「人生は誰のためでもなく、自分自身のもの」ということを、あなた自身が舞台の主人公でありディレクターであるにも関わらず、目の前のことや周りに惑わされ、私たちはつい忘れがちだ。夢を見る権利は、万人に等しく与えられ、形にすることを許されている。大人になっても。
走行距離12000Km、1年4ヶ月。自転車でアフリカ大陸を縦断し、ヨーロッパ大陸をロンドンまで漕ぎ抜けた日本人女性とイギリス人男性の夫婦の冒険は、誰かが作った社会の制限を取っ払い、壮大なスケールで自発的に生きる可能性を気付かせてくれる。
何気ないジョークから始まった「決意の旅」
大阪出身のロウ麻友さん。彼女はロンドン在住時、同じくデザイナーである夫のエリオットさんと知り合った。インド・ヒマラヤでのトレッキングや日本縦断ヒッチハイクなど、独自のアウトドア旅を共に楽しみ、愛を育んだ。その後、エリオットさんの南アフリカ・ケープタウンでの仕事のオファーをきっかけに、結婚と移住を決意。
ケープタウンの雄大な自然は、彼女を魅了した。しかし、人種差別がまだ色濃く残る現実は、想像以上だった。防犯のため自宅の門からドアまで鍵は5つ、広がるスラム街。かたや富裕層のための家の内装をデザインする日々。強烈な格差社会の矛盾に葛藤し、南アフリカ生活を終えようと決めるのは自然な流れだった。同時に「リアルなアフリカを体験せずして、大陸を離れられない」という思いも沸き起こった。
自転車旅は、朝の会話で出たほんのジョークまじりのアイデアだったが、仕事を終えたその日の夜、自ずとプランについて具体的に話し合っていた。
「あなたたち本気?」。深刻な治安問題に周囲は大反対。思いが揺らぐこともあったが、入念な準備を経て、果てしない距離を漕ぎはじめた。当面の住まいはテント。大自然は、時に過酷で、大いなる癒しでもあった。
「この旅を通じて失ったものは、物欲と身近な便利さや快適さを求める心」
自転車旅の魅力は、ガソリンなどの資源エネルギーを消費せずに済むこと。飛行機代を払えば直ぐに目的地へ辿り着けるが、自転車移動のおかげで、よりディープにローカルの日常や文化に触れることができる。
自分の目で見て感じたことが全てだと思うようになった
巨大なアフリカゾウの接近で生命の危険を感じるなど、道中は、お金をいくら払っても得られないカルチャーショックの連続。その中で、アフリカが抱える複雑な構図も、随所で突きつけられた。ネットで世界を垣間見ることは容易く、情報が氾濫する時代だからこそ、「自分の目で見て感じたことが全てなんだ」と、より強い確信を得るようになったそうだ。
この旅を通じて得たものは、世界の人々は良い人だと知ることができたこと。初対面の人の家でも、庭にテントを張らせてもらったり、道端でも、草の茂みでも、アットホームに感じられるようになった。どこにでも暮らそうと思えば暮らせる感覚です。 世間で危険と言われる地域でも、人をより信頼して、頼れるようになりました
ハードな側面もあったが、世界は思った以上にオープンでもあった。国境や人種を超えた人々との交流に心を温め、世界平和を考え、ペダルを漕ぎ続けた。
大の大人がそんな生き方をしてもいいんだ!
日本人としてではなく、地球人として生きる麻友さんは日本人へ向けてこう語る。
来年、来月、明日の自分が何をしているかさっぱり分からないことに、心配ではなく、楽しみでならない。それが私たちにとって、本当の幸せだと思う今日この頃です。人生は誰のためでもなく、自分自身のもの。大の大人がそんな生き方をしてもいいんだと、日本の人々に伝えたい
私たちが生きる世界は、目線を変えれば実は可能性しかない。目の前の仕事に取り組むことは勿論大事だが、本当の幸せはそこにあるのだろうか?明日や5年後の不安を解消するためだけに、人生がある訳ではない。麻友さん自身、日本でのOL経験がある。社会人としての葛藤を経たからこそ、自分を信じて世界を渡り歩いてきた。
明るく自分なりの人生をサバイブする彼女のナチュラルな生き方から、見えてくるもの。それは制限も閉ざす必要も実はどこにも無いこと。あるとすれば、それは誰かが勝手に作ったものだ。
現在、シルクロード経由で日本へ向かう自転車旅を計画中の麻友さん。
最初は冗談だったのに、やらないと気が済まなくなってきた!
冒険心を掻き立てられる、夢のようなエピソード満載のブログはこちら。日本では決して見ることができないスペクタクルを収めた写真や、アウトドアで使える情報を紹介している。優しく強く、真摯に「大人」を生き抜く彼女の生き様は、あなたの人生をアクティベートしてくれるはずだ。迷わずいけよ、いけばわかるさ、と。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。