「未来を担っていく若者」である私たちは物心ついたころには「失われた20年」がはじまっていて、ゆとり教育を受けて育った。この失われたといわれる「時代の産物」である私たちは成長期を終え、さとりがちな大人になりつつある。「不遇の世代」「欲がない」「内向き」など様々なレッテルを貼られることがあるが、「社会を良くしたい」と願い、立ち向かう人はいつの時代にもいるように、私たちの世代にもいる。確かに過去の世代とは違って、熱が失われがちな、引きこもりがちな、スマホと向き合いがちな世代かもしれない。でもそこから私たちのスタイルで起こすレボリューションがあるのだ。
この連載では、さとり世代なりの社会を良くする方法とはどんなやり方なのかを紹介していく。そして、イラストから執筆まで、記事製作を「失われた20年」「さとり世代」でおこなっていく。その名も『さとり世代が日本社会に起こす、半径5mの“ゆる”レボリューション』。
あなたの食の選択は世界に影響を与える
情報リテラシー、環境リテラシー、文化リテラシーなど色々な種類のリテラシーが叫ばれる時代になった。リテラシーを頭に入れておくということは生活を豊かにすると思う。では、あなたは「フードリテラシー」という言葉を知っているだろうか?フードリテラシーには様々な訳があるが、日本で議論されることは未だ少ない。アメリカのフードリテラシーセンターによると、フードリテラシーとは「自らの食の選択が自身の健康、環境、経済に与えるインパクトへの理解度」のこと。
あなたは「自分の食べるもの」がどこからきているものか、どんな影響を与えるものか知っているだろうか?
日本の食は自然と調和していた
そんな「フードリテラシーのある食生活」をベースとした活動をするのが今回ご紹介する慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(以下、SFC)の4年生、山田真輝(やまだ まさき)。
たとえば、1970年から2012年までの半世紀もしないうちに、世界の海洋生物の個体数は、乱獲や気候変動が原因で36パーセントも減少している一方、(参照元:WWF Living planet report 2016)、水揚げされた3分の1の海洋資源が捨てられている。限りある資源を獲っているにも関わらず、それを無駄にしている。「安くて」「美味しい」はもちろん大切だが、それが環境や生産現場にどんな結果をもたらしているかを考え始めなければないと思う。問題を拡大する側ではなくて解消する側に立つためには、食べ物に対するリテラシーを高めていきたい。
こう語る彼はアマゾン川の河口の町ブラジル・ベレンで育ち、幼い頃からアマゾンの自然の中で遊んでいたため、自らが育った地域の森林が破壊されることに対する悲しみから、環境問題に意識が芽生えたという。だからこそフードリテラシーにおける意識は環境に強くある。彼はそれを「環境保護」などのありきたりな言葉では表さなかった。彼の紡いだ言葉は「自然との調和」。
これまで日本人は自然と調和した、「循環を繰り返した生活」を意識して生活を営んできた。例えばお米ひとつでももったいないと思って、米ぬかやとぎ汁を利用したり、米からお酒をつくったり、最後には堆肥にして、さきのさきのさきまで循環を考えている。昔からあった日本の技術や、職人の技や文化のベースとなる考え方は自然の中の一部の人間として生み出されたものだと思う。
僕たちこそが引き継ぐべきものを選び、伝えていく世代
彼がこの日本の「循環を繰り返した生活」を伝承していきたいというモチベーションを抱くようになったのは、私自身同じ世代でありながら思いもしてなかったところからきていた。
愛知県のある味噌蔵で衝撃的な話を聞いた。杉の味噌樽を作れる職人が日本に3人しかおらず、継承者がいなければ、杉樽を使って作られる味噌がなくなってしまうというのだ。このままだと日本中で文化や技術や職人がいなくなってしまうかもしれないと感じた。だから、僕たちが日本の文化や技術、その根底に流れる思想を含めて直接生きた状態で感じることのできるを最後の世代なのかもしれなくて、同時に何を次の世代に引き継ぐかを取捨選択する世代でもあるんじゃないかなと思う。
彼の考えは食に及ばず、私たちの世代の使命までをも見出していた。
何重にも重なったフィルターによって見えなくなった食との距離
確かに、私たちはファストフード、冷凍食品に慣れ親しみ、食を簡略化したとともにフードリテラシーをも失っているように思える。
生活者と生産者の距離がすごく離れている。「距離」っていうのは物理的な距離と精神的な距離、それから季節の食べ物が年中手に入るようになり、食に季節がなくなったという時間的な距離もある。
だからこそ日本人が気づいていない食に関する事実もある。
1キロの牛肉をつくるには、約11kgの穀量が必要。世界的に食肉の需要は伸びているため、さらなる食肉生産とそれを支える穀物生産が必要とされている。さらに言えば、アマゾンの森林開拓の70%が食肉生産に起因するものだとされているんだ。でもこうやって食との距離が遠すぎて既にフィルターが何重にもかけられていて何が嘘か本当かもわからなくなってしまっている。
自分の通う大学からはじめる「食の循環」
そんな思いを持って彼はSFC近辺の農家とSFCの学食「タブリエ」を学生が繋ぐシステムをつくりだした。農家で傷がついているなどの理由で出荷できない規格外野菜を安く譲ってもらい、それを学生が学食に配達、学食では地域の野菜をコストをかけずに提供することができる。更に配達をした学生は1食無料で食べられる。生産者と、料理を作る人、そして食べる人の距離がグッと近づいた。
まだ流通の1%にも満たないかもしれないが、将来的にはSFCが地域の規格外野菜が集まるフードバンクになるかもしない。また4年間このキャンパスで過ごす学生にとって、地産地消が当たり前になれば、将来の食の選択も変わるかもしれない。
それでもなお、自分自身からはじめる、身近なことからはじめるというスタンスは人一倍持ち続けている。
外に行くと、価格を気にして、安いものを求めてしまう、でもその裏には持続的じゃないものが使われている可能性が高い。そうなるなら自分で料理するのが一番だな。
さらに彼は最近、ベジタリアンならぬ、フレキシタリンになったという。自宅で料理する時はすすんで肉や魚を選ばないが、友人と外食に出かけた時にはそのことを気にせず店を自由に選ぶ。無理をしない、自分にも持続的な努力の仕方だ。
「かっこいい食の未来」はデザインでつくれる
彼が今後フードリテラシーを広げていくために選んだのは意外にも「デザイン」の道だ。例えば日本の食の源ともいえる農業のイメージは「泥臭い」といったものが持たれがちだ。彼はそれを含めた「食」の姿をかっこよく伝えていくという。
デザインを勉強するのは伝え方を勉強するということ。何事もそうで、かっこよくないと伝わらないし、いいこと言ってもそこにデザインが伴ってないと伝わらない。
世界にかっこよくて持続的な食のスタイルが広がる未来を考えたらとってもワクワクした。
さいごに
彼は「フードリテラシー」を軸に考え方、それに対する自分の立ち位置、そして今の活動、自分のスタイル、これからやっていくことのすべてをくるくると回していた。そしてそのひとつひとつがとっても深い。食の話からはじまり、日本の伝統に掘り下げたり、その食を伝えていくとなると、デザインがどうこうという話になる。
「SFCで食の循環システムをつくった」という話を聞いて取材を申し込んだが、創造をはるかに越える深みがあり、驚かされた。一方で、深すぎるのに人を上手にその深みに連れて行く力も持ち合わせていた。もしかすると、彼は人に伝えるためにこの取材の過程でも“デザイン”していたのかもしれない。
Masaki Yamada(山田真輝)
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。