「投票に一緒に行ってご飯でも行かない?」辻愛沙子と永井玲衣に聞いた、若者が選挙に行く意味

Text: Natsu Shirotori

Photography: Yagi Saki unless otherwise stated.

2021.10.27

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 2021年10月31日、第49回衆議院総選挙が行われる。過去直近で行われた国政選挙での投票率は、2017年10月に行われた第48回衆議院議員総選挙では53.68%、2019年7月に行われた第25回参議院議員通常選挙では48.80%であった(参照元:総務省)。若干の増減はありつつも、長期的にみると日本の投票率は減少し続けている。
 ここ2年では新型コロナウイルスの影響もあり、さまざまな社会問題が露呈した。パンデミック以降、政治や社会への関心が高まったという人も少なくはないだろう。これまで政治に関心があったという人も、最近政治に関心を持ち始めたという人も、迫る選挙を前にどんなアクションができるのだろうか。今回は、さまざまな分野で活動をする人々に選挙をテーマにインタビューしてみた。前編は10月に日本の投票率を高めるために活動する有志プロジェクト「GOVOTEJAPAN」を立ち上げたクリエイティブディレクターの辻愛沙子(つじ あさこ)、そして哲学者の永井玲衣(ながい れい)に話を聞いた。

辻愛沙子(つじ あさこ)

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ー今回の選挙に合わせて始動したGOVOTEJAPANの活動について教えてください。

名前の通り、日本の投票率を上げることを目的としたプロジェクトです。個別具体の問題や主張を知ったうえで投票に行くことはもちろん大事ですが、その前のはじめの一歩としてまずは投票に行くことを呼びかけます。今、日本だと投票に行くことを呼びかける活動自体がリベラルの活動のように見られていますが、そのこと自体が課題だなと思っていて。GOVOTEJAPANは投票率を上げることが目的なので世代・年齢・地域・職種・支持政党や主義主張などを超えて、特定の誰かのためではない広い活動にしたいと思っています。今回の衆院選だけではなくて来年の参院選も含め、長期的な活動をしていくために社団法人にしました。

具体的なアクションだと、イラストレーターさんとコラボした投票宣言キャンペーンや、著名人から一般の方までさまざまな方にお声がけして集めた「#私が選挙に行く理由」の動画などを企画しています。あとは、前回の衆院選で20代が全世代で最も投票率が低かったことから、企業広告の展開や企業さんとコラボした投票率割という、20代の投票率によって協賛企業の商品の割引率が決まるキャンペーンなども実施します。

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ーあなたにとって選挙とは何のためのものですか?

大きく分けて3つ答えがあると思っています。一つ目は、それぞれが思うイシューの解決実現に近づけるため。例えば奨学金の返済が厳しいとか、保育園になかなか入れないとか、私だと選択的夫婦別姓とか同性婚とかに思いが強いのですが、投票って各々が生活で感じる課題や日本という国に感じる課題を声として届ける一つのアクションだと思うんです。二つ目は、国民が政治を見ているんだからしっかりしてくださいと意思表示して、政治家さんたちに緊張感を持ってもらうため。情報開示やあらゆる意思決定がそれにより変わってくることは確実にあると思うんです。政治家のための政治ではなく、この国で生きる全ての人たちのための政治であってほしい。三つ目は、周りの人たちと政治について話したり興味を持つきっかけの場所として。1票を投じたことによって、例えば開票の日にはいつも以上に当事者意識を持って政治や政治家に向き合うことができるし、その後も興味を持って政治の情報を追えるようになるのかなと思います。今回の選挙どの党に入れるか迷ってるんだよね、とか、最近社会に対してこんなこと考えてるんだよね、とか、なかなか日常で語りきれないトピックを改めて考えて周りと話す良いきっかけになるのではないかなと。

ーまだ選挙に行ったことがない人やあまり積極的に参加していない人を、選挙に誘うとしたらどう声をかけますか?

他のイベントごとと同じように、選挙を大義名分にして食事とかお出かけに誘うのはどうでしょうか。例えば、クリスマスは家族とご飯を食べたり好きな人とデートしたり、お正月もおせちを囲んでみんなで集まったりする人が多いですよね。。選挙も同じように、「投票に一緒に行ってご飯でも行かない?」というようにコミュニケーションのきっかけとして使ってみるのもいいんじゃないかなって思うんです。

ー自分たちが投票することに意味がないという意見も聞きますが、若者が投票することでどんないいことがあると思いますか?

はじめにもお話しましたが、若者の投票率が上がることで自分たちも政治を見ていますという意思表示をすることができることは大きなメリットではないでしょうか。政治家はどうしても票に繋がる先を見ざるを得ないところがあると思っていて。若者の投票率が上がり選挙への関心が高まることで、若い世代の声を聞き、その世代の課題に向き合わざるを得ない環境を作ることも大事なんじゃないかなと。今の日本でこれだけ子育てが大変で、若い世代が生きづらい社会が変わっていかないのには、若者にメリットがあることをしても票にならないと思われているところもあるんじゃないでしょうか。だから、それぞれの主義主張の違いはあってどこに投票するのかはもちろん重要ですが、まずは世代全体で投票率を上げることが大切だと思っています。

ー選挙のときにはどんなふうに情報を集めて、投票先を決めていますか?

