ファッション誌に溢れる“モテ”“愛され”というフレーズから抱く「選ばれる女になる」という価値観への疑問|橋本 紅子の「常識」と「パンク」の狭間で、自由を生み出すヒント #007

Text: Beniko Hashimoto

Photography: Jun Hirayama unless otherwise stated.

2017.12.22

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2ヶ月に1度美容院へ行くと、脇にある机に2〜3冊のファッション雑誌が用意される。

客の年齢や服装から美容師がこちらの好みを判断し、合いそうなものが用意され、私の場合大体いつも20代後半〜30代向けの少しモード目なのが一冊と、ピンクやベージュがベースの甘めで「女の子らしい」表紙のものが1〜2冊そこに置かれる。

雑誌なんて長いこと自分で買っていないし、アパレル販売を辞めてからはトレンドのアイテムも意識しなくなったから、「今はこういうのが人気なんだ」とか「これ可愛いな」とか、新しい情報に刺激されるのは楽しい。

ただひとつ引っかかるのは、どの雑誌を読んでいてもほぼ確実に登場する「モテる」という言葉。

こんにちは、紅子です。今回の連載のテーマは「モテる」について。まず「モテるってなに?」という疑問の答えを探すため、辞書を引いてみました。

も・てる [2] 【持てる】
( 動タ下一 )
〔「持つ」の可能動詞から〕

① 人気があって,ちやほやされる。
「女に-・てる男」
② 長くその状態を保つ。維持する。もちこたえる。
「共通の話題がなくて座が-・てない」

(三省堂 大辞林より)

これだけ見てもしっくりこないので、まずは美容院の雑誌で感じたことから綴っていきます。

▶︎過去の連載記事はこちらから。

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必ず登場する“男に選ばれるため”の3大ワード。

美容院の雑誌を読んでいて、いつも私が引っかかる3大ワード。それは「モテニット」、「愛されメイク」、「男ウケリップ」といった類の“男に選ばれるため”のフレーズだ。

もともと販売員をしていたのだが、その時私が働いていたのはまさしく雑誌で言うところの「モテ系」の服を扱うブランドで、店の服が掲載されるのはいわゆる「赤文字系」とか「コンサバ系」と呼ばれる、「愛され女子になるための秘訣」みたいなのがキラキラしたフォントで山ほど書かれた雑誌だった。

ある月の掲載誌に、こんなことが書いてあった。

「イケメン男子に聞いた!残念女子のNG行動」というタイトルが大きくプリントされたページ。そこには、「女の子のこのメイクは許せる」「この服装は許せない」「ヒールは○○cm以下が条件だね」などなど、なぜか女の服装や振る舞いの合格・不合格について、上から目線で語る男たちへのインタビューが数ページに渡り組まれていた。そして、ページの最後に結ばれていたのは編集部から読者へ向けた「これをしっかり参考にしようね」というメッセージ。

ちなみに、そのページで女の子のアリ・ナシをジャッジしていた「イケメン」というのは、高学歴で商社やメーカーに勤めている、いわゆるエリートと呼ばれる数名の男たちのことで、もはやエリートであれば謎の上から目線で女を格付けしようが当然許される、むしろ「貴重なアドバイス!」くらいの書かれ方をしていたことに唖然とした。

こういうことが書かれているのは女性向けの雑誌だけなのか?と思い、メンズ雑誌に一通り目を通してみたが、見た限りでは「女ウケのための」「愛され○○」といった言葉は見つからなかった。代わりに見つけたのは「彼女をモノにするための○○」という文言。当たり前すぎて書くのも嫌だけど、女はモノじゃない。

日常のひょんなところに溢れている「女が男に選ばれる」瞬間

先週の土曜日に女友達と二人で飲みにいったときのこと。どこにでもあるような普通のバーだったが、たまたまその日はサッカーの試合だったらしく、店内はスポーツバーと化していてとても騒がしかった。

そんな雰囲気のなか私たちが二人で話してると、やたらとナンパ目的の男たちが声を掛けてきた。「彼氏がいるから」と指輪を見せると(友達はこういう面倒くさい場面に備えて、周到に薬指にはめるカモフラージュのための指輪を用意していた)、声をかけてきたうちの何人かがこう言った。

「えーナンパ待ちじゃないならなんでこんなとこきてんの?」
「彼氏いるのになんで飲みに来てんの?」

一体いつからバーは男のための場所になったのか。

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夏に海へ行ったときも似たようなことを経験したけれど、ほんの少し胸元の開いた服や丈の短いスカートを履いていれば見ず知らずの人間からいきなり「セクシーだね」「誘ってんでしょ?」とか、もう本当に、ごく普通に道端で言われる。その異常さ。

そしてもしそういう場で、そういう格好で、「誘ってんでしょ?」と勘違いした人間が勘違いしたままに行動を起こし、こちらが性的な被害にあった場合、多くの人はこう言うのだ。

「そんな格好してたからいけないんでしょ?」
「酔っ払ってたからいけないんでしょ?」

いつまで、女は男に選ばれるための存在にされ続けなければいけないのか。その勘違いが根底になければ、セクハラ被害者を責める言葉は出てこないはず。

でも自分も「モテ文化」に染まってきたうちの一人である

だけど、私もずっと日本のこの文化のなかで、「モテ」や「愛され」という文字の横に並ぶ服やメイクを見ながら自分の「可愛い」を確立してきた。そうして今の社会で生きるにあたり、「愛され」の基準から極端には逸脱していないであろう服やメイク、年齢に該当している自分がいる。

ふと頭をよぎるのは、こうした疑問を怖じけず言えるのは、この「モテ」「愛され」という文化の、いわば安全圏のなかに今自分が収まっているからなのかもしれないということだ。

「若くて」「細くて」「可愛い」女に価値の重きを置くこの社会で、20〜30年後、若くなくてお腹が出てシワが目立つようになった「男の目線(好み)の高さに合っていない」自分が発した意見はひとつのイシューとして成り立つのだろうか。そんな不安すら頭をよぎる。

「モテ」とは、「愛され」とは、一体誰のためのものなのか?

私たちが着るものやメイクを選ぶとき、それがまず男性に受け入られられ、評価されるものであるべきだという前提が当たり前のようにしてそこに書かれている。

モテないよりモテた方が楽しい。評価されるのは気持ちいい。でも、それがあまりにも目的化されて何かとんでもない勘違いが定着していないだろうか。

BENIKO HASHIMOTO(橋本 紅子)

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神奈川県出身。音楽大学卒業後、アパレル販売をしながらシンガーソングライターとして活動を続ける。2015年5月に結成されたSEALDs(=自由と民主主義のための学生緊急行動)に参加しSNSやデモ活動を通して同世代に社会問題について問い掛けるようになる。

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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