私たちは視覚的なものに影響されて生きている。その程度こそ、自分ではわからないくらいだ。道路や電車内には広告がたくさん貼られていて、見ようとしていなくても目に入ってくる。何気なくスマホでフェイスブックやインスタグラムを開けば、これまた溢れかえるほどの写真たちが。私たちが普段得ている情報は、そのように視覚的に入ってくるのだ。
自分の名前をつけた作品
若い社会派アーティストを紹介するBe inspired!の連載「GOOD ART GALLERY」。今回取り上げるのは、日々感じる「不平等」を可愛らしい色使いのイラストや立体作品で表現するロンドンのアーティスト、Alice Skinner(アリス・スキナー)だ。
彼女は、スマホやタブレット端末の画面を通して無意識にコミュニケーションが行われている時代だからこそ、「ビジュアル」で訴えることに価値を見出しているという。
ーあなたは誰?
私の名前はアリス。ロンドンに住む25歳のアーティストでイラストレーター。
ーどんなアートを作っているの?
「社会の不平等」を訴えるなど政治的な動機に基づいた、淡くてスイートなパステルカラーのアートを多く作ってる。
両手の中指を立てた「ファック・ユー」のジェスチャーが描かれている
ーアートを始めた理由は?
社会に対して言いたいことがたくさんあって、それを視覚的に訴えるのがスクリーンばっかり見てしまう時代にはぴったりだと思ったから。
(*1)声が出せないように顔につける器具
ーアートを通してどんなことを世界に伝えたい?
アートを通して、他の人が気づいていないような重要な問題を表に出そうとしてる。例えば、未だに女性を軽視する言動をとる人たちが多いとか。あとは、ただ不平等だと思ったことをアートで発信することもある。
「性差別をされたときは壊してご使用ください」と書かれている
フェミニストでアクティビストの作家マーガレット・アトウッド(Huluのドラマシリーズとなった『侍女の物語』などの作者)を指す
ー社会のなかのアートの役割ってなんだと思う?
社会の常識を疑う姿勢を見せるため。それから、あらゆるものを見苦しくなくするため。
ーアーティストになっていなかったら何をしていたと思う?
Mr Blobby*2(ミスターブロディ)になりたかった。
(*2)90年代にBBCで放映されていた深夜番組『Noel’s House Party』のキャラクター。風船のように膨らんだピンクの体に黄色い水玉柄があるのが特徴。
ー同世代の子に今一番伝えたいことは?
好きなことを見つけて、それをやり続けて、二日酔いをしていない日々を楽しんで。
ーあなたの人生のモットーは?
不平等な状況を普通だと感じているのは、迫害者の側についたのと同じだ
デズモンド・ツツ(南アフリカの有名な反アパルトヘイトを掲げた平和活動家)
彼女のモットーとしているデズモンド・ツツの言葉が書かれている
政治的な動機に基づいたアートというと、過激で攻撃的なものをイメージするかもしれない。だが、彼女が作る作品のように淡めの色使いの可愛らしいイラストだって社会への問題提起として成り立つ。
日本で増え続ける「ゆるキャラ」と呼ばれるPRキャラクター。これらも都道府県に親しみを持たせるなどの意図で作られており、アリスのように怒りがベースではないにしても何らかの政治的な目的を持っている。
ハーバード大学から「人道主義者」として表彰を受けた歌手のリアーナが描かれている
つまりビジュアル的な要素は私たちの考え方に影響を与えようという意図で発信されている場合が少なくない。また、その影響力も決して小さいものではないため、言うまでもなく目にした情報を自分で判断するためのリテラシーは必要だ。
何かを説明するときに言語がわからなくても絵や図があればわかりやすいように、問題を理解してもらうにもビジュアルアートは有用である。しかし、見る人のバックグラウンドによって捉え方が左右されることを忘れてはならない。
それらを考慮に入れなければ、せっかくのイラストも誤解を生むおそれがあるからだ。そのような視覚的なアプローチの使い方を知ってはじめて、視覚的な力を借りられるようになるのかもしれない。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。