アメリカで黒人でいること vs 日本で黒人でいること。3,500人を集めたBlack Lives Matterデモの主催者・Jaime Smithインタビュー

Text: Noemi Minami

Photography: Kotetsu Nakazato unless otherwise stated.

2020.7.3

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2020年5月30日、東京の渋谷周辺で黒人差別問題を訴えるムーブメント「Black Lives Matter(ブラック・ライブス・マター)」のためのデモ行進が開かれた。3,500人以上が集まり、そこには若者の姿が多く見られた。

驚くことにこのデモ行進を企画した団体「Black Lives Matter Tokyo」は、デモ行進のたった2週間前にできたという。

今回NEUT MagazineはBlack Lives Matter TokyoのクリエイティブディレクターであるJaime Smith(ジェイミー・スミス)に話を聞いた。

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Jaime Smith

一晩で30人から300人、2週間で3,500人に

2020年5月25日、ミネソタ州ミネアポリスで黒人男性ジョージ・フロイドが警察官によって殺害された。ジョージ・フロイドは食料品店で偽の20ドル札を使用したと容疑をかけられ警察官に拘束された。彼は無抵抗だったにも関わらず8分46秒にわたって首を足で押さえつけられた結果死亡した。暴行した白人警察官は3級殺人と過失致死に加え、第2級殺人の罪に問われている。その場で何もしなかった他の警察官3人についても殺人ほう助と扇動の疑いで起訴されている。

この事件をきっかけにBlack Lives Matterムーブメント*1は世界中に広がり、アメリカをはじめイギリスやベルギーなどの都市で奴隷制度維持に関わった人物の銅像が市民により破壊されたり、行政側による撤去が行われたりした。各都市でのデモは今日まで続いている。2020年5月30日に東京で開催されたデモ行進もこの大きな流れの一つといえるだろう。

▶︎なぜ世界中が「黒人の差別」に対して声をあげているのか #BlackLivesMatter

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東京でのマーチを企画した団体Black Lives Matter Tokyoのクリエイティブディレクターを務めるJaimeはアメリカ・メリーランド州で生まれ育ち、同州タウソン大学でデジタルアートとデザインを勉強したのち、卒業と同時に3年前に英語の教師としてに日本に移り住んだ。最初の2年間は英語教師として徳島県に住み、ここ1年間は美術教師やマーケティングアシスタント、モデルの仕事をしながら埼玉県に住んでいる。

Jaimeが日本に興味を持ったのは武道家だった父の影響だという。

父が武道家で、私にも武道家になってもらいたかったみたいなんです。でも私は戦うのは向いてなくて。それでも日本が大好きで日本について私に知ってもらいたかった父はアニメを見させてくれて、アートが大好きな私はすぐに夢中になりました。10歳の頃にお母さんに「いつか日本に住むの!」って言っていたのを覚えています(笑)。

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アートとファッションに興味があり、ロリータファッションなど原宿カルチャーが好きだという彼女が、Black Lives Matter Tokyoの発起人であるSierra Todd(シエラ・トッド)と出会ったのも原宿カルチャーを通してだった。

Black Lives Matter TokyoはSierraが10人ぐらいの大学の友人と週末に原宿でBlack Lives Matterの小さなポスターを持って立っていたことから始まった。その話を聞いたJaimeは次の週末に参加。その週末は30人ぐらいの人が集まり、オンライングループを作ったところ、一晩で300人になっていたという。

この反響を受けて、そこから合法的なデモ行進の開催についてや、アメリカでの人種差別問題、日本での人種差別問題について情報を集め始めた。その過程でSierraに頼まれてJaimeはクリエイティブディレクターとなった。そして立ち上げからたったの2週間後に開催されたデモ行進には3,500人以上の人が集まった。

反響にはびっくりしました。日本人がたくさん来てくれて嬉しかったです。特に若い人たちが多かった。日本人は政治やデモ行進に関心がないってステレオタイプがあるけれど、そんなことはなかったです。

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Photography: @tallintokyo

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Photography: @commitin

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Photography: @Sanjayb

Black Lives Matter Tokyoは、黒人であることだけでなく、黒人女性であること、黒人のクィア*2であること、黒人のトランスジェンダーであることなどインターセクショナリティ(交差する多面的な要素を考慮すること)を大切にしている。

Black Lives Matter自体も東京の活動もクィアの人たちによって始まったことが忘れられがちだからそこは強調しておきたいです。Sierraはクィアで私はジェンダーレス*3。そして2人ともバイセクシュアル。それもこの活動にとって重要な要素だと思っています。 

