「おしゃれをしたいなら、まず痩せないといけない」。そんな言葉を耳にしたことがないだろうか。テレビや雑誌で見るモデルやタレントたちは多くの場合「痩せて」おり、洋服のブランドも大きめのサイズの展開が少なかった。
だが最近では「ぽっちゃり」した人をターゲットにしたファッション雑誌「la farfa (ラ・ファーファ)」が発行されたことを皮切りに、日本でも体型を気にせずファッションを楽しむのが一般的になりつつある。今回はそんなラ・ファーファの編集長を務める清水氏に、同誌の社会的役割について聞いてみた。
ーラ・ファーファの創刊に至った経緯を教えてください
私は創刊メンバーではないため、以下は当時の編集部のスタッフに聞いた話になります。大きいサイズは需要があるにも関わらず洋服のラインナップが少なく、プラスサイズを求めている女性たちは切り捨てられているというか、「見て見ぬ振り」をされているような印象を当時の編集部は感じていました。
そして大きいサイズに対して、ポジティブにおしゃれな服を作ろうとしているブランドが少ないことを疑問に思い、そこを押し上げてメディアに露出してその現状を訴えていきたいと考えていました。
当時はプラスサイズモデルだけを扱っているようなモデル事務所がなかったので、雑誌を作りたくても洋服を着てくれる人がいなかったことに苦労しました。“太っていること”をポジティブに捉え、武器にしていたのはお笑い芸人の方が多く、代表的なのが渡辺直美さん。彼女たちに協力してもらって、なんとか誌面を作ることができました。
ーラ・ファーファはどんな人に読まれていますか?
おしゃれをポジティブに楽しみたい20代から30代で、洋服のサイズがL~10Lまでの女性たちを中心とし、10代から60代まで幅広い層に読んでいただいています。
ーどんな世界観の雑誌を目指していますか?
ファッションのテイストについてはさまざまなスタイルを紹介したいため、一定の方向性はありません。それは、ぽっちゃり女子向けの本が弊誌しかないので、彼女たちが着たいと思うかもしれないファッションを全て見せてあげたいという編集部の想いがあります。ですので、特定の世界観を目指しているというよりは、ぽっちゃり女子の誰もが着たい洋服を見せることが使命だと考えています。
ーアメリカなど「どんな体型もポジティブに受け入れるべきという考え(body positivityやbody diversity)」に対する意識が高い国の人と比べて、日本人の体型に関する意識はどんなものでしょうか?
日本人は女性の体型に関して“痩せ信仰”が強いと感じています。それは、テレビや雑誌などのメディアで活躍しているタレント、モデルを見ればわかると思います。「痩せてかわいくなりたい、キレイになりたい」という欲求は、多くの日本人、とりわけ若い女性たちが多く抱いているように感じます。
実は日本のBMI*1の基準は、世界標準でもあるWHOが定めた基準と評価がちょっと違っていて。WHOの基準ではBMI30以上が肥満で、25~29.99の場合は標準体重と肥満の間である「過体重」と定めていますが、日本だとBMI25以上で「肥満」に分類されてしまいます*2。WHOのように、普通体型と肥満体型のグレーゾーンという認識が日本にはあまりないんですね。日本では一般的な感覚だけでなく、BMI値においても“太っている、痩せている”の違いについて、極端な見せ方をしているなと感じます。
そんな価値観を少しでも変えられるように、ラ・ファーファのモデルが「今のままでもいいんだよ」というメッセージを読者へ伝え、女性たちの味方でいるような雑誌にしようというのも、大きなテーマのひとつです。
また、アメリカでは、BMIが25~29.99の「過体重」の人の方が、標準体重の人よりも死亡確率が低いという研究結果もあります。つまり過体重がよくないとは限らないし、健康上の問題がなければ、そのままでいいということです。*3
(*1)WHOが定めた肥満判定の国際基準。 「体重(kg)÷(身長(m)×身長(m))」で算出できる
(*2)(出典:厚生労働省, AFPBB NEWS)※アジア人の場合、BMIと体脂肪率や体脂肪分布の関係が欧米人とは異なるということには留意する必要がある(参照元:国立がん研究センター)
(*3)(出典:AFPBB NEWS)
ー新しく作られた言葉「ぽちゃティブ」にはどんな意味が込められていますか?反響はどうでしょうか?
ぽっちゃり女子を「ポジティブ&アクティブ」にすることを目的とした造語です。『ぽちゃティブ』という言葉をコンセプトにし、「太っているとおしゃれをしにくいといったネガティブな部分を、ぽちゃティブになれるマインドにする」ことを目指しています。読者の中でそのようなマインドになってくれている人は少しずつ増えてきていると思います。
ー「やせている=美しい」という風潮はファッション雑誌が作ってきたものでもあると思います。ですが、同時にファッション雑誌にはそんな風潮を変えていく力があるようにも思えます。ファッション雑誌として社会にどんな影響を与えていきたいですか?
誰もが自由におしゃれを楽しんで、好きに自分を表現できる、そんな日を実現するために「ぽちゃティブ」をコンセプトにして、社会に少しでも良い影響を与えられるようにしたいです。
清水編集長へのインタビューからわかるのは、日本の“痩せ信仰”は国際基準とは異なるBMIの基準の存在や、“標準体型”と“肥満体型”の間のゾーンが設けられていないことによって信じられているということではないだろうか。したがって、何事も日本の基準だけでなく他国の基準と比較して判断したほうが賢明だ。
ラ・ファーファの社会的な役割は、「ぽっちゃり」した人自身が自分を肯定できるようにするだけではなく、日本社会を体型の多様性が受け入れられる社会へと少しずつ変化させることである。同誌が目指しているように、どんな体型の人もポジティブにおしゃれを楽しむようになれば、それにともない「おしゃれをしたいなら、まず痩せないといけない」という考え方も自然となくなっていくのではないか。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。