私の場合は、個別具体のイシューで特に重要視していることがいくつかあるのでそれを一つの基準にして決めています。各政党が何を答えて、何に◯×△をつけているのか。候補者アンケートでちゃんと誠実に回答しているのか。いろいろな調査をメディアや団体が作っていますが、そのなかで分かりやすかったものを紹介すると、比例代表で入れる政党を迷ったときには「#みんなの未来を選ぶためのチェックリスト」で検索して、各政党の答えを見てみるだけでも理解が進むかと思います。小選挙区で候補者を決めたいときには日テレのnewszeroが作っている候補者アンケートを見るととても分かりやすいです。他にも、NHKの「投票のキホン」という記事もよかったです。投票所の様子なども説明してくれています。私も最初に投票に行ったときには右も左も分からなかったので、そもそもの基本を改めて学べる記事は大事だなと思いました。
ただ、あまり構えすぎるのもよくないかもしれません。この国が抱える全ての課題や全政党が掲げる全てのマニフェストや事情を1人で理解しきるのは誰でもハードルが高すぎるので、とりあえずまずは、コロナへの対応とか文化芸術とか選択的夫婦別姓とか、一つだけ自分のホットトピックを決めてそれを軸に投票先を選んでみる、などもいいのではないでしょうか。

ー選挙に行くときはどんなファッションで行きたいですか?

何着ようかな、それ考えるのもイベント感あって楽しいですね。一張羅のセットアップで行こうかな。あと、フェミニズムTシャツをたくさん持っているのでそれを着て、主義主張を背負っていくのもいいかも。自分がエンパワメントされる服装で行きたいです。

ー投票に行った後に外食するならどこに行きますか?

投票後はみんなとあれこれ私たちの未来や社会について話したいので、喋りやすい食べ物がいいかな(笑)あ、ファミレスかも!ファミレスっていろんな選択ができるじゃないですか。何注文した?と同じテンションで、政治の話もできたらいいのかなと思いました。ドリンクバーもつけてみんなでだべりたいです。

ーあなたが実現したい社会はどんな社会ですか?

社会は成熟しているようでいろんなところにまだまだ課題があってどこまでいっても未完成で、だからこそどんどんと変わり続けていくことが大事だと思うんです。その一つ一つを自分たちの手で変えられるということを、それぞれが感じられ声を上げられる社会になったらいいなと思っています。というのも、私自身が今、GO VOTE JAPANの活動をしたり、テレビ番組に出たりといろいろな活動をしていくなかで、まさにそれを実感しているからです。仕事を始めた大学生の頃は、20人くらいの小さなベンチャー企業に所属する、ただただ絵が好きな一人の少女でした。そんな私が、仕事や生活のなかで少しずつジェンダーの問題に関心を持って、周りの人に話し始めたら、一緒に働く人たちも社会について語り合ったり、そんなプロジェクトが仕事で動き出したり、テレビでもジェンダーの話題がなんとなく増えて話す機会が多いなと空気の変化を日々感じているんです。自分自身が当事者意識をもって立ち上がることで、周りも自分自身も変わっていけるんだということを実感してきたように思います。だから、綺麗事と言われるかもしれないけれど、より良い方向へと誰もがアクションを起こしたり、おかしいと思ったことを口に出せる、そんな当事者性の高い世の中になったらいいなと思っています。社会は、他の誰でもない、私たちのものなので。

永井玲衣(ながい れい)

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ーあなたにとって選挙とは何のためのものですか?

私はそもそも、投票するという行為がとても好きなんですよね。教科書に書いてあるような、選挙権を獲得していく過程や投票の仕組みを学んできて、歴史的に積み上げられてきた権利を今自分が行使しているってことがすごく嬉しい。なので、テンションがぶち上がるイベントなんです(笑)。

また、私が関心を持って研究しているフランスの哲学者のジャン=ポール・サルトルの「アンガジュマン」という概念にも影響を受けています。私たちは望んでこの社会に生まれきたわけではないけれど、自然と社会に巻き込まれていますよね。でも、そこでサルトルは巻き込まれているからこそ、自分から能動的に巻き込まれにいくことで、社会に自分を参加させていくことができるのだと言うんです。受け身なのに、そこに主体性や能動性を見出す不思議な因果関係で説明していますよね。選挙も自分を社会に参加させていく、巻き込まれる行為の一種かなと思っています。

ー選挙のときにはどんなふうに情報を集めて、投票先を決めていますか?

