「ムスリム女性特有の苦悩」を訴えるために韻を踏む“ヒジャービー・ラッパー”誕生

Text: Shiori Kirigaya

Photography: ©Mona Haydar

2017.4.21

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今年も3月8日のインターナショナルウーマンズデイ(International Women’s Day)には、人々に改めて「女性の権利」を考えさせようとする動きがみられた。それと同時期に、ムスリム女性の権利を考える#MuslimWomensDayというハッシュタグがSNS上で多く使われていたのをご存知だろうか?

そんなムスリム女性の苦悩をラップで訴える、ヒジャービー(ヒジャブを被った子)のラッパーが#MuslimWomensDayと同じ今年3月にデビューした。

「インターナショナルウーマンズデイ」と「ムスリムウーマンズデイ」

インターナショナルウーマンズデイに合わせて#MuslimWomensDay(ムスリムウーマンズデイ)のハッシュタグがSNSのトレンド入りをしていた。これは、ひとくちに「女性の権利」と言ってもその女性が住んでいる国など置かれている環境によって、どの程度の権利を享受できるかが異なることを意味している。

例えば多民族国家として知られるアメリカでは、トランプ大統領就任後、人種や宗教間の軋轢が深まった。

そして残念なことにイスラム圏の一部に住む人々のアメリカ入国が制限されたり、彼らに対するヘイトクライムの数が増えたりしている。その際にターゲットにされやすいのがヒジャブを被るなどムスリムだと明らかな装いをしているムスリムの女性たちなのだ。

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彼女たちは、他の宗教を信仰する女性たちと同じ権利を享受できていない。そんなムスリムの女性たちが声をあげたのが#MuslimWomenDayだった。

属する人種や宗教グループにより人々はそれぞれ異なる苦悩を抱えているが、彼女たちがそこで訴えたのはヒジャブを被っているから浴びされる暴言など「ムスリム女性特有の苦しみ」である。(参照元:The Huffington Post,

ラップで“ヒジャービー”が声を上げる

ヒジャービーとは「ヒジャブを被った子」という意味だ。そんなヒジャービーのモナ・ヘイダー(Mona Haydar)は今年3月にラッパーとしてデビューした。

彼女は詩人でアクテビィスト、持続型農業の実践者、瞑想者、堆肥愛好者、山好き、ソーラー発電好き、神の熱心な信者というエネルギーに溢れた女性だ。(参照元:M O N A ::: H A Y D A R)ヒジャブを被っているだけでなく、妊娠しながらもラップしているという点で彼女は珍しい存在かもしれない。

彼女が発表した楽曲「ヒジャービー」で訴えたのは、ヒジャービーが直面する苦悩やステレオタイプだ。

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Yo 君はどんな髪してんの、いい髪してるんだろな

What that hair look like どんな髪してんの
Bet that hair look nice いい髪してるんだろな
Don’t that make you sweat? 汗かかないの?
Don’t that feel too tight? きつくないの?
Yo what yo hair look like Yo 君はどんな髪してんの
Bet yo hair look nice いい髪してるんだろな
How long your hair is 髪はどのくらい長いの

 

まずはどんな人種や宗教の女性でも受けることのある“キャットコーリング”(男性が女性にやじを飛ばされる嫌がらせ)について歌われているが、ヒジャービーが非ムスリムの男性から受けるものは「性差別的」なだけでなく「宗教差別的」なやじであるのが特徴のようだ。

キャットコーリングは女性を蔑んだ行為だが、女性のなかでもマイノリティのヒジャービーたちは自分の信仰する宗教に対するものを合わせた二重の嫌がらせを受けているのだ。

彼女たちにやじを飛ばす男性たちには「ヒジャブで隠れた髪」がどんなものか興味本位で聞いているだけだと反論されそうだが、相手の気持ちを考えない言葉をかけること、そしてやじを飛ばすこと自体が嫌がらせである。

