「子どもは好奇心で聞いてるだけだから」性教育プロデューサー中島梨乃(19)が考える、親子で“性”と向き合う方法|草野絵美とスーパーティーンの「わかってくれない親の口説き方講座」#006

Text: YUUKI HONDA

Photography: Kotetsu Nakazato unless otherwise stated.

2019.11.27

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現在7歳の息子の子育てをしているアーティスト草野絵美(くさの えみ)が、多方面で頭角を現した2000年代生まれのティーンエイジャーに、「自分の好きなことをどう見つけて、それをどのようにして突き詰めたのか」のストーリーを聞いていく連載 草野絵美とスーパーティーンの「わかってくれない親の口説き方講座」

六回目の今回は、2000年生まれの中島梨乃(なかしま りの)と対談した。

中島梨乃は、新しい性教育の在り方を考える性教育プロデューサー。YouTube、TwitterなどSNSを通して性教育について発信するほか、在学中の慶應義塾大学(湘南藤沢キャンパス/SFC)でイベントを行うこともある。高校生のときに、中高生による性教育団体「peer(ピア)」を立ち上げた。

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左から中島梨乃、草野絵美

草野絵美は90年生まれ、80年代育ちで歌謡エレクトロユニット「Satelite Young(サテライトヤング)」主宰・ボーカルで、現在2012年生まれの息子を子育て中。自身が10代の頃は、国内外で多様なカルチャーに触れ、ファッションフォトグラファーとして活動していた。

▶️彼女の10代の頃についてはこちら

実体験をもとに性教育を変える発信をスタート

草野絵美(以下、絵美):「産婦人科での低容量ピルのもらい方」など、梨乃ちゃんがYouTubeで発信されている性教育の動画を拝見しました。まずは高校生の段階で性の知識の重要性を認識して、しかも発信しようと思った理由から聞かせてください。

中島梨乃(以下、梨乃):中学1年生のときに付き合っていた彼氏に、「あとでお腹を殴れば子どもはできないから大丈夫だよ」って言われて、それを正しいと思おうとしていた時期があったんです。でもそんなことはありえないじゃないですか。

絵美:そうですね。それを彼氏には言えなかった?

梨乃:はい…。

絵美:なぜか思春期のときって、恋人に嫌われたくないと思ってしまいがちですよね。何か違うなと思っても、相手の期待通りに動いてしまうというか。

梨乃:それすごくわかります。だから毎月の生理が待ち遠しくて、ぼーっとしてる時間が多かったんです。でもその頃、性について考え始めました。そして同じように性の悩みを持っている人が多いことに気づいたんです。それで性について学ぶためにTwitterで情報収集を始めて、しだいに発信も始めるようになって、今に至ります。

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絵美:どういったモチベーションを持って活動を続けているんですか?

梨乃:私と同じような、知識がないだけで傷つく人を減らしたいからです。私自身が彼氏の件で本当に辛かったから、それを多くの人に知ってもらい慰めてもらいたかったんですね。当時は本当に寂しくて、親にも相談できませんでした。むしろ親にコンドームを持っていたことで叱られてしまって、余計に落ち込んだり。私は自分の身を守るためにコンドームを持っていたんですけど、それが親に伝わらなかったのが結構ショックで。だから当時の私のように、誰にも相談できない人に届けばいいな。

絵美:なるほどなあ。今在籍しているSFCでは男女両方のトイレに生理用品を置いたりしてますよね。

梨乃:はい。あれは大学全体をギャラリーにした「SFC Creative Week」という制作展示用の作品なんですが、デザインやカメラをやっている友人たちと一緒に作りました。タンポンとナプキンとシンクロフィット*1を置いて。月経カップ*2はお手入れがいるから置けなかったんですけど、それぞれどんな生理用品なのかの説明書きを置きました。それが置いてあることで、性について話すきっかけになってほしいと思って。「助かった」など反応はいろいろありましたが、それらを見ていると、生理というある意味で当たり前すぎるものだからこそ関心を持ちづらいのかなとも思いました。

(*1)「第三の生理用品」と呼ばれ注目を浴びつつある、ユニ・チャーム社の生理用品ブランド「ソフィ」の製品。体に挟み込んで経血を吸収するもので、ナプキンと合わせて使用することもでき、使用後は水に流せる。
(*2)シリコンでできたカップ型の生理用品で、繰り返し使用できる。

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絵美:面白い取り組みだね!梨乃ちゃんは以前からご自身のSNSを使って発信もしていますが、始める前は誰かに相談しましたか?