(*1)2013年2月にフロリダ州で黒人少年のトレイボン・マーティンが白人警察官のジョージ・ジマーマンに射殺された事件で、SNS上で#BlackLivesMatterというハッシュタグが拡散されたのが発端である。その後2014年から2016年にかけて、運動家であるアリシア・ガーザ、パトリッセ・カラーズ、オーパル・トメティの3名が全米各地に30箇所以上のネットワークを設立し、全国的なムーブメントに拡大させた。以降白人至上主義や、国家・自警団によって引き起こされる、黒人コミュニティに対する不当な暴力や構造的人種差別に立ち向かうことを目的とした国際的な人権運動として続いていたが、ジョージ・フロイドの事件では特に世界的に大きな広がりを見せた。

(*2)クィアとは、個人の解釈により変わるが、従来の性別やジェンダー(社会的性別)、セクシュアリティのなかに当てはまらない人の総称

(*3)ジェンダーレスとは、ジェンダー(社会的性別)がない人のこと

アメリカで黒人でいること vs 日本で黒人でいること

Black Lives Matterムーブメントの発端となったアメリカと彼女が現在住んでいる日本。2ヶ国で黒人として生きてきた体験とはそれぞれどのようなものなのか。

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アメリカでは、何もしていないのに警察官に拘束され銃を向けられた友人などがいるなか警察官との出来事が一回しかなかった自身を「ラッキーな方」だと彼女は話す。

その出来事が起こったのは大学に入学して最初の週だった。大学内でスピードを出しすぎているパトカーが横断歩道を渡ろうとしていたJaimeにぶつかりそうになった。警察官は怒って車から出て来て、彼女が法律を破ったから逮捕すると言い始めた。彼女は横断歩道では歩行者が優先なので自分が悪くないことを分かっていたためそう主張したところ「言い返す気か!警察署に連れてくぞ!」とその警察官は叫びはじめて、どうしたらいいのか分からなくなったという。そのときは白人男性の友人が間に入ってくれたので事はおさまった。

白人の背の高い友人が来て、警察官と私の間に入ってくれました。「僕を警察署に連れていってください!あなたがスピードの出しすぎでこの子を轢きそうになったことをみんなに言いますから!」と彼が叫んだからその警察官はいなくなりました。その友人には感謝しています。黒人である私には同じことはできない。

一方「日本での黒人としての体験は“興味深い”」と彼女は続ける。

道を歩いていると「くさい!」と叫ばれたり、何もしていないのに彼女の存在にびっくりし、逆上する人がいたり、時には知らない人に急に髪を触られたりすることがあったという。埼玉県に越して来たばかりの頃に、彼女の後ろを歩いていたカップルが「この辺りに黒人増えたね」と大きな声で話していたこともあった。だが彼女が見た限りではそのエリアに黒人は5人ぐらいしかいない。それは何を意味するのか。

英語を教えていた学校では生徒から差別的な言葉を投げかけられたこともあった。

日本では命の心配はしなくていいです。でも日本の場合はマイクロアグレッション*4が多かったり、人種に関して無遠慮な言動をする人がいます。英語を教えていたときに生徒が私のところにきて「先生の肌や髪はうんこみたい」と言ってきたことがありました。当時私は日本語が分からなかったけれどネガティブなことなのは分かりました。そのうち他の生徒が声をあげてくれて、他の先生が大激怒してくれた。だからそのときに声をあげてくれた生徒には感謝しています。

(*4)マイクロアグレッションとは意図的、非意図的問わず日常的で差別的な言動

日本のメディアや日本でのブラックカルチャー人気について思うこと

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Black Lives Matter Tokyoのオーガナイザーとして取材を受けることが増えた彼女に日本のメディアに対しての印象を聞くとBlack Lives Matterムーブメントの成長と共に改善されていることもあるが、日本のメディアが「黒人の声」を拾えているのか疑問に感じると話していた。

多くの批判を受けたNHKの差別的なアニメ動画ついてはマーチ中も参加者のなかでよく話題に上がったという。

NHKの動画は単に差別的なだけでなく間違った情報を流していました。どうして黒人の人に少しでも確認をしなかったのか疑問に思います。

他にもあるテレビ番組でBlack Lives Matterについてのパネルディスカッションが行われていたが、ゲストに白人至上主義として知られている著述家ジャレッド・テイラーを呼んだり、白人タレント厚切りジェイソンを呼んだりしているのには疑問を感じたという。

ジャレッド・テイラーは日本語を話せるし、ただ呼びやすいから選んだんじゃないかと想像しちゃいます。厚切りジェイソンは面白いし大好きですが、この問題について彼が細かいニュアンスなどを理解しているのかは微妙でした。日本のメディアに望むことは、私たちに光を当てて、私たちの声を拾ってくれることです。

