「詰め込み教育は、もうやめよう」。北欧フィンランド式の“ふんいき教育”とは

2016.12.26

Share
Tweet

「嫌だ。当てないで」

質問をする先生から目を逸らし、無言の訴えが教室中の空気を包む。学生時代、誰もが一度は経験したことがあるのではないだろうか?

テストのために必死で覚えた方程式や元素記号。「こんなの大人になって何の役に立つの?」こう思った経験は?教科書の内容をただ覚える、「受験のための勉強」でいつの間にか自分自身の「知りたい」を忘れてしまっていないだろうか?

2016年、教育大国フィンランドで始まった新たな教育制度。新時代の北欧式ゆとり教育、大事なことは「ふんいき」で学ぶ。

width="100%"
Photo by Klimkin

「人材こそ国の財産」

北欧にある小さな国フィンランド。世界でも有数の教育大国であることは周知の事実だろう。

1968年、「人材こそ国の財産」という理念を基に、大学までの学費無償化や、修士課程修了の教師の起用など、誰でも平等に、質の高い教育を受けられることを保証した教育改革が始まり、2000年から始まったPISA(国際的学習到達度調査)では常にトップクラスの成績をマークしている。(参照元:国立教育政策研究所

そんな教育大国フィンランドで2016年、新教育課程の責任者イルアメリ・ハリネン氏の「急速に変化する教育を取り巻く環境や社会の中で、教育の形も進化すべきである」という考えを基盤に新たな教育の形がスタートしたのだ。(参照元:フィンランド教育省サイト)

21世紀。今日、明日必要な知識を。

今回最も重要視されているのは「学ぶことの楽しさ」。新カリキュラムの軸となるのは、プラスの感情を生み出す経験、他者との共同作業、それらの相互作用によって養われる創造性の3つ。(参照元:フィンランド教育省サイト

また、コンピューター科学のエキスパートであり、ヘルシンキの都市開発担当パシ・シランダー氏は

“今必要なのは1900年代に価値のあった旧式の教育ではなく、21世紀の今に適応した教育である” “今日、明日を生きる上で必要な知識を教え、子供達の将来への準備となるような教育を創るべき”との考えを示し、「実生活に必要な知識を身につける学習」に力を入れる方針だ。(引用元:INDEPENDENT)

では実際に、実生活に必要な知識を楽しく学ぶ21世紀の教育方法とは?

「ふんいき」が大事。北欧式ゆとり教育

width="100%"
Photo by Wokandapix

2016年9月から始まった新カリキュラムでは、歴史や地理など科目別の授業の代わりに、「トピックベース」の学習取り入れる。例えば、「カフェテリアでの仕事」を取り上げた場合、学習内容は料金や原価計算に使う「数学」、海外からのお客様に対応するための「語学」、さらには文書作成やコミュニケーションなど広い分野にわたり、それらを実際に必要な「雰囲気」の中で学んでゆく。(参照元:INDEPENDENT

また、教師が前に立ち、その前に並べられた机に生徒たちが座るという従来のスタイルを変え、子供達が小さなグループに分かれ、お互いに意見を出し合い、生徒同士の協力の中で問題解決に取り組む「雰囲気」を作り、生徒たちの自主性を養う。(参照元:INDEPENDENT

ただ教科書に書いてある事をを覚えるのではなく、子供達が学習する環境の「雰囲気作り」に重点を置くことが、自らの「知りたい」という意思の元で学び行動する力を育て、21世紀を生きる「主体性」のある人間へと育てるのがこの「ふんいき教育」なのだ。

「知りたい」を忘れた日本。

2016年12月に発表されたPISAで、日本の平均点は「科学的応用力」「数学的応用力」共に順位を上げている。しかしその一方で、同テストの「読解力」での順位は前回の4位から8位に落ち、平均点は22点下がっている。(参照元:国立教育研究所

さらに、内閣府が発表した若者の意識調査では海外に比べて日本の若者は「自己肯定感」や「うまくいくかわからないことに対し意欲的に取り組むことに対する意識」が極端に低い。(参照元:内閣府webサイト

「最近の若者はやる気がない」と言われるのもあながち間違いではないのだ。

常に変化し続ける社会で生きていく為に必要なのは、物事の本質を読み取る力と新たな可能性に取り組む意欲。しかし、興味の有無に関わらず良い高校、良い大学に入ることを目標とした「詰め込み教育」では自らの「知りたい」を忘れてしまった受動的な大人になってはいないだろうか。

width="100%"
Photo by Start Up Stock Photos

筆者がアメリカの大学に留学した際に感じた日本の生徒たちとの「雰囲気」の差。どんなに小さな疑問でも教師や他の生徒と共有し、自らの考えをしっかりと主張する姿勢、お互いの意見を尊重し合う姿に感動したのを覚えている。

「確かな技術を持って目の前のことに真っ直ぐ取り組む」というのは海外から賞賛される誇るべき日本人の美点だ。そこにあと少しの積極性と深く踏み込む意欲がプラスされれば、今よりもさらに世界で活躍できる人材が増えるだろう。

「教えて、育てる」という本当の意味での「教育」。内閣が掲げる「無限の可能性に満ちたチャレンジ精神にあふれる若者が活躍する活力にみちた社会を創り上る」ためには、まず子供達を取り巻く「ふんいき」考えることが大切なのではないだろうか?

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

Share
Tweet
★ここを分記する

series

Creative Village