梨乃:結構しました。Twitterで性教育に熱心な大人の仲間ができて、皆さんの協力もあって始めようと決意できました。

絵美:そのことをご両親は知っていましたか?

梨乃:はい。こういう活動を始めようと思うってことと、さっき話したコンドームが見つかって怒られたときのことについて、「あのときは辛かったんだよ」って話しました。親もちゃんと聞いてくれて、当時の誤解はとけたんです。

絵美:言えたんだ…よかったねえ。

信頼できると思った人をフォローし、世界を広げる

絵美:本当に性教育って大事なことなんだけど、下ネタ的に茶化して話されたり、女性はそもそも性について話せない雰囲気もあるじゃないですか。

梨乃:めっちゃわかります。

絵美:だからみんなが口に出せなかったことをちゃんと言葉にしているのがすごいと思うんです。梨乃ちゃんの発信をきっかけに活動を始める中学生がいたりして、より下の世代にも影響を与えているようだし。

梨乃:それが自信にもなってます。悪口や中傷を受けても続けられるのはそういうことの積み重ねですね。

絵美:そういう意味でいうと、何かしらの成功体験を通して自信を身につけてきたんですね。他にも何かそういう成功体験はありますか?

梨乃:私が小学生のときに、母が仕事の都合で8ヶ月ほどトルコに滞在することになったんですが、私はそれについていったんですね。自分で行くことを決めたんですが、通っていた小学校を休んで、トルコの日本人学校に行ってみる決断をしたのはのちのち自信になりました。あとは高校生のときに、少林寺拳法部の活動で県内1位になったことも自信になってます。

絵美:すごい、そんなに強いんだ(笑)。動画もすごくわかりやすいし、文武両道だね。

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梨乃:動画は台本の原稿を作って、それを医師や産婦人科の方に添削してもらったものを話しているんです。

絵美:そうやって協力してくれる方はほとんど歳上ですよね。学生のときって周りにいる大人はたいてい親か先生だと思うんですが、学校の外につながりを広げるためには何をすればいいと思いますか?

梨乃:SNSを始めるのはいい方法だと思います。いきなり発信はしなくても、最初は信頼できると思った人をフォローして、その人の活動や発信の方法を真似することから始めてみればいいし。発信を始めると、自然と周りに人が集まってくるようになると思います。

絵美:一度でも外に出たらいろんな世界があるってことが分かるよね。学校のなかのヒエラルキーや恋人に愛されること以外の世界があるって。あとは性教育っていう命題と問題意識を持っていたのがよかったのかな。

梨乃:そうですね。もちろんモチベーションに波はあるんですけど、周りの人のフォローもあって続けられています。ちなみに高校生までは外部への発信をメインにやっていたんですけど、今は慶應義塾大学って名の知られたところにいるから、ここから変えていければ外にも波及できるんじゃないかと思って、内部への発信も多くなっています。

性についての親子間のコミュニケーションの難しさ

絵美:ちなみにご両親からの影響はありますか?

梨乃:母は外で働いていて父が自営業なので、基本的な家事は父がやっているんです。それに小さい頃に気づいて、家族のあり方も多様なんだなと思うようになりましたね。そこからジェンダーのあり方もいろいろだと考えるようになりました。あと、母がイスラムと性を研究する文化人類学の大学教授なんですが、だから研究室にセックスに関する本もたくさんあって、セックスが学問的に追究できるものだということを小さい頃から知っていた影響は大きいですね。

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絵美:活動も応援してくれていますか?

梨乃:はい、基本的になんでも応援してくれます。やりたいこともやらせてくれるし。基本的に干渉してこないんですが、サポートが必要だと思ったときは手助けしてくれます。付かず離れずというか、良い距離感で付き合ってくれていますね。

絵美:素晴らしいですね。性についてはどんな話をしますか?

