高校卒業後、美大ではなく、職人に弟子入り。“漆(うるし)”という未知の世界にのめり込んだ23歳の女性|EVERY DENIM山脇の「心を満たす47都道府県の旅」 #007

Text: YOHEI YAMAWAKI

Photography: ERU AKAZAWA

2018.10.30

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こんにちは!EVERY DENIMの山脇です。EVERY DENIMは僕と実の弟2人で立ち上げたデニムブランドで、2年半店舗を持たず全国各地でイベント販売を重ねてきました。 2018年4月からは同じく「NEUT」で連載を持つ赤澤えるさんとともに、毎月キャンピングカーで日本中を旅しながらデニムを届け、衣食住にまつわるたくさんの生産者さんに出会い、仕事や生き方に対する想いを聞いています。

本連載ではそんな旅の中で出会う「心を満たす生産や消費のあり方」を地域で実践している人々を紹介していきます。

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▶︎山脇 耀平インタビュー記事はこちら

今回ご紹介したいのは、石川県輪島市で職人として漆器づくりに携わる今瀬風韻(いませ かざね)さん。高校卒業後、地元を離れて輪島にやってきた彼女は、産地としても業界としても珍しい若き女性職人です。

古くは室町​時代から続く「輪島塗(わじまぬり)」と呼ばれる漆器。長い伝統をいかにして今に引き継ごうとしているのか、お話を伺いました。

漆を学びに一大産地・輪島へ

和食関係の仕事に就く母の影響で、小さいころから器が身近な存在だったという今瀬さん。1995年生まれの彼女が地元・愛知県の高校を卒業し、輪島にやってきたのは3年前のことだ。そのきっかけは高校時代。はじめは美大への進学を考えていたという彼女だが、受験勉強をしていく中でたまたま漆器について学ぶ機会があった。

もともと器には関心が高い方だと思っていたのですが、漆器については学ぶことすべてが新鮮で、未知の世界でした。そこからどんどん、漆という素材の魅力や奥深さに興味が湧いていったんです。そしていつの間にかこれに携わることを仕事にしたいと思うまでになりました。

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今瀬風韻​さん

進路先を美大ではなく、漆についてより専門的に学べるように定めた彼女は、漆器の一大生産地である石川県輪島市に研修の機関があることを知る。「輪島漆芸(しつげい)技術研修所」という県が設置するこの施設は、主に以下のことを目的に運営されている。

当研修所は、重要無形文化財保持者(人間国宝)の技術伝承者養成とそれに関連する漆芸技術の保存育成、調査研究、資料収集等の事業を行うため、文化庁の助成を得て石川県が設置しています。技術伝承者養成はそ地(木工)、きゅう漆(うるし塗り)、蒔絵、沈金についての研修を普通研修課程(3ヵ年)で行い、基礎技術の修得のための研修(未経験者対象)を特別研修課程(2ヵ年)で行っています。(引用元:石川県ホームページ

今瀬さんはここでしっかりと、漆器のつくりかたについて学んだのだった。基礎中の基礎から教わることのできるこの研修所でものづくりのスタートを切った。

人間国宝の技術伝承を目指して5年間に渡って通い続ける生徒や、途中で辞めてしまい漆とは異なる業界に就職する人も多い中、彼女は施設を2年で卒業し、職人として現場で働くことを決意した。

職人を志し、直談判で入社

就職先として門戸を叩いたのは、在学中から存在を知っていた「輪島キリモト」。産地の中で200年以上に渡りものづくりを行ってきた歴史ある当社は、現在の代表・桐本泰一(きりもと たいいち)さんで7代目。

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「高級品」のイメージがあった漆器に対して、コーヒーカップや名刺入れのような、日用品として若い人でも身近に使える製品の開発をしたり、建築の内装としての用途を追求するなど、漆において伝統を重んじながらも革新を続ける輪島キリモト。

この会社に惚れ込んだ今瀬さんは、直談判で入社の切符を勝ち取った。

本格的に職人として生きていきたいと思った時に、輪島キリモトは魅力的な会社でした。当時、正式に採用の募集があったわけではないのですが、会社に「入れてください!」と直談判しに行って(笑)