ムスリムはエジプトからカナダまで世界中にいる

ムスリムにはどんな人たちがいるのだろうか。モナが次に歌っているのは彼女たちがどれだけクールなのか、そして彼女の同胞であるヒジャービーたちやイスラム教徒が世界中にいるということだ。

彼女たちが西洋の国ではマイノリティであっても、彼女たちの仲間はあらゆるところに存在している。そして、ムスリムといえばヒジャービーの女性たちが注目されがちだが、彼女たちがムスリムの全てでないことを訴えているようだ。

You’re just jealous of my sisters あなたは私の姉妹たちを羨んでるだけ
These Mipsters, These hippies ミップスター(おしゃれなムスリム)たち、ヒッピーたち
These Prissies, These Sufis プリシーたち、スーフィーたち
These Dreddies, These Sunnis ドレッドの人たち、スンニ派の人たち
These Shii’s, Yemenis シーア派の人たち、イエメン人たち
Somalis, Libnanis, Pakistanis ソマリア人、レバノン人、パキスタン人
These Soories, Sudanis ソーリーたち、スーダン人
Iraqis, Punjabies イラク人、パンジャーブ人
Afghanis, Yazeedis アフガニスタン人、ヤジディ教徒
Khaleejis, Indonesians カーリージーを被る人、インドネシア人
Egyptians, Canadians エジプト人、カナダ人
Algerians, Nigerians アルジェリア人、ナイジェリア人
Americans, Libyans アメリカ人、リビア人
Tunisians, Palestinians チュニジア人、パレスチナ人
Hidden beyond the Mekong in Laos ラオスのメコン川を越えたところのムスリムたち
Senegalese and Burkina Faso セネガル人とブルキナファソ人

 

ラップでムスリムを嫌う者を圧倒するという方法

モナがこの楽曲に込めた最も強いメッセージは何だろうか。それは、「勝手な偏見を持ってくる他人にとやかく言われてもヒジャブを被り続ける」ということかもしれない。ヒジャービーたちに他の人を気にせずにうろついてと呼びかけているのだ。

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あなたが嫌ったって私はヒジャブを巻く

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それでも私はヒジャブを巻く ヒジャブを巻く

All around the world 世界は
Love women every shading 全ての肌の色の女性が好き
be so liberated 私たちはとても自由
All around the world 世界は
Love women every shading 全ての肌の色の女性が好き
power run deep 私たちには大きな力がある
So even if you hate it あなたが嫌ったって
I still wrap my hijab それでも私はヒジャブを巻く
Wrap my hijab ヒジャブを巻く
Wrap my hijab ヒジャブを巻く
Wrap, wrap my hijab 巻く ヒジャブを巻く

Keep swaggin my hijabis 私のヒジャービーたち、ヒジャブでうろつき続けて
Swag-Swaggin my hijabis 私のヒジャービたち、うろついて
Swaggin my hijabis  私のヒジャービーたち、うろついて
Swag-swaggin my hijabis 私のヒジャービーたち、うろついて

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フェミニストの星を作る 女性を憎む人は追放される

Make a feminist planet フェミニストの星を作る
Women haters get banished 女性を憎む人は追放される
Covered up or not don’t ever take us for granted ヒジャブを被っていてもそうでなくても私たちには力がある

※動画が見られない方はこちら

モナのラップを聞いたり歌詞を読んだりして何を思っただろうか。自分たちを偏見の目で見る社会に対し、力強くてかっこいい音楽で「私たちは屈しない」という声明を出す彼女から学べるのは、相手を圧倒させるという方法だ。

彼女のラップのような、自分や自分の属するグループにしかない「かっこよさ」を見せつけるアクティビズムこそ、最もパワフルで人に響かせることができるのかもしれない。そして、これが「ヒジャービー」について何も知らない日本人にとっても、彼女たちの直面する問題を知るきっかけになるといい。

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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