「もうニュースなんてない」情報が飽和した時代を生きるあなたへ送る、“白紙のニュースペーパー”

Text: Shiori Kirigaya

Artwork: SIDELINE COLLECTIVE

2017.5.26

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スマホを見るたび何度チェックしても次から次へとネットのニュースは流れてくる。ニュースだけではない。SNSで知り合いや友人が発信する情報も収まるところを知らない。

そんな情報が溢れに溢れた時代を、あなたはどんな気持ちで見ているだろうか。

「もうニュースなんてない」時代

ロンドンを拠点とする映像制作者Joseph Ernst(ジョセフ・エルンスト)を中心に、ヨーロッパで活動するクリエイターらで構成されたアート集団の「SIDELINE COLLECTIVE(サイドライン・コレクティブ)」は、中身がすべて白紙の新聞の『NOTHING IN THE NEWS(ニュースは何もない)』という作品を発表した。

Photo by SIDELINE COLLECTIVE
フランスの新聞「Le Monde(ル・モンド)」

私たちはスマホの画面を見るのに膨大な時間を費やす。私たちは何が起きているのか、それがどうして、どのように起きたのかを知りたがる。私たちは知らなければならないのだ。だが、空いた時間を費やして行なう、終わりのない「何か意味のあるもの」への探求から得るものは何もない。私たちは歩いている少しの時間にさえ、何かを見たり学んだり聴いたりするのに忙しく、何もしないでいるのがどのようなものか忘れてしまった。座って考えたり、頭を休めて時間を持て余したり、白昼夢を見たりすることを(引用元:SIDELINE COLLECTIVE

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アメリカの新聞「The New York Times(ニューヨークタイムズ)」

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イギリスのタブロイド紙「The Sun(サン)」

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インターネットの普及により、速いスピードで大量の情報を発信することが可能となり、世の中に出回る情報量は、2001年から2009年にかけてほぼ2倍となりその後も増え続けている。これには個人での発信が容易となったことも関係しており、人間の情報処理能力の限界を超える量の情報が流通しているのが現状だ。(参照元:総務省, Viibar

「白紙の新聞」で彼らが表そうとしているのは、情報の溢れかえった時代に対する皮肉かもしれない。情報の氾濫する時代に「ニュースはもうない」のだ。

クリエイティビティで「現代社会」に訴えるアート集団

「白紙の新聞」を手がけたSIDELINE COLLECTIVEとは、クリエイティビティで問題の解決や人々への教育をしようとするのを目的とするアート集団。

単語「sideline」には、競技場内での観客や控えの選手がいる場所や第3者という意味がある。自らを“アウトサイダー”だと考えるアーティストやデザイナー、プログラマー、ライター、クリエティブディレクター、映像製作者で構成される彼らは、その“アウトサイダー的”視点を生かして社会に訴える作品を制作しているのだ。

同アート集団にクライアントはおらず、世界に解決すべき問題やクリエイションの機会があれば意見の合いそうなブランドやメディアなどとタッグを組み、社会に訴える作品を発表する。作品を作るにも時間をかけたり実験したりと、あまりビジネス的なやり方ではないが、それで結果的にいい作品ができるという。彼らはまた『NOTHING IN THE NEWS』以外にも、メディアの問題を扱った作品を作っている。(参照元:SIDELINE COLLECTIVE

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スペインの新聞「EL PAÍS(エル・パイス)」

“フェイクニュース”とメディア不信

さて、現代のメディアと関連する他の問題といえば、“フェイクニュース”の問題はどうだろう。トランプ大統領が大統領選挙で争っていた際に、「クリントン候補に大差をつけられて敗北する」という予想をした大手メディアの多くを「フェイクニュース」と呼び、記者会見の会場に入れないようにしたことや、大統領選挙中にクリントン候補に不利な「フェイクニュース」がSNS上で拡散されたことがこの問題の発端だ。

5月22日夜(現地時間)にイギリスのマンチェスターで行われたアメリカの歌手アリアナ・グランデのコンサート会場で起きた爆発事件に関連しても嘘の情報は流れた。事件後に安否の明らかでない人の写真を家族や友人がSNSに投稿して無事を願う人々がいたが、それに紛れて事件と何ら関係のない人を行方不明者と見せかける偽りの投稿をする人たちも存在したのだ。(参照元:Al Jazeera English)私たちのような個人が物事の真偽を調べるのには限界があり、人々の情報に対する不信感が強まっても不思議ではない。

「広告」と「メディア」

広告とメディアは常に隣り合わせに生きている。紙のメディアもウェブメディアも広告を収入源としていることが多いのだ。メディアのなかでも特にファッション誌は、広告としての役割が強い傾向がある。それと関連してSIDELINE COLLECTIVEは、『ONE PAGE MAGAZINES(雑誌を1枚のページに)』と名付けた、1ページに雑誌の要素を集約した作品を制作した。

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世界的なファッション誌のフランス版「Vogue Paris(ヴォーグ・パリ)」

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イギリスのニュース週刊誌「The Economist(エコノミスト)」

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イギリスの政治・ビジネス誌「Prospect Magazine(プロスペクトマガジン)」

ニュースを扱うエコノミストと比べ、ハイファッションの雑誌であるフランス版ヴォーグには何が書かれているかわからないほど大量のブランドロゴが掲載されているのがおわかりだろうか。それはゴシップ誌に書かれているブランドロゴよりも遥かに多い。このように「広告」という情報がファッション誌に溢れ、政治やビジネスの雑誌には「国際情勢」という情報が溢れているのだ。

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イギリスのゴシップ誌「OK! Magazine(オーケー!マガジン)」

情報の増えすぎた社会に飲み込まれないようにするためには、どうしたらいいだろうか。まずは現在までに世の中の情報量がどれだけ増え、それが人間の処理能力を超越した量であると知ることが必要だ。そしてSIDELINE COLLECTIVEのように社会を外から冷静に見つめ、ときには遮断していく必要があるかもしれない。

SIDELINE COLLECTIVE

Website

『NOTHING IN THE NEWS』や『ONE PAGE MAGAZINES』など作品の購入はこちら

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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