2005年にYoutubeが日本に上陸して以来、この動画共有サービスは日本の若者の生活の一部になったといっても過言ではない。好きなアーティストのミュージックビデオや映画の予告をチェックする際に筆者も必ず利用している。
また、誰でも動画をあげることができるので、一般人の声を多くの人に届けていると言えるだろう。彼らは「Youtuber(ユーチューバー)」と呼ばれ、その中でも人気を集めた者は「Youtube Star(ユーチューブスター)」として、雑誌に特集されたり、テレビで自らの番組を持ったり、歌手デビューできたりする程の影響力を持っている。Youtubeは多くの人に希望とチャンスを与えているのだ。
しかし、今回そんなYoutubeが、ある人々の存在を“排除していた”と疑惑があり、欧米で問題になっている。
Youtubeに排除されているかもしれない人々の存在
そのある人々とは、「LGBTQ+」。レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィア、そしてその他様々な社会的に少数派なセクシュアリティを自身のアイデンティティとする人々のことだ。
今回、YoutubeがLGBTQ+に関連する動画に不適切フラグをつけ、「制限モード」扱いをしていたという疑惑がネット上で浮上した。制限モードは、2010年から同社が提供しはじめたシステムで、暴力やアダルトコンテンツなど「不適切」なものを対象とし、排除する。
Youtubeが公式なルールとして「一線を越えないために」に禁止しているコンテンツが以下。
ヌード、または性的コンテンツ
暴力的で生々しいコンテンツ
不快なコンテンツ
スパム、誤解を招くメタデータ、詐欺
有害で危険なコンテンツ
著作権センター
脅迫
しかし今回、声をあげたLGBTQ+コミュニティに属するYoutuberたちによると、Youtubeによって取り下げられた彼らの動画は、上記のルールを侵害していなかったという。排除されたコンテンツの中身はデートや自分のインスピレーションとなった人、またはカミングアウトについてだったそうだ。
still not fixed. one of my recent videos "8 Black LGBTQ+ Trailblazers Who Inspire Me" is blocked because of this. i'm perplexed, @YouTube. https://t.co/MrGBmPum1a
— Tyler Oakley (@tyleroakley) 2017年3月19日
まだ直ってない。僕の最近の『僕にインスピレーションを与えてくれた8人の黒人のLGBTQ+先駆者』というビデオが(制限モードのせいで)ブロックされている。どうしてなの。
LGBTQ+は「不適切なコンテンツ」?
Youtubeがどのように不適切フラグの対象とするビデオを選択しているのかは、公式に発表されていない。自動的に何かの基準に沿って選んでいるのか、人が介入しているのか、はっきりとした情報はないため今回浮上した問題は、LGBTQ+に属するYoutuberたちの実体験からの主張に基づいている。
その中でも今回、「YoutubeはアンチLGBTQ+なの?」とネット上で積極的に発信し、キーパーソンとなったのがローウェン・エレス。イギリス出身のLGBTQ+の権利を守る活動をしているYoutuberだ。彼女のビデオも40作近く排除されたという。
ローウェンのYoutubeで投稿した声明がこちら。
※動画が見られない方はこちら
Youtubeはクィア、ゲイ、バイセクシュアル、パンセクシュアル、アセクシュアル…色んなセクシュアルマイノリティーの若者たちがコミュニティを見つけられる限られた場所のひとつ。知識を得たり、自分がひとりではないってことをわからせてくれる場所…。その重要さは計り知れない。だからこそYoutubeがわざとにせよ、気にしていなかっただけにせよ、今回のことに加担したことに間違いはない。自動的に制限モードになっちゃったって主張したとしても、LGBTQ+のコンテンツが取り下げられたという事実は変わらない。Youtubeはこれに対してちゃんとアクションを取るべき。
ビデオの中で彼女は、LGBTQ+が歴史的に「変質者」のように扱われていることが問題だと語っている。今回、性的コンテンツがないものまでLGBTQ+に関する動画が「不適切」とされたのも、そこに繋がるのだろう。
また、学校の性教育でもLGBTQ+は一般的に扱われないトピックであり、そういった差別的な「制限された情報」が当事者の若者に辛い体験をさせていることも指摘した。そういった面で、本来LGBTQ+の若者たちにとって、自由に個人が自己を表現できるはずのYoutubeのようなプラットフォームが唯一のリソースだったのだ。
メディアが傷つける人々
この疑惑に対してYoutubeは以下のような声明を出した。
A message to our community … pic.twitter.com/oHNiiI7CVs
— YouTube Creators (@YTCreators) 2017年3月20日
私たちはLGBTQ+のコンテンツを配信することに誇りを持っています。LGBTQ+こそYoutubeの良さを象徴しています。規制モードは本来アダルトコンテンツを排除し、一部の規制されたモードで見たい人のために作られたものです。LGBTQ+のコンテンツは制限モードで視聴できます。しかし、センシティブなトピックに触れているものは視聴できないかもしれません。今回は混乱させてしまい申し訳ありませんでした。問題を見直しております。フィードバックと、Youtubeを包括的で全ての人が集まれるコミュニティにするための皆様の情熱に感謝を申し上げます。
Youtubeが100%意図的に、そして差別的にLGBTQ+のコンテンツを排除したのかどうかは断言しかねる。しかし、今回の一件で、彼らのような性的マイノリティにとってインターネットのプラットフォームが非常に大事だということは理解できたのではないだろうか。
欧米ではLGBTQ+のティーンエージャーの自殺率がそうでないティーンエージャーと比べて数倍高いと言われている。調査対象は当事者のセクシュアリティを周りが認知をしている時のみに限定されてしまうため、実際の数は更に高いだろう。(参照元:NHKオンライン)
イギリスのYoutuberローウェンが指摘したように、性的マイノリティに対して差別的な社会の中では情報は限られてくるために、ネット上で安全に集まれるコミュニティが大きな役割を持つ。そんな現状なのだからYoutubeのようなプラットフォームの運営者にはそういったコミュニティが安全に集まれるスペースを作る社会的責任があるのではないだろうか。インスタグラム上の女性の上半身ヌードに対する男女差別的な制限も同じことだが、本来無限の可能性を持ち、実際の社会の中で声を上げるのが難しい人々が団結できるような場所であるはずのオンライン上のプラットフォームには、より多様性を受け入れる包括的な体制を整えてもらいたい。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。