社内に同世代と呼べる人間は、社長の息子・桐本滉平(きりもと こうへい)さんの他におらず、職人としては唯一の20代。未来を期待され入社したものの、求められるのは常に高いレベル。親方の横について技術を学びつつ、腕を磨く日々が続いている。

研修所時代は一ヶ月かけてやっていたことを、ここでは一週間で仕上げなければいけません。やはりそれだけものづくりの現場というのはスピード感を持ってやっている。私は決して手作業が速い方ではないので、入社したてのころは苦労しました。

取材時には重箱の製作に取り掛かっていた今瀬さん。木に布地を貼り合わせ、上から漆を塗っていく工程を手際よく進めていた。わからないところがあれば、隣に居る親方にすぐ質問。優しく親切に答えてくれるそうだ。

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つくり手から伝え手への意志

職人として「つくり手」の技も磨きつつ、実は販売にも興味があるという彼女。「最低4年間やって一人前」と言われる業界の中で、いずれは「伝え手」としても活動していきたいと話してくれた。

日常づかいするアイテムとして、決して安いとはいえない漆器。なぜその価格なのかを「使い手」であるお客さんに説明するためには、ものづくりについての確かな知識はもちろん、何よりも誇りが必要であると筆者は考える。

届ける側の姿勢、自分たちは納得のいくモノをつくり販売しているんだというプライドを持って製品を販売することが、モノに特別な意味と価値をもたらす。

この連載で登場した生産者さんたちにも共通する哲学であり、生産から販売まで自分一人で手がける人たちの、大きな魅力の一つだろう。そして、職人としてまさに生産に従事する今瀬さんだからこそ語れることはたくさんあるはず。

同意を求めるつもりで最後にそう伺うと、彼女はこう話してくれた。

いまはまだ、4年間の弟子の時間を大切にしたいです。職人になりたいって決めて覚悟持って始めたので。一人前になって、技術と経験に自信持ってから販売の現場に立ちたいです。輪島キリモトは職人一人一人の意見を尊重してくれますし、学ぶだけじゃなくて自分から新しいモノを提案できるようこれからも頑張ります。

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「20代前半というめちゃくちゃ若い女性の漆塗り​職人が輪島に居るんです!」

そう紹介を受けたとき、すぐに話を聞いてみたくなりました。そして勝手ながら、とても寡黙な方のイメージを持っていました。

数ヶ月後、念願が叶いお話を伺うに至った今瀬さん。想像よりもはるかにお話が上手で、明るくて、誤った固定観念を抱いていた自分を本当に恥ずかしく思いました。

多分彼女がこれだけ明確に、自身のことや輪島のこと、漆の将来を語ることができるのは、まだ若い人生にもかかわらず、たくさん考えてきたからなんでしょう。思考の深さは言葉をシンプルにし、一つ一つのフレーズが僕の胸にスッと入ってきました。

女性だからどうとか中途半端には語りたくはありませんが、やっぱり職業選択において、職人という生き方を女性がとるのはめずらしい。彼女自身も道を切り開いたし、彼女を受け入れ、ともに進んでいくことを決めた輪島キリモトという会社にも覚悟を感じました。

きっとそんな風に、時代の中で覚悟を見せた人たちが未来の当たり前をつくっていくんだろうなと、きっと近い将来に「女性」職人なんてカッコつきはなくなるのかなと。

うっとりと、見とれてしまうような美しい漆器たちの奥を覗けば、たっぷりと、溢れてしまうような熱い想いの人たちがいました。

今瀬 風音 / Kazane Imase

 1995年生まれ。愛知県稲沢​市出身。地元の高校卒業後、漆器の一大生産地・石川県輪島市の研修所で漆器づくりを学ぶ。卒業後「輪島キリモト」に入社。20代唯一の漆塗り​職人として日々奮闘中。

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山脇 耀平 / Yohei Yamawaki

TwitterInstagram

1992年生まれ。大学在学中の2014年、実の弟とともに「EVERY DENIM」を立ち上げ。
オリジナルデニムの販売やスタディツアーを中心に、
生産者と消費者がともに幸せになる持続可能なものづくりの在り方を模索している。
繊維産地の課題解決に特化した人材育成学校「産地の学校」運営。
2018年4月より「Be inspired!」で連載開始。
クラウドファンディングで購入したキャンピングカー「えぶり号」に乗り
全国47都道府県を巡る旅を実践中。

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