日本では9割以上がテレビニュースを信頼する一方、アメリカでは6割未満の人しか信頼していない。また、日本の7割以上の人が新聞のニュースを信頼するのに対し、アメリカでは3割の人しか信頼していないという。(参照元:World Values Survay)これには日本の一般家庭の新聞購読率の高さも関係しているが、日本人の主要メディアに対する信頼度の高さがうかがえる。
トランプ氏とツイート
2017年1月20日(アメリカ時間)に就任する第45代アメリカ大統領ドナルド・トランプ氏のツイートを見たことがあるだろうか。ツイッター自体がアメリカを中心に低迷しているなか、トランプ氏は他のSNSではなくツイッターで発言をしており、アメリカとの関係を重視したいためにトランプ氏の発言に注目せざるをえなくなっている人々も存在する。例えば、トヨタ自動車は「トヨタはアメリカ向けのカローラを生産するためメキシコのバハに新工場を建設するらしいが、けしからん」とトランプ氏にツイートされ、新工場の建設を取りやめている。だが、実はトランプ氏がトヨタ自動車のグアナファト(メキシコ)に建設計画中だった新工場とバハ(メキシコ)にある既存の生産拠点を混同したようで、彼は勘違いによってトヨタを批判したことになる。(参照元:REUTERS)それにもかかわらずトヨタ自動車が工場の建設を取りやめたのは、60年もかけて築き上げたアメリカ国内での販売の歴史と実績をここで止めたくないと思ったからだろう。
こんなこともあった。トランプ氏が2015年の選挙キャンペーン中の演説で身体に障害のあるレポーターの真似をし、対立候補のクリントン氏から非難を受けた。この非難に対し、トランプは、当時の映像が残っているにもかかわらず「私は真似をしたことはない」とツイートしている。(参照元:The Huffington Post)
そして、この件に関して女優のメリル・ストリープがゴールデン・グローブ賞授賞式で「国家元首となる者が障害のある人をばかにするなんて」とスピーチすると、「ハリウッドで最も過大評価された女優め」とツイートで反撃している。(参照元:CNN.com)「大統領」という立場になる彼が、自分のしたことを認めなくていいのだろうか。
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ツイートで世間を騒がせているトランプ氏だが、調査によると彼がツイッターを使いすぎていると感じている人がクリントン氏に投票した人で79%、トランプ氏に投票した人で37%、すべての投票者では56%いる。また、トランプ氏のツイートをよく思わない人は、先ほどの順で77%、24%、49%だった。(参照元:Morning Consult)トランプ支持者ではまだ少数であるが、大統領選で投票した人々の半数が「ツイッターの使いすぎ」と答えている結果からは、トランプ氏がツイッターを使えば使うほど、彼に対する不信任率が上昇することが予測できる。
トランプ氏の「嘘」の背景
果たしてトランプ氏のアカウントでつぶやかれるツイートのすべてがトランプ氏によるものなのだろうか。実は過激な表現を使った発言のみが本人の使用するアンドロイドでつぶやかれているようで、#MAKEAMERICAGREATAGAINなどキャンペーンに関するものはアイフォンから投稿されているという。(参照元:The Washington Post)一部が別人によるものだったとしたら、ツイートの詳細な解析のできない一般市民にとって、何が本人の発言で何がそうでないのか見分けることは難しい。トランプ氏の名前で運営されているなか、誰が発言しているか実際のところわからないからだ。つまり、トランプの人物像を知ることは難しくなる。
彼は ツイートで“Dumb(ばかな)”や“Badly(ひどく)”など大げさな口語表現を使っており(参照元:The Washington Post)、自分に有利な事実を誇張するという意味で「嘘」をついている。選挙キャンペーンの演説では、世界貿易センタービルに航空機が追突したときについて「信じろ、ニュージャージー州では何千人ものムスリムが喜んでいた」と発言しているが、歓喜していた人々が数十人ほどいたという報道はあるものの、何百人や何千人という大きな規模であったとの報道は一切ない。(参照元:Daily Mail Online)トランプ支持者にとっては都合よく、誇張や嘘であったとしても民意を動かしたり現在の支持層を強固にすることに役立てばいいのだろう。
メディアの「嘘」
では、トランプをめぐる報道をしてきたメディア側はどうなのだろうか。新興メディアのバズフィードは内容の真偽が確認されていないトランプ氏とロシアをめぐる疑惑文書を発表した。ロシアがトランプ氏や共和党を支援していたことや、オバマ夫妻が宿泊したことのあるモスクワのホテルでのトランプ氏のスキャンダルが35ページにわたって記されている。事実かどうかがわからない情報を公開したことに対し、バズフィードは「アメリカ国民がトランプ氏の疑惑について自ら判断できるように」公開する必要があるという考えであったと述べている。(参照元:BuzzFeed)
本当にトランプ氏はこれほどのスキャンダルを起こしてきたのだろうか。ここで最も問題なのは、トランプ氏が記者会見でバズフィードを“フェイクニュース”と呼び、彼らに質問させない姿勢を見せていたことだ。こうしてトランプに不利な報道をすれば質問さえできなくなり、今後トランプ氏の発言の真偽を問うこと自体が難しくなる恐れがある。
このほかには、大統領選への投票を前にして大手メディアの多くが民主党の候補のクリントン氏が高確率で当選するという情報を流していた事実がある。これは大手メディアのほとんどが民主党を支持していたからで、トランプ氏が敗北するという“希望的観測”に基づく「嘘」だと考えることもできるかもしれない。
溢れる情報に対して
もうどんなにあがいてもトランプ氏が大統領に就任することは決定している。就任式を前にし、トランプ氏に投票したことを後悔している人が#Trumpgretsというハッシュタグも使って懺悔をする動きもある。だが、#Trumpgretsを紹介した記事に対してトランプ支持者は「メディアはどうにかしてトランプ氏を悪者にしようとしている」と批判しているのだ。(参照元:INQUISITR)メディア側はただ事実を伝えているだけでなく、反トランプ層を増やそうとする意図があるのだろうか。
大統領が言っていることもメディアが報道することも信じられなくなっていくなか、一般の市民はどうしていけばいいのだろうか。アメリカを例に挙げて述べているが、日本の状況も似ているというよりむしろ悪いかもしれない。なぜなら、報道の自由のランキングでアメリカが41位のところ、日本はなんと72位なのだ。(参照元:REPORTERS WITHOUT BORDERS)これは主に記者クラブに所属する主要メディアについていえることだろう。そんななかメディア側は嘘をつかず真実だと見極めたものを報道することに努め、情報の受け手は物事を批判的に見ることを今まで以上に意識するべきではないか。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。