梨乃:性教育のあり方については話すけど、プライベートな性の話はあまりしないですね。

絵美:うーん、親子での性についてのコミュニケーションは難しい問題ですよね。息子はまだ7歳なんですけど、そろそろちゃんと性について教えないといけないと思っていて。

梨乃:性教育をしている助産師のシオリーヌさんの動画はおすすめです。あとはセクシュアリティ教育に関わるいろんな国の専門家が関わって作った『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』という本もおすすめです。例えばいろんな家族のあり方について、同性同士の親も異性同士の親もいれば、ひとり親もそうでない形もあるとその本には書いてあります。

絵美:まずは家族のあり方の多様性から教えていくと。

梨乃:そうです。生殖の話も年齢段階ごとに網羅されていて、5歳から8歳の間は自然と「赤ちゃんはどこから来るの?」と思う年頃だから、ちゃんと教えてあげましょうとか。

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絵美:すごく重要な話ですもんね。私は生理痛がひどいほうだから、「今日は生理がひどいからパパとお風呂に入って〜」とか普通に言うんです。生理の理由も、「赤ちゃんを産む準備をするために必要なことなんだよ」とちゃんと伝えてます。その先はまだまだだけど。

梨乃:良いと思います。子どもは好奇心で聞いているだけだから。恥ずかしがっているのはこっちだけなので、当たり前のこととして子どもに教えてあげればいいと思うんです。

「誰もが他人を傷つける可能性があって、逆に傷つけられる可能性もある」

絵美:今後の目標はありますか?

梨乃:性で傷つく人を減らしたいですし、みんなにとって生きやすい世界を作りたいですね。私にとってはその方法が性教育なんです。あと、“女性の社会参加”を促したものの一つに、洗濯の手間を大きく省いた洗濯機があるという話を聞いて、私もいつかそういうプロダクトを作れたらいいなと思っています。それに、ハヤカワ五味さんが生理にまつわるプロダクトやイベントを企画するプロジェクト「illuminate(イルミネート)」を立ち上げられてますが、ああいう活動もできればいいなと考えているところです。

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絵美:この連載の取材をするたびに未来が明るいなあって思う。そういう目標のためにも学校ではどういうことを学んでいるんですか?

梨乃:デザイン、宗教、メンタルヘルス、プログラミングとか、いろいろと学べる環境があるから手当り次第に学んでます。性教育を普及させるためにはどんなことも役に立つと思うので。

絵美:性教育の本を作ってほしいな。教材が必要だと思ってて。

梨乃:そうですね。『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』も子ども向けではないし。本当に乏しいんですよね、性教育に対する環境が。学校の保健の授業も先生によってエロ方向にけしかけたり、セクハラっぽくなったりするし。だから家庭でも教えるのがいいと思うんです。性器についてだったら、「触ることは全然悪いことではないよ。でも清潔な手でプライベートな空間でね」とか。痴漢やセクハラについてだったら、「水着で隠れるところを触られそうになったら拒んでいいんだよ」とか。

絵美:性感染症、避妊、セクハラ、差別とか、性教育に関連して本当にいろんな問題がありますよね。

梨乃:そうなんです。だから誰もが他人を傷つける可能性があって、逆に傷つけられる可能性もあるということを、子どもの頃から教えるべきだと思います。

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始まったばかりの大学生活、学内から風向きを変えていく

今年慶應義塾大学に入学したばかりの中島梨乃。

彼女が通う湘南藤沢キャンパスは、自らのプロジェクトを持った学生が多く集まり、多分野にユニークな人材を輩出することで知られている。同校の卒業生であり、同キャンパス在学時に起業したりフォトグラファーとして活動したりしていた草野との共通点もあり、今回は同地での撮影が実現した。

中島は対談でも触れた作品展示のほか、大学内において「キャンパスにおける性犯罪を防止するには」をテーマとしたシンポジウムを開催するなど、すでにさまざまなアプローチで働きかけを始めているようだ。

大学のなかから風向きを変えていきたいと話す彼女の志に共感する友人も学内に現れているらしく、この先も積極的に活動を続けていくとのこと。これからの動きにも注視したい。

それでは、次回の連載もお楽しみに!

中島梨乃(なかしま りの)

TwitterYouTube

慶應義塾大学(湘南藤沢キャンパス/SFC)在学中。新しい性教育の在り方を考える性教育プロデューサー。高校生からSNSを通して性についての情報発信を行う。中高生による性教育団体「peer(ピア)」の発起人。

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草野絵美(くさの えみ)

WebsiteTwitterInstagramYouTube

90年生まれ、80年代育ち。アーティストで、歌謡エレクトロユニット「Satellite Young(サテライトヤング)」主宰・ボーカル。2012年生まれの息子の子育てをしながら、テクノロジー社会への問をたてるアート作品製作、東京藝大で教鞭をとるなど、多方面で活躍中。

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