「店をやる理由に立ち返ったり、この仕事をより自分の生きることと結びつけて考えるようになった」|コロナ自粛中、「OPEN BOOK」店主・田中開

Text: Renna Hata

Main Visual: Joséphine Grenier
Images provided: Kai Tanaka

2020.7.20

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新型コロナウイルスの感染拡大を防ごうと始まった「自粛生活」。緊急事態宣言の全面解除が発表されたものの、第2波、3波を心配する声もあり、まだ手放しには喜べない状況だ。「新しい生活様式」を模索しつつ、これからも自粛を余儀なくされそうな予感がする。

やりたいことがやれない、行きたいところへ行けない、会いたい人に会えない…全ては互いの命を守るためと分かりながらも、今までのようにはいかないストレスにイライラが募ることもあったかもしれない。

欲求・欲望を、以前のようにはむき出しにすることができなくなった今、皆、自分の “欲”とどうやって折り合いをつけているのだろうか?
食欲、性欲、物欲、知識欲、さらに自粛生活で気がついた自分の「○○欲」について、編集者、アーティスト、本屋、学生、料理人などさまざまな立場の人に話を聞いた。

「自粛」ムードのなかで“欲”の話をするのはためらわれるかもしれない。
だけど、こんな言葉がある。
「希望──欲望と期待とが丸められて一つになったもの」(アンブローズ・ビアス)
そう、“欲”は希望へと変わる。
この「自粛生活」のなかで生まれた私たちの“欲”が、きっと新しく始まる日々への希望の光になると信じて。

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田中開

OPEN BOOK店主

Instagram

1991年生まれ。新宿ゴールデン街にレモンサワー専門のバー「OPEN BOOK」、日本橋のホテルK5内にライブラリー・バー「Ao」を経営。直木賞受賞作家の田中小実昌を祖父に持つ。雑誌「ケトル」にて「この店を見よ」連載中。

OPEN BOOK
新宿区歌舞伎町1−1−6
03-6380-3952

ティー&ライブラリーバー 青淵-Ao-
東京都中央区日本橋兜町3-5 K5内

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欲1.食欲

ー人間の三大欲求の一つで、生きるためには欠かせない「食欲」。だけど、ただ腹を満たせばいいってものでもない。今はどんな風に食欲を満たしている?

現在の、至近距離で人と触れ合ってはいけないという状態は、飲食店にとって壊滅的な影響を与えていると思う。
でも、こうした世の中の変化に、素早く、うまく対応しているお店もあるし、得てして「金太郎飴的」なお店は特に上手だ。このコロナで昨年対比で売り上げが増加したという飲食チェーンもある。

僕が懸念しているのは、これまでの日本の食文化を支えてきた飲食店が埋没してしまうことだ。

店に電話で注文して、わざわざ取りに行って、家でもまた温めるとか一手間加えないと食べられないテイクアウトって、結構、買い手を選んでしまうところもあると思う。
でも、そこら辺で美味しいものがいろいろ食べられる時代に、この店のコレが食べたいからと、その“わざわざ”をしてくれるお客さんを大事にしないといけないし、それって大事な「欲」だと感じる今日この頃。

ちなみに僕自身は、自粛期間中も開いてるお店はちらほらあったので、普通に外食もしていました。個人的には、どんな状況下でも、自分たちの「当たり前」を徹底して続けるお店はカッコいいと思う。

欲2.性欲

ーソーシャルディスタンスを保つ必要がある現在、気軽にはスキンシップがとれなくなった。もちろんセックスも。「性欲」の行き場は?

スケベを正当化したいとは思わないので、あまり語ることはないのが、別に変わらないと思う。

欲3.物欲

ーせっかく新しい洋服や靴を買っても、それを身につけて出かけることが叶わない今、「物欲」にはどんな変化が起きている?

まず、毎日外出する必要がないから何を着ようか考える必要がなくなった。「着回し」という概念が消えた気がする。変な話、まったく外出しない日は服すらいらないから……。もともと浪費家だったのでちょうどいいです。

欲4.知識欲

ー家の中で過ごす時間、一人で過ごす時間が多くなっている今、どんなことを知りたいと思い、インプットしている?

コロナに関する情報は積極的に手に入れるようにしている。
個人的な見解だけど、昨今のコロナ情報は、投資家のサトウヒロシさんの発信を追っていたお陰で助かったこともある。
そして、やっぱりカッコいいなと思ったのは、外山恒一ですね!


・アダム・スミス 「道徳感情論」

今、友人とオンラインで読書会をしていて、こちらを通読しています。
アダム・スミスは一般に、市場こそ正しいとする自由放任主義の原点とみなされていますが、実際に読んでみると彼の議論の根本には、人間が共感しあうことで育まれる道徳心があったことがわかります。
「道徳心」と「資本主義」は相い反すると思われがちな昨今、資本主義の枠内(もはや我々はそこから逃れられない)に留まりつつ、問題を解決していく手掛かりとしての「共感」について興味をもっています。

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欲5. ○○欲

ーあなたが今抱えているそのほかの「欲」について聞かせて。

僕は実を言うと、「欲」というものを直視したことがなくて。
これがしたいのにできないっていう苛立ちは、空飛ぶ車を夢みているのと一緒で、このコロナの所為で〇〇ができない!という感情があまりないんです。
コロナのお陰で手に入ったものを祝い、去っていくものを追悼するしかない。
                                    
コロナで家から出れないのがストレス、とみんな言うけれど、正直なところ律儀だなあと思う。こういうときに、外出てみれば? 人が少なくて気持ちいいよ? みたいな、不謹慎なことを気兼ねなく言いたいから、こうやって生きてきた。と、今更ながら、結果オーライな自画自賛をしてしまうのだけど、やっぱりそう思ってしまうのです……。

現在、お店の方は曜日を絞って営業しています。
再開して、店をやる理由に立ち返ったり、この仕事をより自分の生きることと結びつけて考えるようになったように感じています。

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壁一面にたくさんの本が並ぶ「OPEN BOOK」

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