「ルーツのないタトゥー」を彫る若者たち

2016.8.15

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2020年、東京で開催するオリンピックに向けて、いくつかの課題点のひとつに挙げられているのが「刺青(いれずみ)」。

将来、海外の刺青にオープンな旅行者たちが快く日本に滞在するには、温泉やプールなど、刺青をしている人の入場を禁止している施設が問題になるだろう。

日本ではいまだに「刺青=闇の世界」というイメージが根強く存在するが、そもそもどうしてこんなにも刺青に対してのネガティブなイメージが定着しているのか?

実は「江戸時代」の“ある人々”が理由だった。

法を犯したら顔面に「犬」と彫られる「江戸時代」

“ある人々”とは罪人のこと。江戸時代には刑罰として囚人の額や腕に黥刑(げいけい)と呼ばれる刺青を入れていた。

黥刑は古くから中国に存在した刑罰で、左腕の上腕部に一周する線を1本か2本入れるのが一般的だ。

また、地域によっては、罪を犯すごとに段階的に「一」「ナ」「大」「犬」と額に入れていき「犬」の後は死刑、というしきたりもあったのだとか。そのため、「刺青をしている人=闇の世界」という関連性が生まれたのだ。

江戸時代の囚人たちのなかには、刺青が入っているということを恐喝などに利用していた者もいたという。これは後のヤクザの刺青のあり方につながっているのかもしれない。

ヤクザは全身の和彫りがトレード・マーク。これは一般人に対する威嚇の意味や、団体に対する忠誠心の意味があると言われている。

そんな歴史的背景を考えれば、罪人やヤクザを思い起こさせる刺青に対して日本人がネガティブな印象を持つのは想像できる。

日本の伝統刺青=「生き方」

世界中の刺青好きのなかで伝説的な彫り師として知られている、参代目彫りよし氏が日本の伝統的な刺青について語っている動画が存在する。

※動画が見られない方はこちら

彫りよし氏は、刺青の魅力は「芸術と精神」の両面を兼ね備えているところだと話す。精神とは、男らしさであったり、遠回りしをながらも学ぶ余分な知識であったり、そういったところにあるという。

近頃は、若者の間でファッション感覚で入れる刺青が流行っているため、気軽に入れる人が多い。通称「ファッション・タトゥー」。そんな刺青のポピュラー化は刺青への冒涜だと、彫りよし氏は言う。

一般化してはいけない。刺青は特殊な世界の人たちのなかにあってこそいいもんであって、刺青が茶の間に進出することは、刺青に対する侮辱である。美がなくなる。刺青に対する美がなくなる

また、「裏の世界」に存在するからこその魅力があるとも語る。

精神的なものの裏付けがあって、初めて刺青も光るわけなんでしょ。そこには光があっちゃダメなんだよね。刺青もやっぱり影の部分がないと、光がない

この世界では刺青とは人間の「生き方」であり、刺青を入れるということは、裏の世界で生きるという「覚悟」を表しているのかもしれない。

しかし、彫りよし氏の言う通り「ファッション・タトゥー」は「刺青」への冒涜なのだろうか?日本の「伝統的な刺青」と「ファッション・タトゥー」は全く社会的背景が異なるため、比較することはできないと考えることもできる。

小鳥、バラ、ハート。「カワイイから」入れる「ファッション・タトゥー」

今、日本の若者の間で刺青が流行っている。

テレビでも女性タレントや歌手が刺青を入れていたり、「今の若者の声」を代表する人気ラッパーKohhは「タトゥー入れたい」という曲をリリースしているぐらいだ。

この日本の若者の間でのタトゥー人気は欧米のカルチャーに影響を受けていると言えるだろう。アメリカでは、15歳から25歳の25%もの若者がタトゥーを入れている。(参照元:Doctissimo

その理由は、スポーツ選手やアーティストの影響。スポーツや芸術の場は、比較的に階級や文化的背景が様々な人が集まる業界だから、タトゥーを入れている人が多い。

たとえば「危ない地域」出身のアーティストが、生まれ育った環境に影響されてタトゥーを入れていたとする。周りにいる、違う環境に育ったアーティストもそれに影響され、タトゥーを入れる。

それを見たそのアーティストのファンもタトゥーを入れる。シンプルなサイクルだが、このような過程を経て、タトゥーは一般化していったのだろう。

そう考えれば、この過程を経て日本の若者が入れる「ファッション・タトゥー」は日本の「伝統的な刺青」のように歴史的背景があるわけではなく、闇の世界に『ルーツのないタトゥー』であり、純粋な自己表現なのだ。だから、日本の「伝統的な刺青」も「ファッション・タトゥー」も一括りにしてしまっている日本の現状はおかしいのではないだろうか。

脱!時代遅れな「刺青差別」

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実は、タトゥーの規制が徐々に変わり始めている日本。

2020年の東京オリンピックへ向けて、多くの外国人観光客が見込まれることもあり、「Tattoo Spot」によると刺青の入った人を受け入れる施設は全国1600箇所へと増加しているのだ。

また、観光庁は刺青規制の緩和を目指し、刺青を入れている人に向けて受け入れを前提に「入れ墨(タトゥー)がある外国人旅行者の入浴に際し留意すべきポイントと対応事例」というマナー勧告を出しているという。

冒頭で述べたように、日本の刺青の歴史的背景からついつい「闇の世界」を連想してしまうタトゥー。

しかし、「闇の世界」とはまったくリンクしていない若者たちの自己表現である『ルーツのないタトゥー』が日本で増加していることを考慮すれば、一概に「刺青禁止」とするのは、時代遅れなのではないだろうか。

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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