学研究科中退後パープルーム予備校2期生になる
2017 ボードゲーム制作チーム 「arquetendu」を結成

主な個展
2018「communicatio – コムニカチオ」TAV GALLERY、東京

主なグループ展
2015「パープルーム大学物語」ARATANIURANO、東京
2015「”KITAJIMA/KOHSUKE”#12 〜果ての二十日の81〜」カタ/コンベ、東京
2016「パープルタウンにおいでよ」パープルーム予備校他、相模原
2016「X会とパープルーム」もりたか屋、いわき
2017「パープルームのオプティカルファサード」ギャラリーN、名古屋
2017「パープルーム予備校生のゲル」エビスアートラボ、名古屋
2017「恋せよ乙女!パープルーム大学と梅津庸一の構想画」ワタリウム美術館、東京
2017「パープルーム大学 先端から末端のファンタジア」ギャラリー鳥たちのいえ、鳥取

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アラン個展「communicatio – コムニカチオ」

会期 : 2018年7月20日(金)– 8月12日(日)
会場 : TAV GALLERY(東京都杉並区阿佐谷北1-31-2)[03-3330-6881]
時間 : 13:00 – 20:00
休廊 : 水曜、木曜
レセプションパーティ : 7月20日(金)18:00 – 20:00<終了>
トークイベント : 7月20日(金)19:00 – / アラン× 黒嵜想 × 仲山ひふみ(入場無料)<終了>

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Image via Alan Miura

ゲームポリヘドロン(関連企画)

会期 : 2018年7月20日(金)– 8月12日(日)[会期中の金曜、土曜、日曜のみ開廊]
会場 : 中央本線画廊(東京都杉並区上荻4-6-6)
時間 : 13:00 – 21:00
休廊 : 月曜 – 木曜
参加作家 : アラン、今井新、海野林太郎+田中勘太郎、岡田舜、中島晴矢、明源
ディレクター : アラン、cottolink、佐藤栄祐

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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