「こんな時代に“大人の男になる”ってどういうこと?」。子ども以上大人未満の若者たちが世間に問いかけたいこと

Text: SHIORI KIRIGAYA

Photography: @congrats_mag unless otherwise stated.

2017.7.28

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“女の子はこうしなさい、男の子はこうしなさい”なんて言われることは、昔と比べて少なくなった。ニュースで「LGBT」という言葉を頻繁に耳にするようになるなど、「多様な性」の存在が認識され、ジェンダーステレオタイプを押し付けてはいけないという風潮が強まったからであろう。

それでも多くの場合、女性やクィア(セクシャルマイノリティ)の人々と比べると「男性のあり方の多様性」は無視されがちではないだろうか。「男性は涙を流すなど感情的になるべきではない」と思っている人は、未だに多いのかもしれない。

フランスのパリでは、子どもでも大人でもない若者たちが「この時代に“大人の男になる”とはどういうことなのか」を考えるインディペンデントマガジンを作っているという。

Photo by CONGRATS! Magazine

10代から大人になるまで、“男性になること”を問い直す

CONGRATS! Magazine(コングラッツ!マガジン、以下CONGRATS!)は、2012年に8人の若者が作り始めた雑誌で、テーマとしているのは「若い男性たちが自らのアイデンティティを問い直すこと」。始めたときは全員が学生だったが、現在はそれぞれがアートディレクションや出版、写真、通信の職に就きながらCONGRATS!のプロジェクトを続けている。

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Photo by CONGRATS! Magazine

彼らがCONGRATS!を作る前のフランスには、18〜25歳の男性をターゲットにした雑誌がなかったという。GQ MagazineやTêtu Magazine(フランスのゲイ向けの雑誌)のような雑誌は若者向けといっても、ターゲットが30歳以上の男性だった。

10代を終えた男性たちに問いかけたかったんだよ。どの雑誌もティーンエイジャーから大人への移り変わりについて言及していない。何もかもが早く過ぎて行ってしまうとき…職を探すとか、パートナーを探すとか、家を買うとか、家族を持つとか、そんな今まで教えられてきたことを生かさなきゃいけない時期について問いかけたかったんだ。

The mood of CONGRATS! #02 TENSION from CONGRATS! Magazine on Vimeo.

2号目のCONGRATS!(「Tention」がテーマ)に合わせて作られた、若い男性の葛藤を表現した動画
※動画が見られない方はこちら

そんな誰もが通り抜ける重要な時期を過ごす若者たちに向けてCONGRATS!は誕生した。創設メンバーが若手のアーティストたちと毎年1年間かけて「この時代に大人の男になるということ」をテーマにしたインタビューや写真撮影を行ない、それを集めて1冊が作られる。

誰も表立ってできなかった“男性”になることの追求

インディペンデントマガジンで、女性やクィアなどマイノリティの権利やアイデンティティをテーマにしたものは多く作られている。だが、考えてみれば男性のアイデンティティをテーマにしたものを目にすることはほとんどない。

CONGRATS!によると、歴史のなかで苦しめられてきたマイノリティは自らの存在する意味を問い直したり、どこに向かっていけばいいのか考えたりすることが許されてきたからなのだ。

“男性であること”に関する雑誌を作るのは簡単じゃない。男性のアイデンティティを問い直そうとすると、クィアだと思われる。でも、性的指向以外の男性のアイデンティティについて問い直すのだって素晴らしいと思う。

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CONGRATS!は男性についての雑誌だが、当然のごとくアイデンティティは社会であらゆる人と交流していくなかで確立されていくため、誌面に登場するのは男性だけではない。

「String(紐)」をテーマにしたCONGRATS!の3号目の誌面を見ていると、女性が男性の下着を掴んで引っ張るなど、女性が男性に対して暴力的な写真を見受ける。そこには世の中の当たり前を疑う視点が表現されているようだ。

雑誌の表紙に女の子がTバック*1やビキニショーツ姿で写っているのをよく見かける。それで最初のアイデアは男の子をただ下着姿で撮ろうっていうのだったけど、女の子が先導して男の子の下着を引っ張って尻に食い込ませたら、強いメッセージになるんじゃないかと考えた。これは女の子 VS 男の子というわけではなく、大衆向けのメディアに出てくる身体やアイデンティティについて考えさせるためのもの。

(*1)StringsにはTバックの意味がある

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CONGRATS! Magazineに聞く、“男らしさ”とは

「この時代に大人の男になるということ」の意味を追求し続けているCONGRATS!のメンバーは、“男らしさ”という言葉をどう思っているのだろうか。

“男らしさ”についての考えは特にない。CONGRATS!の意義は、すべての可能性を考慮することだ。セクシュアリティの違い、独身なのか恋人がいるのか親なのか、信心深いか、学生なのか、政治的な立場の違いなどがあることを。

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同誌を作る上で重視しているのは、メンバーが求める意見だけでなく、さまざまな考え方や視点を集めること。また、決してCONGRATS!の意見を読者に押し付けることはしない。

つまりCONGRATS!は、世の中の若い男性に「こうなるべき」「男性のステレオタイプを崩せ」と教えるのではなく、ジャーナリスト的な視点からあらゆる見方を紹介し、社会は人々のどのような考え方が合わさって構築されているのかを伝えようとしているのだ。そんなオープンな対話の場としてCONGRATS!は存在している。

協力者が自分の意見を言うのをためらわないように、編集チームは気をつけている。どんな意見も興味深い。それがたとえ賛成できないものであっても。すべての意見を考慮に入れるのが大切で、そうすることで会話や対話を始められる。

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誰にも縛られていないからこそ、訴えられること

今までほぼ存在してこなかった、「男性のアイデンティティ」を問い直す雑誌CONGRATS!の考えが広まれば、社会の多様性がより認識されるようになっていくのではないだろうか。同誌がメインストリームへと進出して欲しいと思うが、彼らにはインディペンデントマガジンとしてやっていくべき理由があるようだった。

毎号だいたい600〜800部しか刷っていない。社会で何かの役割を果たすための存在感を持つにはもっと部数を増やさないといけないし、そのためには資金が必要となる。また、もっとすごいことをしようとするとお金がかかる。お金を稼ぐにはブランドと仕事をしたり広告を入れたりしなきゃで、そうすると自由に表現するのが難しくなる。

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それでもCONGRATS!の考えは、雑誌自体やSNSを通じて少しずつ広まっていくだろう。彼らから学べるのは、ジェンダーステレオタイプに反抗しようとするのではなく、まずは“男性”とは何なのか考えてみることが大切だということだ。これは男性に固定観念を押し付けてきた、男性以外の人にもいえる。

“男性とはこういうもの”だと思い込んでいたものを一旦なくせば、混乱するかもしれないし、楽になれるかもしれない。人によって受け取り方は違うだろうが、とにかく新しい世界が見えてくるだろう。

CONGRATS! Magazine

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CONGRATS!のウェブサイトによると、日本での取り扱い店舗は以下です。(CONGRATS!は全ページがフランス語表記で、英訳が書かれているブックレット付き)

<東京>

代官山 蔦屋書店

Logos(渋谷パルコ パート1内、現在一時休業中)

Shelf

bonjour records

VACANT

<愛知県>

unlike.

<京都>

YUY

<大阪>

VISIT FOR

BOOK OF DAYS

<愛媛>

螺旋

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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