「周りにどう言われてもいい。俺の方がメイクしてるから」ブラックルーツを持つ17歳のスケーター/モデル日高大作レイは、なぜ思い出したくない過去と向き合ったか

Text: Takuya Wada

Photography: HAYATO TAKAHASHI unless otherwise stated.

2020.9.9

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2020年5月25日米・ミネアポリスで軽度の容疑をかけられた黒人男性ジョージ・フロイドが無抵抗だったにも関わらず、警察官に首を足で押さえつけられ死亡したことをきっかけに、度重なる有色人種への不当な差別に対する抵抗と、連帯の声が世界中へと波及したBlack Lives Matter(ブラック・ライブス・マター 以下、BLM)ムーブメント。

その“当事者”として日本から声をあげるのが、日高大作レイだ。スケーターであり、ルイヴィトンやTAKEOKIKUCHIに起用され、雑誌『POPEYE』のカバーを飾るなどモデルとしても活躍する彼のバッグクラウンドは、アメリカ人の父と日本人の母を持つブラックルーツのミックス。

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日高大作レイ

BLMムーブメントをきっかけに、人種差別に関するディスカッションをオープンに行い、レイシズムをテーマにしたアートワークやドネーション活動などを行う大作だが、自身の人種差別を受けた経験から「これまで自分の経験を人前で語りたくなかった」と話す。

陽気で、まだあどけなさの残る17歳の表情からは想像できない、大作が吐露した生きづらさ。しかしそれでも声をあげるのはなぜか。自身の過去とともに語ってくれた。

「肌の黒い人は嫌いだけど、大作くんは好きよ」

渋谷、旧宮下公園の鼻先にあるスケートショップ「FTC TOKYO」の店先で、大作は屈託のない笑顔で友達のスケーターとダベっていた。自分が出演した公開間近のスケートムービー(『STAND STRONG』現在公開中)のフライヤーを回し見ながら「みんなで観に行こうぜ」と盛り上がる友達に、「まぁ、暇なら観にきてよ」と少し恥ずかしそうに話し、またすぐに冗談を飛ばし合う。大手不動産の都市開発が街の記憶をいくら上書きしても、急速な変化の隙間にある路上の風景はいつになっても変わらない。

「あいつは純粋で、本当に大人だと思う。俺らが17歳の頃とは比べものになんないっすね」。冗談を飛ばしつづける年上の友達が、ふと大作についてそう話したことが印象的だった。

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BLMのムーブメントが世界的に報道され続けていた6月のある日、大作は多くの友人・大人が見守るなか、人目をはばからず泣いていた。友人が大作を呼んで行った、BLMに関するグループディスカッションのInstagramのライブ配信でのことだった。

人種的にはブラックにルーツを持ちつつ、日本で生まれ育った俺の声が必要だって声をかけてもらって、みんなの前で自分の経験をオープンにしたって感じです。

でも、それまではあんまり人前で自分の経験を話すのって気が進まなかったんですよ。だって、みんなに伝えるためには、忘れてたことを無理やり思い出さないといけないじゃないですか。

大作は、いじめを受けていた小学生のころの記憶を、母親から聞いて思い出すことが多いという。PTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断された事実を思い出したのも最近のことだ。

びしょ濡れ、どろんこになっていつも泣きながら帰ってきてたらしいんですけど、どういう仕打ちを受けてたかは覚えてない。ただ、思い出そうとすると動悸が激しくなる。体が覚えているのかもしれないっすね。

児童相談所で、大作の母親はセラピストに「このままいくと、人を傷つける危険性がある」と告げられたという。理不尽な状況にあったときに、自分に刃を向けるか、他人に刃を向けるか──。どちらかがあるとしたら、「後者の傾向が強かった」と振り返る。

俺、「俺が大人になったらあいつら絶対ぶっ殺しにいく」みたいなことをずっと言ってたらしいんです。小学生のときはずっとそんな気持ちで生きてたんだって、今はそう思います。

また、学校の担任の先生から言われた「私、肌の黒い人は嫌いだけど、大作くんは好きよ」という無意識の差別も、「大人に呆れる」という感情を少年だった大作に抱かせるには十分だった。不登校気味になった大作は中学校もあまり行かなくなり、次第に学校から遠ざかっていくが、同時に、それは自分の居場所をつくるきっかけともなった。

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学校行かずにスケボーばっかやってたら、自然と友達ができていって、「大作、カッコいいじゃん」って、自分を認めてくれる友達が増えてったんすよ。そこからモデルの仕事にも繋がっていって、仕事を通して自分を理解してくれる大人の人たちにも出会えて、学校の外でいろんなことを学べたっすね。スケボー、モデルの仕事にほんとに救われました。

高校入学と同時に東京の専門学校の「スケートボード&デザインコース」へと進学し、また通信制高校にも通う大作は、「今、学校が楽しい」とも話す。

最初は高校に行くつもりなかったんですけど、入ってよかった。変なやつがいっぱいいるけど。利用はされたくないし、誰の奴隷にもなりたくないってずっと思ってるけど、自分がやってる仕事を学校が認めてくれるのも嬉しいっすね。