また、東京でヒップホップなどのブラックカルチャーが人気なことに関してはどう考えているのだろうか。以前、NEUT Magazineで取り上げた日本での黒人の体験にスポットライトを当てたドキュメンタリー『Black In Tokyo』では、日本でのブラックカルチャーの人気に対してそれが「日本人によるブラックカルチャーの搾取」ではないかと、一瞬考えさせるようなシーンがあった。(ドキュメンタリーでは東京に住む黒人の登場人物たちが日本人のブラックカルチャーへのリスペクトを説明しポジティブに終わっている)

そのことに関してJaimeは、日本人のブラックカルチャーコミュニティと日本の黒人のコミュニティが「もっと歩み寄れるといい」と話す。

ブラックカルチャーの“商品化”は気になりませんが、日本でのブラックカルチャーに実際に黒人が歓迎されているのか分からないときがあります。ヒップホップナイトに行ったときなど私がそこにいることが“クール”となったとしても話しかけられることはありませんでした。カルチャーは好きだけど、そのスペースに黒人がいると居心地が悪いみたい。逆に黒人が主催してるイベントに来る日本人は少ない気がします。だからそこがもっと歩み寄れると嬉しいです。

Black Lives Matterに関して日本人が内省的になれるかどうか

黒人ではない日本人のなかにはBlack Lives Matterを受けて、ムーブメントを支援したいと思っているが個人として何ができるのか悩んでいる人もいるかもしれない。そんな人には「自分に起きないと思っていることに対して自分ごとのように考えるのは難しいし、人種差別について考えるのは悲しくて、気まずいのも分かりますが、内省的になってほしい」とJaimeは話す。

毎日気まずい思いをしている「私たちはどう感じるのか」ともし想像してみてもらえたら…内省的になれるかもしれない。今自分の頭をよぎった考えは差別的だった?見た目で人を判断してない?知らない人の肌の色について何か言うのは?いきなり髪を触ろうとするのは?差別を見たら止めに入ろう!とかそんなシンプルな問いや考えが大きな差を生むと思うんです。

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短い時間の間で広がっていたBlack Lives Matter Tokyoだが、当初はデモ行進をゴールにしていたという。しかし今は大きな反響を受け、長期的な計画を練っている。近々日本に住む黒人のクリエイターたちを集めてコラボレーションZINEを作る予定で、テーマは「Experiencing Japan through Blackness (ブラック視点から見る日本)」。そのほかにも音楽イベントやアートの展示も視野に入れている。2020年7月5日には「ブラック・ライブス・マターとは」というテーマで日本人に向けて無料のウェビナーも開催する。

Jaimeが「オバマ大統領が当選したときにアメリカでは人種差別の時代は終わったなんて言われていたけれど、黒人にとってはなんのこと?って感じでした」と取材中話していたが、日本をはじめ世界に存在する制度的で根深い差別はそう簡単には消えないだろう。Black Lives Matterを一時的なトレンドにせず、長期的に考えていくことが必要とされている。

Jaime Smith

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ブラック・ライブズ・マター東京 │ RealTalk. リアルトーク

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エピソード#1 
”ブラック・ライブズ・マターとは。”

RealTalk. は ブラック・ライブズ・マター 東京 主催のウェビナー シリーズです。このウェビナーでは人種差別や構造的な不平等などについて対話を重ねながら、これら問題について考えていきます。本シリーズでは、ステレオタイプからの脱却、人種間の平等、多様性をどう実現できるかなどのトピックスを中心に議論します。人種差別問題に光を当て、どう挑戦していくかを考えるエデュケーショナルウェビナーです。

第一回では、ブラック・ライブズ・マター 東京 のクリエイターでありメインオーガナイザーである Sierra Todd(シエラ・トッド)をはじめとするスピーカーを招き、ブラック・ライブズ・マターが彼らにとって何を意味するかについて談義を交わします。ムーブメントの歴史を紹介し、この活動の日本での重要性や、私たちに何ができるかを考えます。

ゲストスピーカー:
◆ シエラ・トッド ブラック・ライブズ・マター 東京 オーガナイザー代表、平和的行進のメインオーガナイザー、テンプル大学ジャパンキャンパス生徒
◆ ジュニパー・アレクサンダー 
ブラック・ライブズ・マター 東京 オーガナイザー、テンプル大学ジャパンキャンパス生徒
◆ ダリル・ワートン・リグビ ディレクター、プロデューサー、脚本家
◆ セラジーン ロシート 東京を拠点とするソーシャルインパクト構築家
◆ 有光 道生 (Ph.D.) 慶應義塾大学法学部准教授
◆ 福田 和香子 アクティビスト

モデレーター:
◆ ジェイロン・カーター ブロガー、教育者、ヒップホップアーティスト

翻訳
◆ ラビアナ・ジョロー
◆ 須永 茉奈美
◆ 戸沢 大秀
◆ 小澤 束桜

デザイナー
◆ アレクシン・カスティヨ・ヤップ
◆ ミカ

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言語:英語 (日本語通訳あり)
参加費:無料

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