セックス、生理、ピルについてオープンに話さない日本が背負う“代償”について声を上げる一人の女性

Text & Photography: Noemi Minami

2018.4.12

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「だっておかしくない?」
取材のなかでYuriがそう何度も繰り返していたのが印象的だった。

今回、東京で美容師として働くYuriが、低用量ピルを飲みはじめるまでに感じた日本の「おかしいところ」をBe inspired!に話してくれた。日本に対する不満を訴えたいわけではない。生理と共に生きるすべての人が知っておくべきことを知れていないという現状に対して彼女は不安を感じている。

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Yuri

知っていればもっとはやく改善できた

ニューヨークの美容学校で勉強をしていたYuri。6年前に日本に帰国し、新しい美容室で働き始めた。一心不乱に働いていたため、睡眠があまり取れず、食事も手抜き。ストレスが溜まり体調は悪くなっていった。あるとき、ニキビが顔中にできはじめとても悩んだという。てっきり肌の問題だと思った彼女は、肌に対する対策をするものの、あまり効果はなかった。

そして今年にはいってまたニキビができはじめて不安な気持ちを抱えていた。同時にそれまで1ヶ月ごとにきていた生理が2ヶ月、3ヶ月ごととなり、激しい痛みを感じるようになった。ひどいときは立ち上がれないほどだったそうだ。海外の友達に相談したところ、「ホルモンの問題だろうから、産婦人科に行ったほういいよ」とアドバイスをもらい、そこで普段はあまり行かない産婦人科を訪れた。

結局のところ、PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)を抱えていたのが肌のトラブルや生理不順、度を超えた生理痛の原因だった。PCOSとは、卵巣の中にたくさんの卵胞があり卵子をうまく排出できない状態のこと。これは珍しいことではなく、治療を行えば改善される。

「まずだいたいさ日本人って婦人科行かないじゃん。そもそもそういう会話もあまりない」。生理が不規則なことと肌や体の不調の関係性について知っていればもっとはやく改善できていた、と話す彼女。

「血栓とかできて死んじゃうかもしれないから安易に飲まない方がいいよ」

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自分の体の状態を考慮し低用量ピルを飲むことを決めたYuriだが、初めて低用量ピルについてネットで検索したり、まわりに相談したりしたときの反応は不安を煽るものばかりだったという。

「“血栓とかできて死んじゃうかもしれないから安易に飲まない方がいいよ” とかそういう人の方が圧倒的に多いんだよね」と友人に相談したときのことを振り返る。事実、日本の低容量ピルを服用する人の数は他国と比べても圧倒的に少ない。国連の調査によると、2015年の時点でフィンランドでは低用量ピル使用率が35.8%だったのに対し、日本では0.9%と大幅に下回る。(参照元:UNITED NATIONS

「確かに副作用とかもあるけど、ネットとかさ見ると“血栓で死ぬ”とか、そういうことしか書いてないから、誰もそんなリスクがあるのとか飲まないじゃん」と、偏った情報ばかりの日本の現状を指摘する。もちろんリスクがまったくないわけではなく、低用量ピルを飲むか飲まないかは個人の自由だが、公平な情報が与えられたうえで誰もが選べる選択肢として存在するべきである。

どっちを取るかなんて人の自由じゃん。でもその選択肢をまだ与えられていないっていうのがさ、おかしいなと思って

セックスをしないことが前提の日本

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低用量ピルについての情報が限られているのは、日本がセックスについてオープンに話す風潮がないことが関係しているのかもしれない。

日本では「ピル=セックスします」でしょ。だからピルについて話すのを避けるのは、セックスしないっていうのを日本は前提にしたいからだと思う

「今こうしてこのことについて話しているのも、まわりの人から聞いて不愉快なのかな、小声で喋らないといけないのかな」と、カフェで取材を受けていると考えてしまうと話す彼女。それでも「セックスすることが当たり前」だと、人々は気づくべきだと言う。日本の「セックスをしないことを前提とした風潮」には代償が伴うからだ。

お母さんにピル飲もうかな、なんて言ったら「なんのために飲むの!」ってなるだろうから、なんかめんどくさくて言ってない。相談できなくて苦しんでる子ってたくさんいると思うんだよね

低用量ピルという選択肢を知っていれば、もしくは気軽に相談できていれば体調を改善することができるかもしれない人が、社会の風潮を原因に情報を知るきっかけがなかったり、相談できていなかったりするのが現状なのかもしれない。さらに、たとえ情報を得て低用量ピルを飲むことを希望しても、その機会は日本では平等ではない事実も彼女は指摘する。

ピルって安いもんじゃない。でも日本の貧困層は増えてる。家はあっても給食費は払えない子とか、そういう子たちはどっからピルをもらえばいいの?おかしくない?もう学校の先生があげろよって思う

スウェーデンやイギリスをはじめとした国々では低用量ピルを無料で国民に提供している事実を考慮すると、日本にも改善できることがあるのではないかと考えられる。

生理だから我慢することが普通

風邪をひいたら病院に行くのは一般的であるのに対し、生理痛となると「黙って我慢する」のが普通なことにもYuriは疑問を持つ。

ほんとは自分の体をコントロールするってことがどんだけ大事なのかとか、そのことでどれだけの利益が自分にあるのかとかわかってない人が多いと思うんだよね。“生理痛はしょうがないものだから”ってなっているせいで

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今回YuriがBe inspired!に話をしてくれたのは、この「生理痛はしょうがない」ということに少しでも多くの人が疑問を持ち、低用量ピルなどの選択肢を知るきっかけを持って欲しいからだった。それと同時に、生理と共に生きる人以外もこの問題について誰もがオープンに話せる風潮を作ることが、少しでも苦しむ人を減らすことにつながるということを知るべきなのかもしれない。

Yuri

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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