ある一人の女性がポルノ界に旋風を巻き起こした。彼女の名前は、シンディー・ギャロップ。大企業を相手にするビジネスコンサルタントであり、バリバリのキャリアウーマンだ。そんな彼女が「ポルノ界を根本的に変えようとしている」とはどういうことだろうか?今回Be inspired!が独占インタビューを決行、直接ギャロップ氏にお話を伺った。
きっかけは20代の男の子とのセックス
ギャロップ氏が始めたのは、これまでにはなかった形のポルノウェブサイト、『Make Love Not Porn』(以下MLNP)。既存のポルノと何が違うかというと、セックスが演技ではなく、「オーガニック」なのだ。これはすでに存在する「素人」や「アマチュア」を装ったカテゴリーとは異なる。『MLNP』のキュレーターチームが、世界中から送られてきた大量の動画を最初から最後まで全て確認し、明らかに演技のものや、台本があるようなものは省く。そして選ばれた動画に出てくる全ての人の素性を確認した後、スカイプなどを使って何度も面接を行った上でウェブサイトに投稿するのだ。いうまでもなく、このプロセスと徹底性は業界唯一だ。
ギャロップ氏がこのビジネスを立ち上げるきっかけとなったのはある意味「事故」だったという。
10年ほど前、私は20代の若い男の子とカジュアルな交際をしていました。その時の個人的な体験が今のビジネスのきっかけとなったのです。彼の喜ばしいとは言えないベッド内の行為と要求に、「これどっかでみたことあるな」と気づいたのです。インターネットが普及して以来、あまりにも簡単にポルノにアクセスができるようになった上に、社会はセックスについて話さない。その結果、ポルノが若い子たちにとっての性教育の教科書となってしまっていたのです。私が経験しているのなら、多くの人が経験しているはず。みんな話さないだけなんだな、と確信しました。
そして簡易なウェブサイトから始まったという『MLNP』は世間に注目され、ギャロップ氏はTEDでゲストスピーカーとしてプレゼンテーションをした。それ以来彼女のビジネスは「個人的な責任」へと変わったそうだ。
TEDで話した時は、意図的に明確に話すことにしました。まっすぐ話さないと、オーディエンスが理解できないと思ったからです。結果的にTEDではじめて「顔面射精」と6回言った人間となりました。反応はすごかった。世界中からの大量のアクセスだけでなく、今日までの8年間、毎日メールがきます。若い人、年取った人、男、女、ゲイ、ストレート…。私は「みんな気になるけど口にしないこと」をビジネスにしています。結果的に、彼らは私になんでも言えると感じてくれている。セックスライフについて、ポルノを見る習慣について…。そのうち毎日届くメールに「個人的な責任」を感じるようになりました。このビジネスをさらに大きく、人助けができるように。そしてより効果的にしなければならないと確信したのです。
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ライバルはFacebookとYoutube
彼女のビジネスの目標は、お金を稼ぐことではない。人々がオープンに、そして正直にセックスについて話せるような社会を作ることだ。そのために彼女が確立させようとしているのが「ソーシャル・セックス」。FacebookやInstagramで日常のイベントや写真を共有するのと同じように、セックスも共有するべきだというのがギャロップ氏の主張である。
カップルがパリで旅行をしていたら、エッフェル塔の前で記念写真をとって写真をアップするのでしょう?それと同じようにその日戻ったホテルでのセックスを共有するのが「ソーシャル・セックス」。だから他のポルノサイトは敵ではないのです。私たちのライバルはFacebookやYoutube。まあ、彼らがセックスにまつわる自己表現をプラットフォーム上で許可したらですけどね。今はしていませんから。
セックスのメインストリーム化を目指すこのビジネスはイノベーティブで革命的だと言えるだろう。人々がセックスについてオープンに正直に話せるようになれば、世界は良くなるとギャロップ氏は信じている。
よく人に聞くのです。「あたなのセックスへの価値観は?」と。誰も答えられないのです。なぜならそういう風に考えるように育てられていないから。恵まれた私たちのほとんどは、親にマナーを教えられ、仕事への信念を教えられ、信頼できる人間になるように言われてきました。けれども誰もベッドの中でのマナーは教えません。でもするべきでしょう?優しさ、寛大さ、共感、繊細さ、正直さ…こういったものは、人生の他の側面で必要なのと同じようにセックスでも大切だからです。恥じることなく、気まずくなくセックスについて話せれば、親は子どもに良い性への価値観を教え、子どもたちは友達同士で話し合えるようになるでしょう。
日本の若者のセックス離れはニュースでも良く目にするが、実はアメリカでも同じ現象が起こっているそうだ。『Archives of Sexual Behavior』誌に掲載された調査リポートによると、現代の若者は親の世代よりもセックスに消極的だという。20~24歳の女性の15%は成人以降セックスしておらず、この数は1990年に比べると6%も高い。(参照元:Forbes)これもグローバルに共通するポルノによる実現不可能な見た目や行為への目標設定や、セックスについてオープンに話さない社会的風潮が関係していると言えるだろう。
オープンに話さないから、世界中の人がセックスに対してなんらかの不安があります。裸になると私たちは繊細になる。セックス・エゴとは脆いものです。だから自分が実際にセックスをしている相手にでもセックスについて話すのが難しい。もし自分が何か言ったら、相手が傷ついてしまう、萎えさせてしまうのではないかと不安を持ってしまうからです。相手をハッピーにしたいから、頑張って“合図”を読もうとする。でもその“合図”はポルノによって教えられた誤ったもの。
セックス・オリンピックだってあり。
食や芸術などと同様、セックスも国の文化に影響されるとギャロップ氏は語る。
今やグローバルに独占されたポルノの影響でセックスへの価値観が悪い意味で均一化していますが、本来国ごとに変わってくるはずなんです。だから日本、フランス、中国バージョン…バラエティーが必然的に必要になってくる。国家レベルで議論して「国家的セクシュアル・アイデンティティー」を確立するべきなのです。そのうち国々が自信を持てる共通の価値観が生まれ、国ごとにライバル心が出てきたりして!セックス・オリンピックなんてのもいいですね。日本はエロティックアートなどがすごく盛んな時期があったでしょう?またそれを取り戻して欲しい。
コンサルティングや広告の仕事で何度も日本に来たことがあるというギャロップ氏。日本は世界中でもとくに進出したい国のひとつだそうだ。しかし、業界が業界のため、中々投資をしてくれる会社が見つからないという。
また、ギャロップ氏はポルノに限らず、性にオープンで正直な社会づくりのために他の分野でも活動している。例えば、インターネットで性教育のためのプラットフォームを作ること。そして性教育のエキスパートたちがちゃんとお金を稼げるようなビジネスモデルを確立することに力を入れている。
またFacebookやInstagramなどのメインストリームのSNSでは強制的に削除されてしまうようなボディー・ダイバーシティ(体型の多様性)を促進するためのヌード写真を共有する場や、社会で真剣に取り扱われない類の官能小説などのアートを発表する場づくりにも力を入れている。
実際に、自分のセックスの様子を他人と共有するかしないかは個人の選択である。セックスが特定の人との完全に個人的なものであることに美徳を感じる人だってたくさんいるだろう。しかし、彼女が目指すのは、恥じなくていい、気まずい思いをしなくていい、正直で思いやりのあるセックスで溢れる社会。そんな社会になれば、若者のセックスレスは減り、少子化も少しずつ改善され、みんなが心地よい社会を作れるだろう。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。