まず各政党の公約を読んだり、政策を読んだりします。私の場合は、各政党の公式ホームページを見て情報を集めることが多いですます。初めて選挙に行ったという知り合いが、「どう決めていいのか分からず、候補者の経歴や趣味を見て投票先を決めた」と言っていたんですよね。初めてなので、選挙に行ったこと自体すばらしいんですけど、投票先が何を目指しているのか、どんな社会を目指しているのかも見て決められたらいいねと思ったんですよね。私たちはどうしても、人格や出身地、好きなものに着目しがちですが、その部分と主義主張を分ける態度も学ばなければな、と思いました。

あと、情報って一人だけで得るものじゃなくて人々と話すことで集まってくるという側面もあると思います。一人で考えるのは難しくても、日常のなかで「あの記事読んだ?」とか言い合いながら考えていることも多いです。

ー日本だとまだ政治の話がタブー視されがちな印象ですが、周りと政治の話をしやすくするアイデアはありますか?

そうですよね。私は哲学対話という活動をしているんですが、そこでは哲学する場を作ることに加えて、人々と集まって話すための場を育てることも目指しています。政治の話ができない、性の話ができない、真面目な話ができないなど、今の日本はできない話が多すぎると思うんですよね。そのようななかで、哲学って普遍的な問い、誰もまだ正解を持っていない問いを扱うので、皆が参加できるんです。いきなりどこの政党に入れるかと聞かれたら緊張するけれど、そもそも社会とは何なのか、平等とは何なのかという点から出発したら、少し話しやすくないでしょうか。私たちの前提や欲望について掘り下げるところから始めて、政策や政党など具体の話へと徐々に開いていくのがいいかもしれません。

ー自分たちが投票することに意味がないという意見も聞きますが、若者が投票することでどんないいことがあると思いますか?

若者が政治に参加できる、若者の声が政治に反映されるようになるってことが一番シンプルな答えかとは思います。ただ、若い人って政治的に自分の考えを受け止めてもらった経験ってほとんどないですよね。あまり話を聞いてもらえたことないんじゃないかなって。だから選挙に行っても仕方がない、という絶望感もよく分かります。政治の話をされたり、選挙に行けって言われても、怒られている気がするという声も聞きます。それでも行こうよっていいたいんですけど、なかなか難しいですよね。

ーそんなふうに選挙に行ったことのない人を、あえて誘うとしたらどう言葉をかけますか?

これまで選挙に行けなかったことに対して「あなたが悪いわけじゃない」とか「あなたが愚かだとか、不勉強だからというわけではない」ということは最初に伝えたいです。そうではなくて、経験したことがないのだから、経験のために一緒に行ってみない?と誘うかな。

ー選挙に行くときはどんなファッションで行きたいですか?

おしゃれってほどじゃないけど、割としっかり準備するかも。私は投票が好きなので、気合を入れて歴史の1ページに参加するつもりで行きます。もちろん買いもの帰りにふらっと寄るのもいいんですけどね。

ー投票に行った後に外食するならどこに行きますか?

何食べたいかな。私は基本的には投票日に投票に行くので、そのままファミレスとか行って、開票を眺めますね。「おお〜」とか「なんなの〜」とか文句言いながら見てます(笑)。でも、そう質問されると、何かご馳走食べたいかも。

ーあなたが実現したい社会はどんな社会ですか?

強い個人が前提とされない社会が一番だと思っています。人間は弱くて脆いからこそ、みんなで協力していかないと生きていけないし、状況によってすごく困難な環境に置かれてしまう人もいますよね。そういう人たちを「もっと強くなれ」って切り捨ててほしくないんです。なので、そういう人たちと一緒に声を上げられたり、優先的に控除なり共助なり、ケアの手がある社会で生きたいと思います。

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GOVOTEJAPAN

2021年10月の衆議院議員総選挙を皮切りに立ち上がった日本の投票率を高めるための活動を行う社団法人。特定の政党や主義主張を支援するものではなく、中立の立場で「選挙に行こう」のスローガンのもと活動を行う。株式会社arca代表の辻愛沙子、株式会社FRAGEN代表の田代伶奈、DE inc,代表の牧野圭太が発起人となり、メディアでの情報発信や、SNSを駆使した企画、さまざまな企業とのコラボレーション企画を実施する。
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辻愛沙子(つじ あさこ)

社会派クリエイティブを掲げ、「思想と社会性のある事業作り」と「世界観に拘る作品作り」の2軸から広告から商品プロデュースなどを手掛ける。2019年秋より報道番組「ニュースゼロ」へレギュラー出演。2021年10月には投票への参加を呼びかける新プロジェクトとして、GO VOTE JAPANを立ち上げた。
Website / Facebook / Twitter / GO VOTE JAPAN

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永井玲衣(ながい れい)

哲学の研究を続けながら、学校や企業などさまざまな場で哲学対話を行う。震災(Disaster)から、10年(Decade)という節目に立ち上がった、さまざまなDをテーマにしたムーブメントD2021運営。著書に『水中の哲学者たち』(晶文社)など。
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