ウィキペディアがどんな人によって書かれているか知っているだろうか?
性別はなんと男性が91%と圧倒的に多く、女性が8.5%で、トランスジェンダーの人が1%以下。そのせいで男性の視点に偏った記述が多いだけでなく、例えば、映画の説明で「レイプシーン」とするべきところを「セックスシーン」と書かれたページもあるという。
そんな現実を知り、図書館司書、学芸員、アーティスト、学生、教授たちが立ち上がった。
「信頼される史上最高の百科事典」を目指すウィキペディア
そもそも、ウィキペディアとは何だろうか。2001年にアメリカで創始されたウィキペディアは、「質においても量においても史上最高の百科事典」を作る共同プロジェクトを目指す、非営利団体が運営する無料のオンライン百科事典だ。
インターネットの利点を生かし、手軽にアクセスできるだけではなく、新しい内容の追加や誤った箇所の訂正も容易にできるようになっており、誰でも「著作権を侵害しない」、「検証可能性を確保する」、「中立的な観点から書く」、「独自研究は載せない」などの方針に賛同する人なら編集に参加できる仕組みになっているのが特徴だ。現在は296の言語でページが開設されており、340の言語が試験運用されている。(参照元:Wikipedia①, ②, ③)
データから見る、ウィキペディア編集者の構成
ではそんな「百科事典の共同プロジェクト」であるウィキペディアは、どんな人たちによって書かれているのだろう。まず、国でいうと創始されたアメリカが最も多くすべてのページの20%、次にドイツが12%、そしてロシアが7%。トップ10に唯一入っているアジアの国はインドで3%だ。日本はこのトップ10外で、正確な数値はわからないが3%以下である。また、言語は英語が52%、ドイツ語18%、それからスペイン語とロシア語が10%と続く。
性別は先述したように、男性が91%を占め、女性は8.5%で、トランスジェンダーは1%以下。また、年齢層は20代と40代以上が多く、読解できる言語は2つで、執筆に使える言語は1つ、学歴は大卒の人が最も多くなっている。
一方で、編集者の人種や宗教などについての調査は行われていないが、例えば全部で45代いるアメリカの大統領のファーストレディについては全員についての記述があるのに対し、ハイチの37代のファーストレディでは9人の記述しかないなど西洋中心主義的な面があり、人種や文化などバックグラウンドの多様性も少ないと考えられる。したがって、残念ながらウィキペディアの編集者には欧米人の男性の視点に偏っているといえる。(参照元:WIKIPEDIA EDITORS STUDY, GOOD)
多様性のない編集者によってもたらされる問題
誰でも編集に関われるウィキペディアでは、女性やその他のマイノリティの編集者が増えることが望まれている。実際のところ、女性の割合は増えてきているが、編集者になった女性のうち78%は、男性中心であるウィキペディアの編集者コミュニティから嫌がらせを受けることがあるという。7%が嫌がらせのメールを受け、4%がインターネット上でストーカーをされたようだ。このように、内容が偏るだけでなく、コミュニティの体質にもにも問題が生じている。(参照元:WIKIPEDIA EDITORS STUDY)
さらに、女性やセクシュアルマイノリティ、人種的マイノリティに配慮していない記述が多数あるのが問題だ。映画の説明で「rape scenes (レイプシーン)」が「sex scenes(セックスシーン)」や「making love(セックスの意)」と書かれていることもあり、それをレイプという表現に直しても、「レイプは中立的な言葉ではない」という理由で再び書き変えられてしまったという。このような表現の問題は、女性を含むセクシュアルマイノリティ、人種的マイノリティなどマイノリティの編集者の数を増やさなければ解決しない。(参照元:GOOD, The Atlantic)
そこで、このような女性を中心としたマイノリティの視点の欠けているという深刻な問題を知った図書館司書や学芸員、アーティストが集まり、力を合わせてウィキペディアを変えようとしている。それが、フェミニストグループ「Art + Feminism」の始まりだった。
ウィキペディアの記述を自分たちで正す「フェミニスト集団」
Art + Feminismは、主にウィキペディア上のフェミニズムや、社会の発達に欠かせないアートに関する記述を中心に増やしたり記述を改めたりする人たちのグループだ。彼女たちが開催するイベントでは、ウィキペディアを執筆したり編集するだけでなく、社会に根付いている性差別などの問題を議論する場となっている。
これはArt +Feminism が創始されたアメリカだけでなくヨーロッパ、アジアで開催されるイベントまで拡大し、多くの大学の学生やアーティスト、学者、学芸員、図書館司書、ウィキペディアの編集に携わってきた人々が参加した。2016年から2017年にかけての1年間には世界で175回のイベントを開き、2000ページを新しく追加し、1500のページの編集を行なう成果をあげている。日本ではまだ開催されていないが、ウェブサイトにイベント開催にあたってのルールなどをまとめたオーガナイザーズキットがあり、自分で開くことも可能だ。
「フェミニスト」といえば、女性の権利にばかり焦点を当てているように思う人もいるかもしれないが、実際はすべての人の平等を目指す包括的なものだ。彼女たちも排他的でないグループを目指しており、どんな性別やバックグラウンドの人でも参加できる。
ウィキペディアは論文などの参考文献としては使えないものの、webの検索結果の1番上に出てきやすいし、一定の知識を得るのに役立つからと多くの人が閲覧しているだろう。したがって、ウィキペディアの編集者のコミュニティが多様性を正しく反映するものであることは重要だ。ウィキペディアを見るとき、その記述が正しいのか疑い、自分ならどのように書くのか考え、偏った記述であると思った場合には書き換えてみてもいいかもしれない。ウィキペディアでは、誰もが編集者になれるのだから。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。