今世界で急増している「整形」が何か知っているだろうか。
それは目でも鼻でも、胸でもない。驚くことに「女性器整形」である。
アメリカを拠点とする国際美容外科学会(ISAPS)によると2015年度、女性器の整形を行った人の数は、世界でなんと9万5千人以上。(参照元:ISAPS)
女性器の整形とは、具体的には女性器の外部から見える部分、陰唇(いんしん)のサイズや形を変える手術である。BBCによると、イギリスでは18歳以下の美容を目的とした女性器の整形は許されていないにも関わらず、2015年〜2016年で200人以上もの18歳以下の少女たちが手術を受けたそうだ。驚く事に、その中で150人近くは15歳以下だったという。(参照元:BBC)欧米ほど人気はないにせよ、2016年度、日本では2,025人の女性が女性器整形を行っている。(ISAPS Media Team調べ)
このリスクの高い“流行”に心を痛め、立ち上がったのはオランダのイラストレーター、Hilde Atalanta(ヒルデ・アタランタ)。ヒルデは様々な女性器をカラフルでポップに描き、『The Vulva Gallery(ザ・ ヴァルヴァ・ギャラリー)』で発信している。今回Be inspired!は、彼女が女性器を描き続ける理由を伺った。
もともとは音大でピアノを勉強していたというヒルデ。卒業後、違う道に挑戦するためアムステルダム大学の心理学部に入学した。そのなかの授業で知ったのが、ここ数年で激増した女性器整形の問題。ショックだったと彼女は話す。
女性器整形をする女性の数の多さに不安を覚えました。自分の性器がポルノやメディアで見るような“あるべき形”ではないからといって、手術が必要だと感じなきゃいけないなんて間違っています。「完璧」を求めて多くの人がそんなことをするなんて、心が痛みます。体の最もデリケートで繊細で、本来「快感」を与えてくれる性感帯を「切る」なんて…。私はこの現象を完璧に理解することはまだできていないけれど、実際に手術を行う人の数を見れば深刻な問題な事は分かります。
自分の身体とどう向き合うか、を変えることができるのは「教育」だと彼女は考えた。そこでもともと絵を描くのが好きだったこともあり、人体についてや、身体の多様性を学べるような場として、1年前にザ・ ヴァルヴァ・ギャラリーを始めたそうだ。
「女性器の多様性」を見せたかったんです。楽しくポジティブに全ての年齢の人がアクセスできるような教育プラットフォームが必要だと思 いました。だからポップで軽いイラストで伝えることで子どもにも見せられるようにしました。実際に、高校の授業や性教育のコースで活用されています。「自然な身体」を、「多様な女性器」を見せることで、人々に人体や性器の形の多様性について学んで欲しい。そうすることで、女性器を性的ものとしてだけではなく、自然なものとして見れるようにもなったらいいなとも思っています。
女性器の絵を見るのを気まずく感じる人がいることをヒルデは理解している。「それはプライベートな問題だ」と指摘する人もいるだろう。しかし彼女は教育とは「プライベート」や「パブリック」の問題ではないと断言する。長い歴史の間で、性器はプライベートなものとして、教育の場でも隠されてきた。その結果、人々は正しい自然な女性器のイメージが持てなくなっているのだ。だからこそ、ポルノやメディアに影響されやすくなる。
もし自分の身体が普通だと、何もおかしくないと理解できれば精神的苦痛は減り、幸せと自信に繋がるだろう。それが多くの人のメンタルヘルスに良い影響を与えることは確かである。事実、ザ・ヴァルヴァ・ギャラリーへの反響はすごいそうだ。
毎日届くメッセージの量を見れば、オープンに身体の多様性について話し、教育を受ける場が人々に必要なことは一目瞭然です。多くの女性が「ザ・ ヴァルヴァ・ギャラリーを見るまで女性器に色々な形があるなんて知りませんでした」とメッセージをくれます。その時になって初めて彼女たちは自分たちの性器が普通だと知るのです。これはどれだけ教育がなってないかの証拠ですよね。子どもたちは人体について学ぶ機会がありません。もし教材にのっているとしても多様性については語られない。ほとんどの人が、2人に1人の女性の女性器の内側の陰唇が外側の陰唇よりも長いことを知りません。これは変わらなきゃいけない。
「全ての女性器は美しい」、ヒルデは世界中の女性にこのメッセージを送りたいそうだ。
全ての女性器が美しい。色々な身体のタイプがあって、髪の毛のタイプがあって、肌の色があって、色んな顔、胸、手、足…全ての人が同じものを持っているなんて誰も思いもしないでしょう。それにもし一緒だったらつまらないです。“違い”が私たちを興味深くしてくれる。どんな形でもあなたの身体は他の人のと同じくらい美しくて、大切です。あなたのコンプレックスは、あなたを特別にするもの。それは、あなたがあなたらしく、素晴らしく、美しい理由。もし私たちが「醜い」「変」と呼んでいるものを、ポジティブに見ることができるようになれば、多様性を受け入れることができるようになれば、それは大きな前進です。誰も意地悪な批判から得はしません。あなた自身をどう見るかは、あなた次第なんですよ。
性器は私たちの身体の一部。でも確かに、他のどの部分よりも生活のなかでもメディアでも隠されているから多様性について知る機会はほとんどなかったのではないだろうか。そんななかでヒルデのようなアーティストの存在は大きい。教育の欠落のせいで偏った美の基準に追い詰められ、女性器手術をする人は少しでも減るべきだ。ヒルデの作品を通して、ありのままの姿で美しいということをより多くの人が知ることができれば幸いだ。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。