「日本のルーツはスーパーパワー」NY育ちのLisa Remarが初アルバムに込めた思い

Text: Moe Nakata

Photos provided by Lisa Remar

2021.9.28

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 表紙にカタカナで「スティルグッド」と表示されたアルバム。日本にルーツを持ちながらニューヨークで生まれ育ったLisa Remar(リサ・レマー)のデビューアルバムだ。このアルバムには日本へのオマージュが込められており、多文化背景からの影響を感じさせる。センチメンタルだがソウルフルな歌声でリスナーを魅了する彼女にとって音楽を作ること、日本へのオマージュを込めることはどのような意味を持つのだろうか。
 今回NEUT Magazineは彼女にメール取材を行った。

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ーLisaさんの子ども時代について教えてください

ニューヨークシティーで生まれ育った日系アメリカ人として、子ども時代、周りのクラスメイトと比べると変わった経験をしたと思います。いろいろなことがあったけど、大人になってから過去のことを考えると、「恵まれていた」と感じることができるようになりました。

学校に行き始めた頃は、日本語しか理解できなくて、自分は恐ろしく周りより劣っているのだと信じていて、恥ずかしくて、他の子と接するきっかけを探すのが難しく、最初は恐かったですね。

でも偶然に、もう一人日本語が話せる日本人の子が同じクラスにいて、その子が初めての友達になってくれたことが本当に助けになりました。今でも家族みたいな存在です。
結局、心配していたけれど、英語をしっかり学んだ後、一年飛び級しました。そのお陰で、一年先に高校を卒業して大学に入学したので、その年の新入生で一番若い生徒でした。

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Lisa Remer

ー日本にルーツを持ちながらアメリカで暮らすことによって感じた悩みや葛藤はどのようなものでしたか。

ニューヨークはアメリカの中でも最も人種に富んだ街です。さまざまな人種、宗教、カルチャーが集まるなかで生まれ育ち、本当に特別な子ども時代を過ごしました。しかし、ニューヨークに住んでいても、日本人の親がいることや日本人の顔付きは変に目立った覚えもたくさんあります。人種差別のジョークを言われることは日常的でした。それを理由に、自分のルーツをなるべく隠そうとしていたことを覚えています。

ー今回のアルバムの表紙には英語でなく、日本語で「スティルグッド」と表示されています。デビューアルバムで日本へのオマージュを込めた理由を教えてください。

このアルバムは普段は人に向かって簡単に投げられないような純粋さで作った曲のコレクションです。私の人生の記録として日本へのオマージュはとても自然なことで曲の完成時点の前からずっと決めていたことでした。子ども時代と違って、今は日本のルーツをスーパーパワーみたいに見せびらかして、プライドとして前に進んでいきたいのでそれが表れているのかもしれません!

ー楽曲「Fell Into」では自身の恋愛体験を題材としているようですが、この曲にはどのような気持ちが込められていますか。

とても大人げない気持ちをなんとかまとめて書いた曲です。そのときの激しい苦しみがどうやって癒されていったのかは今でも謎です。大袈裟な人であることを暴露するような曲だけど、それでも、新しい、不思議な切ない気持ちだったのは事実で、中途半端の別れだったうえ、一人で失恋をしていたのがとても悔しくて作った歌です。

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ー他の曲も「Fell Into」のように自身の体験をもとに作られることが多いですか。

「スティルグッド」の曲は全て人生の経験をもとにして作りました。インパクトが大きかった出来事をきっかけにして、その瞬間に溢れ出た気持ちを、消える前に書き出して編集しながら作り上げました。

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FEMALE MAGAZINEのインタビューで、自身のセクシュアリティの流動性について話していましたが、その流動性を受け入れることで作品作りにどのような変化がありましたか。

「流動性」自体は人生全てに関わると思っていて、変化を受け入れることでしがらみがなくなると感じています。周りへの偏見もなくなり、世界が突然広く感じました。いろんな経験と人々に出会い、新しい自分自身を見つけることができたと思います。作品作りに変化を与えたというより、音楽を作ることで自分のセクシュアリティの流動性を受け入れられたのかもしれません。作詞作曲やパフォーマンスを通して自分の気持ちを表現する、言葉にすることが私にとって最も自然でそれ以外にアウトプットすることの方が難しいのです。なので、本当に音楽と出会えてよかった。

ープレスリリースで「言語の壁や文化の障壁だと思っていたことは新しい世界への扉だった」とおっしゃっていたことが印象的でした。同じ悩みを持つ人たちに向けて、立ちはだかる壁を新しい世界へ繋げるためのアドバイスはありますか。

あなたの存在が大切であること。宇宙の歴史で初めてそして唯一、その体と心で生まれてきた存在であるからこそ自分の特別な個性に誇りを持って、進んでいってほしい。
周りに馴染む方が合理的で安全に見えるかもしれないけど、自分の人生を生きる度胸を信じて、心配と恐怖を乗り越えたところには必ず幸せが待っているから、believe in yourself!

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Lisa Remar(リサ・レマー)

ニューヨーク生まれ、日本にルーツを持つのシンガーソングライタープロデューサー。センチメンタルだがソウルフルな歌声、ユニークなソニックの感性が特徴。レマーの音楽はリスナーをどこか親近感のある場所へと連れていってくれる。本国アメリカではすでにEarmilkやWonderland, Rolling Stone India, Billboard, Ladygunnなどがら注目を得ている。彼女のサイケデリックなサウンドスケープはアルバム全体にいき渡るメランコリーな感情を帯びさせる、Fiona AppleやLana Del Reyを初めて耳にしたときのようなエキサイトメントを思い起こさせる。レマーの音楽は、多文化背景からの影響を受け、彼女のルーツを象徴するものなのである。
Website/Instagram

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「Still Good (スティルグッド)」

ニューヨーク育ちのシンガーソングライター兼プロデューサーのLisa Remar(リサ・レマー)がLAND Inc./FRIENDSHIPとパートナーのもとデビューアルバムプロジェクト「Still Good」を2021年8月18日にリリースした。今回の日本限定リリースには、本人がファンでもあるMiyaviの「Holy Nights」の日本語カバーが収録されている。
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