「白人とのミックスのほうがよかったのかな」

自分の外の世界を知ることで、大作は自分を少しずつ肯定していく。自分を肯定することで、過去や自分のアイデンティティにも向き合おうとする勇気が生まれた。大作が踏み出した外の世界は、自分と同じ境遇にある人間がいることも教えてくれたからだ。

去年の10月にNYにしばらく滞在して、本当にくらったんですよ。俺はスケボーやってモデルもやって、絵描くけど、それが向こうでは普通でみんなカッコよかった。

NYでは自分と同じ肌の色の人間がたくさんいて自分がマイノリティだということを感じなくてよかったと話し、少なくとも、彼があった友達が他人を見た目でジャッジすることはなかった。

生まれ育った国で肌の色とか髪型でいじめられてきて、ずっとこの国(日本)に生まれてきた意味がわからなかったから、「黒人でよかった」って、心の底から思えたことがなかったんすよ。「白人とのミックスのほうがよかったのかな」って考えたり。でも、NYに行って、自分が持ってるものを誇っていいんだって思えたんすよ。絶対ここに住んで好きなことで仕事できるようになりたい!って思えて、新しい目標ができた。

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大作がBLMのムーブメントをきっかけに、思い出したくない自身の過去をオープンにし、「嫌いになりかけていた」という日本に向けて声をあげるのも、NYの同世代の友達が、大作自身が抱えてきた問題に向き合い闘っていることを知ったからだ。

BLMのムーブメントがはじまった当初、「何が起こっているかはわからなかった」という大作だが、デモを抑えようとする警察の催涙スプレーで何度目を腫らしても、声をあげ続ける同世代のスケーターたちを目の当たりにして衝撃を受けた。

同世代がこれだけ闘って世界が動いてるのに、自分たちが動かなかったらマジでダサい、って。そのときにはじめて自分の過去が何かの力になるかもって考え出したんです。
ああいう場(Instagramのライブ配信)で泣き崩れて恥ずかしかったけど、周りの人に「俺が17歳のときは言えなかった」って、自分の弱い部分を強いって言ってもらえたから。

BLMのグループディスカッション後、人種差別が原因で友達を亡くしたことがある参加者が泣きながら大作に話しかけ、自分の思いを伝えられたという。海を隔てた国だけじゃない。この国にも、同じ境遇の人がいる。そう思えた。

自分より大人のマイノリティの人は、今よりもっと話しづらい時代を生きててきたはずで、親のほうが自分よりつらい経験をしてるってこともこの状況になって知った。自分が一人じゃないって思えたこともそうだけど、同じ境遇の人にも何か力になれるんじゃないかなって。

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「お前らより俺の方がメイク(成功)してる」

俺、ほんとに死ななくてよかったなって思うんすよ。自分含めて、人を傷つけなくてよかったのは、間違ってるのは俺じゃない、って知ることができたから。

小さい頃から海外に連れて行ってくれた母親が「世界は広いんだよ」と教えてくれたこと、スケボーで友達ができたこと、モデルの仕事でいろんな大人たちが自分を認めてくれたこと。これらの経験が、大作に「自分は人に愛されている」と気づかせてくれた。

いじめって自分を否定されるから、ずっと自信がなかったんすよ。子どもは自分が誰かに愛されてるかとか、自分を肯定してくれる人間がいることに気づきにくいじゃないっすか。自分がいる世界がものすごく限られてるから。

いじめてたやつは家庭の問題や、傷があることを後から知ったりもしたんすよ。それは、周りの愛が足りなかった、それに気付ける環境にいなかったからかもしれないじゃないっすか。

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人に愛されてるかに気付けるかは人との出会い次第だが、「自分はまだ恵まれてるほうだ」と大作が語るように、必ずしも誰もがそうした出会いに恵まれているわけではない。

大作は、人の愛情に触れられなかった人間が他人を傷つけることを知っている。だからこそ、どこかで同じ境遇にある誰かに、「自分は間違っていない」と知ってもらうために声をあげる。

自分のコラージュアートを作って、販売し、その売り上げをドネーションする活動も続けたいし、将来、小学校に人種問題について話をしにいったりもしたい。経済のこと、社会のこと、自分が大人よりもわかってないことが多いのはもちろん知ってるけど、今自分が知ってること、できることで自分の周りの環境だけでも自分や同じ境遇の人が生きやすいように変えていきたいっすね。俺らには未来しかないし、パワーがあるって信じてる。

過去と向き合うことは、自分と向き合うこと。人に話すことは、自分に言い聞かせること。そうすれば、人に優しくなれる気がするんすよ。「負けんな」って。その結果、周りからとやかく言われてもなんとも思わない。だって、「お前らより俺の方がメイクしてる」って自信を持って言えるから。

日高大作レイ

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